上 下
51 / 51

最終話

しおりを挟む
「超能力? それは魔法じゃなかったのか」

「なるほど、それでそんな力を」  

「それじゃリンは古代人なのか」

 アエルたちが不思議そうに、そして納得するように私をみている。

「それで魔素のないここで力を使えるのか...... 科学を超越する力か......」

 ゼフォレイドもこちらをみすえた。

「ええ、【時間移動】《タイムリープ》したみたい。 あのとき、生物兵器に反応して、やみくもに使ったことのない力を発動し、ここに来たんでしょうね」 

「ならば教えてくれ、古代人よ。 私は間違っていたのか...... ならばなにが正しいのだ?」  

 ゼフォレイドは懇願するように聞いてくる。

「......私にもわからない。 ただ、私が知る限り人類の歴史は間違いだらけ、けれどそうして進んできた。 それでも生きている。 それだけは事実......」

「......そうだ。 魔族も人も勇者も、結局ただの哀れな人間にすぎなかった。 これからどうするかはそれぞれ己で考えることだ。 他の人間が選ぶことじゃない」

 アエルはそうゼフォレイドをみていう。

「そうね。 罪があろうとなかろうと、私たちは精一杯いきるだけだわ。 やり直すならやり直せばいい」

「ああ、そうだな。 私は母と国をあきらめたことを後悔している。 そして、やり直して国と母を救うことができた」

 ケイレスとセリナはうなづく。

「魔族としての罪を私たちも受け入れるしかないのです」  

「そうね。 そうして、生きていくしかないのですもの。 いまは生きているのだから」

 レイエルとアストエルは互いの顔をみてそういった。

「罪を負いながらか...... それでも生きていかねばならないのか......」

「そうやってさまざまな罪をおかしながら、記憶を戻す薬や魔族の理性を戻す装置、魔族を正常にする装置を少ない情報で今の人はつくり得た人たちもいる」 

 そう私がいうと、ゼフォレイドはしばらく沈黙した。

「......私は絶望感にとらわれて、罪にばかり目がいってしまっていたのかもしれない......」

 そしてゼフォレイドが目を伏せた。  

「だから、あなたが一人で罪を背負う必要はないよ。 人間すべての罪だから......」

 そういうと、ゼフォレイドは無言で大粒の涙を流した。

(私も...... )

 そう思いながら私たちは町へと戻った。


 それから半月たった。 魔族と人間は停戦し、外交関係を樹立。 お互いに人を行き来させるまでになった。

「魔族と共同でモンスターの掃討を始めていますわ」

「モンスターは強くなっていますが、かなりの土地を開拓できていますね」

 アストエルとレイエルがそういうと、ダンドンさんが頷いた。

「これから忙しくなるぞ! 魔族との取引もある」

「ええ、ここの魔族が、他の魔族に知識と技能を伝えに向かっています」

 マーメルが微笑む。

「ディラルはなんとか意識が戻ったわ。 ゼフォレイドが助けてくれたの」

 ケイレスが安心したようにいった。

「ええ、ゼフォレイドと魔封珠の解析を進めて、他の古代遺物も分析していますよ。 そのうちモンスターも克服できます!」

 フォグが笑顔でそういう。 みんなもう次へとあるきだしている。 

(私も...... 向き合うしかない)


 私はアエルと海にきていた。 アエルが急にいきたいと言い出したからだ。 夕陽で海が赤い、波打ち際でアエルがはしゃいでいる。

「リン、どうした? 浮かない顔だな。 どうしてきたかがわかったなら、いずれ帰れるはずだろ」
 
 心配そうにアエルが聞いてきた。

「......それで急に私を連れ出したのね」

「......もし、過去に帰れるなら、帰ればいい。 そしてやり直せ、お前の世界をもう一度......」

 そう真剣な顔でアエルはこちらをみている。

「そんなことをしたら未来が変わる。 アエルたちはいなくなってしまうよ」

「そうかもしれない...... でも、お前がそんなに苦しむなら...... それでもいいんだ」

 そういわれて少し言葉がでてこなかった。

「......私が苦しんでいるのは、未来にきたからじゃない。 私が罪を犯したからだよ」

「罪...... ダルグタールのことか」

「......違うの。 幼い頃の話。 異能をもった私に気づいた両親は私を恐れ嫌悪した。 それを私は催眠によって変えたんだ。 二人に愛されるようにと......」

「それが失敗したのか」 

「いいえ、彼らはそれから私を愛した...... だがそれは偽りの感情、私が彼らを変えた。 でもそれは、本当の彼らではない別の誰かにししたということ...... そう気づいた私は、能力を封じた」

「......リンが催眠を使わなかったのはそれでか、それがお前の罪か」

「それもあるけど...... 私の力ならもっと大勢の人を救えたんだ。 そして力さえ使いこなせていたら、生物兵器さえとめられただろう。 大勢の人間か苦しんでいるのを知りながら、私は全て見捨ててきた。 罪から逃げたために...... そして新たな罪をおかした」

 アエルはしばらく沈黙した。

 静寂が流れる。

「......そうだな。 お前が罪と向き合っていれば、多くの人を助けられたかもしれない。 だがその罪の結果、私たちはここにいる...... リンは私たちと共に生きている、それが事実だろ」 

 そういうと、私をみてアエルは微笑んだ。

「......そうだね。 そうだ。 そう生きていくしかない」

(この世界と共に罪を抱えて......)

 そうアエルと日が暮れていく空をみながら、私はできるだけ明日のことを考えることにした。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...