ケットシーの異世界生活

曇天

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第五十話

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「ふぅ、ひどい目にあったね。 こむぎ」

「ピィ」

 ぼくたちは疲れたまま店に戻る。 そしてこむぎと添い寝する。

「さて、ラクサをこちらでも作るとして...... あれを作ろうかな」

「ピ?」

 その日は構想をねり、次の日、前から考えていたパンの製作にかかる。

「さて、頼んでおいたものも届いてたし、まずはパンを作ってから、これを......」

「ピィ!!?」

 ぼくのもってるものをみて、こむぎが後ずさる。

「ふふっ、この間、勝手に食べたからね」

(町の食料品店でマスタードシードがあったから、つくってみたんだ)

「ワインビネガーはお酒だから、一応、米酢にしてみた。 さてあとは」

 完熟トマトを鍋の熱湯にいれ取り出し皮をむいて、きってニンニクや玉ねぎとともに細かくきる。

(ぼく、ケットシーなのに玉ねぎ平気なんだよな。 やっぱりネコじゃないからかな。 紅茶とかも、でも甲殻類はまだためしてない怖いし......)

「ベライドの支店だと、亜人が食べるものを気を遣って玉ねぎとか、お酒とか動物に危険なものは使わなかったけど...... 何が期限か一応聞いたけど人間とかわらないんだよね」

「ピィ?」

「まあ、いいか。 これを鍋にいれて......」

 へらで潰しながら、砂糖、胡椒、香草、お酢とコトコトにこみつつ、キャベツを千切りにする。 

「よし! できたケチャップ!」

 鍋でボイルしていた頼んだソーセージを取り出し、フライパンで少しやく。

 そしてつくってたパンにキャベツ、ソーセージ、ケチャップ、マスタードをかけて完成した。

「ホットドッグだ!」
 
「ピィ......」

 こむぎは匂いにつられ近づいてくるが、前にマスタードを勝手に食べてパニックになったから、躊躇している。

「大丈夫、ハチミツをいれたハニーマスタードだから」

 そういってこむぎにホットドッグを口もとにもっていく。

「ピィ...... ピィ! パクッ」

 こむぎは匂いに勝てずかぶりつく。

「ピ! ピィ~」

 美味しかったのかパクパク食べている。

「うん、少し甘いけど、ほんのり辛みもあって美味しい! 香りも香草、マスタードとケチャップ、ソーセージの匂いが食欲をそそるな」

 そのとき、扉が激しく叩かれた。

「はい、はい」

 扉を開けると、慌てたようすのアスティナさんがいた。

「アスティナさんどうしたんですか?」

「ああ、少しいいか」

「あっ、はい、どうぞ」

 部屋に招きお茶とホットドッグをだす。 アスティナさんはそれを一気に食べお茶を飲み干した。

「ふぅ、なんだこれ!? うまい!」

「そんなに慌ててどうしたんですか?」

「あ、ああ、実は......」

 アスティナさんの懐から一匹の蛇がでた。

「うわっ!」

 ぼくは後ろに飛び退いた。

「ビックリした!! なにするんですか!」

「ああ、すまん。 これはボイススネーク。 ホーリーモンスターだ」

「そうなんですか......」

(やっぱネコだ。 蛇は苦手だ)

「これは音声を覚えさせられる。 聞いてくれ」

 そういうとアスティナさんは蛇に魔力を加えた。

『聞こえるかアスティナ......』

 蛇から男の人の声が聞こえる。

『私は今、捕らえられている...... ここはどこだかわからないが、潮の匂いがする。 お前のことも狙うつもりだ。 すぐに逃げろ......』

「これは!?」

「おやじの声だ......」

「おやじ...... マフトレインさん。 捕らえられているって......」

「ああ、頼む。 おやじを...... 父を探してくれ!」

 そう頭を下げた。 ぼくはこむぎと向き合う。

「......わかりました。 でもアスティナさんは王女のところへ」

「私もいく」

「だめです! お父さんが狙われるって言ってたでしょう!」

「頼む。 連れていってくれ!」

 そう必死に頼むアスティナさんをみて、心が揺れる。

「でも、この姿と魔力を消す魔鉱石を持って隠れていてください」

 ぼくは魔鉱石を渡した。

「わかった......」

「ただ、潮の匂いだけではどこかわかりませんね。 サンセスタの近くでしょうか」

「いや、違う。 この子に海藻がついていた」

 そういって蒼い海藻の切れ端をみせた。

「これは」

「これは【青草】、この国の南、アースラント領内のライコス海で取れる珍しい海藻だ」

「アースラント...... あっ! 王女の叔父のアースラント伯爵か」

「ああ、その領内におやじはいる」

「わかりました。 まずは王女に手紙を送っておきます」

 ぼくは手紙をかくと、それをおくる。 

 アスティナさん、こむぎとアースラント領へとむかった。
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