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第四十九話
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「さて、やるか」
完成した新しい工房で早速パンを焼くことにした。
「ピィ! ピ、ピィ!」
こむぎが大きな体を揺らし、ジェスチャーでなにかを伝えようとしている。
「ん? なに? なにかつくってほしいの? えっ? 丸い、かな? 柔らかい...... あっ! もしかしてルクサのこと」
「ピィ!!」
(確かに米粉のパンはつくったことはないな......)
「よし! やってみるか!」
米粉は売っていたものを使う。 砂糖と塩をお湯で溶かし、米粉をよく混ぜ生地をつくりおく。
「多分これでいいはず...... 乾燥酵母はどうしようか。 今回はやめておこう。 ここの人たちも使ってないだろう」
生地を寝かしている間に、肉を包丁できり、叩いてミンチにしてフライパンで野菜と塩、香辛料と共に油で炒める。
「具ができた。 これ包むの難しいから生地を折るか」
棒で伸ばした生地に炒めた肉、野菜をのせ折るように包むと、鉄鍋に木箱をのせ濡れ布巾を被せ蒸した。
「よし、このくらいか」
蒸されたのを確認して取り出す。 肉、野菜、香辛料の匂いが鼻を突く。
「やっぱり膨らまないから、いまいち厚みがないが、一応できた!」
「ピィ!!」
こむぎに渡し、自分でも食べてみる。
「うん、ここで売っているものと、そんなにかわらないな」
「ピィピィ!!」
こむぎは左右に体を揺らし、喜んで食べている。
「やっぱりもう少し膨らませるのに、乾燥酵母はいれたほうがいいかも...... よし、もっと改良してこれを主軸に売り出していこう!」
それから試行錯誤して、ふんわり柔らかルクサをつくった。
【ケットシーのパン屋さん】を開くと町へとパンをおろした。 すぐにパンは評判となり売れはじめる。 もちろん主力はふんわりルクサは飛ぶように売れた。
「よく売れているようだな」
久々に城に呼ばれたぼくはサイゼルスさまにそういわれる。
「ありがとうございます」
「感謝はこちらの方だ。 あの深域だった場所が今や町へと変わり、店や畑や果樹園に人を雇ったことで、かなり潤っている」
「ええ、仕事にあぶれている人をブレストさんたちに集めてもらいましたから、特にリブレアの町の人を雇っています」
「あそこのものは人間が多い。 確かにこの国ではいきづらかろう。 他に受け入れる領主もいないからな」
サイゼルスさまは満足そうに頷いている。
「それで今日はなにかご用ですか?」
「......ああ、これだ」
そうサイゼルスさまは手紙を見せる。
「手紙ですか...... これはなんですか......」
その手紙にはぐちゃぐちゃに書きなぐった文字があった。
(呪いの文字みたいだ......)
「アシュテアさまが返せとかいていますが......」
「ああ、アシュテアがはやくお前に帰ってこいと言ってきている」
ため息をついて、サイゼルスさまがいう。
(なんだろう。 悪寒が走る...... 帰りたくないが、帰らないとまずい気もする)
「まあ、こちらの店はもうこっちのみんなでやれますから、帰ってもいいですが」
「そうか助かる。 面倒だが帰ってやってくれ。 そうしないと癇癪を起こされてはかなわん」
そうサイゼルスさまが肩をすくめる。
「と、トール...... こむぎ...... 遅いわよ......」
王都に帰り、城にはいるとすぐ部屋によばれた。
目の下にくまのあるアシュテア王女が、這うようにこちらににじりよってくる。
その異様さから言い知れない恐怖を感じる。
「リディオラさん助けて......」
「ピィ......」
「すみません...... トールどの、こむぎさん、王女も限界ですので」
そういうと目を伏せた。
「こないで...... こないで......」
「ピィ...... ピィ......」
「もふらせろぉぉぉぉ!!」
「きゃああああ!!」
「ぴぃぃぃぃぃ!!」
ぼくとこむぎは王女に、おもうさまもふられ続けた。
「ふぅ...... 危なかったわ、もふり成分が足りなくて爆発しそうだった」
「十分爆発しましたよ。 お二人をみてください」
ぼくとこむぎは、激しくもふられて毛をボサボサにされた。
「ひどい......」
「ピィ......」
「お二人ともすみません。 王女の目がバキバキになってたので、もう止められませんでした」
リディオラさんが謝る。
「仕方ないでしょ。 ここ一ヶ月は休みなしで、貴族との調整、亜人と人間との調整、他国との調整、軍事、経済の調整、調整、調整、調整、調整ばっかり! 頭がおかしくなるわ!」
「ですが、かなり国は安定してるようにみえますけど......」
リディオラさんにアクアミストできれいにしてもらった。
「ええ、前よりかはね。 ただまだ経済困窮地も多い。 特に貴族の反発がより強くなってるわ」
「貴族はガルバインさまが調整してますよね」
「ガルバインさまも貴族の説得にかなり苦労しているそうです」
リディオラさんが眉をひそめる。
「ガルバインさまが......」
「どうやら、ガルバインが、私に懐柔されたと触れ回ってるものがいるみたい」
「そんなことだれが?」
「アースラント伯爵です」
ため息をつくようにリディオラさんはいう。
「アースラント伯爵?」
「私の叔父で、父の弟、一時的に王となったけど、おじいさまに解任され、父なきあと自分が王位を継ぐものだと豪語してたけどなれなかった哀れな人よ」
「その腹いせですか」
「......そうね。 それもあるだろうけど、領地運営もうまくはいってないみたい」
「しかしながら、王女反対派の貴族たちの受け皿となっているようです」
「まあ、いいわ。 ガルバインと話し合って対策するから、あなたはパン屋をがんばって」
「はい」
「あと、たまにもふらせて」
「それはお断りします!」
そういって逃げるようにこむぎとかえった。
完成した新しい工房で早速パンを焼くことにした。
「ピィ! ピ、ピィ!」
こむぎが大きな体を揺らし、ジェスチャーでなにかを伝えようとしている。
「ん? なに? なにかつくってほしいの? えっ? 丸い、かな? 柔らかい...... あっ! もしかしてルクサのこと」
「ピィ!!」
(確かに米粉のパンはつくったことはないな......)
「よし! やってみるか!」
米粉は売っていたものを使う。 砂糖と塩をお湯で溶かし、米粉をよく混ぜ生地をつくりおく。
「多分これでいいはず...... 乾燥酵母はどうしようか。 今回はやめておこう。 ここの人たちも使ってないだろう」
生地を寝かしている間に、肉を包丁できり、叩いてミンチにしてフライパンで野菜と塩、香辛料と共に油で炒める。
「具ができた。 これ包むの難しいから生地を折るか」
棒で伸ばした生地に炒めた肉、野菜をのせ折るように包むと、鉄鍋に木箱をのせ濡れ布巾を被せ蒸した。
「よし、このくらいか」
蒸されたのを確認して取り出す。 肉、野菜、香辛料の匂いが鼻を突く。
「やっぱり膨らまないから、いまいち厚みがないが、一応できた!」
「ピィ!!」
こむぎに渡し、自分でも食べてみる。
「うん、ここで売っているものと、そんなにかわらないな」
「ピィピィ!!」
こむぎは左右に体を揺らし、喜んで食べている。
「やっぱりもう少し膨らませるのに、乾燥酵母はいれたほうがいいかも...... よし、もっと改良してこれを主軸に売り出していこう!」
それから試行錯誤して、ふんわり柔らかルクサをつくった。
【ケットシーのパン屋さん】を開くと町へとパンをおろした。 すぐにパンは評判となり売れはじめる。 もちろん主力はふんわりルクサは飛ぶように売れた。
「よく売れているようだな」
久々に城に呼ばれたぼくはサイゼルスさまにそういわれる。
「ありがとうございます」
「感謝はこちらの方だ。 あの深域だった場所が今や町へと変わり、店や畑や果樹園に人を雇ったことで、かなり潤っている」
「ええ、仕事にあぶれている人をブレストさんたちに集めてもらいましたから、特にリブレアの町の人を雇っています」
「あそこのものは人間が多い。 確かにこの国ではいきづらかろう。 他に受け入れる領主もいないからな」
サイゼルスさまは満足そうに頷いている。
「それで今日はなにかご用ですか?」
「......ああ、これだ」
そうサイゼルスさまは手紙を見せる。
「手紙ですか...... これはなんですか......」
その手紙にはぐちゃぐちゃに書きなぐった文字があった。
(呪いの文字みたいだ......)
「アシュテアさまが返せとかいていますが......」
「ああ、アシュテアがはやくお前に帰ってこいと言ってきている」
ため息をついて、サイゼルスさまがいう。
(なんだろう。 悪寒が走る...... 帰りたくないが、帰らないとまずい気もする)
「まあ、こちらの店はもうこっちのみんなでやれますから、帰ってもいいですが」
「そうか助かる。 面倒だが帰ってやってくれ。 そうしないと癇癪を起こされてはかなわん」
そうサイゼルスさまが肩をすくめる。
「と、トール...... こむぎ...... 遅いわよ......」
王都に帰り、城にはいるとすぐ部屋によばれた。
目の下にくまのあるアシュテア王女が、這うようにこちらににじりよってくる。
その異様さから言い知れない恐怖を感じる。
「リディオラさん助けて......」
「ピィ......」
「すみません...... トールどの、こむぎさん、王女も限界ですので」
そういうと目を伏せた。
「こないで...... こないで......」
「ピィ...... ピィ......」
「もふらせろぉぉぉぉ!!」
「きゃああああ!!」
「ぴぃぃぃぃぃ!!」
ぼくとこむぎは王女に、おもうさまもふられ続けた。
「ふぅ...... 危なかったわ、もふり成分が足りなくて爆発しそうだった」
「十分爆発しましたよ。 お二人をみてください」
ぼくとこむぎは、激しくもふられて毛をボサボサにされた。
「ひどい......」
「ピィ......」
「お二人ともすみません。 王女の目がバキバキになってたので、もう止められませんでした」
リディオラさんが謝る。
「仕方ないでしょ。 ここ一ヶ月は休みなしで、貴族との調整、亜人と人間との調整、他国との調整、軍事、経済の調整、調整、調整、調整、調整ばっかり! 頭がおかしくなるわ!」
「ですが、かなり国は安定してるようにみえますけど......」
リディオラさんにアクアミストできれいにしてもらった。
「ええ、前よりかはね。 ただまだ経済困窮地も多い。 特に貴族の反発がより強くなってるわ」
「貴族はガルバインさまが調整してますよね」
「ガルバインさまも貴族の説得にかなり苦労しているそうです」
リディオラさんが眉をひそめる。
「ガルバインさまが......」
「どうやら、ガルバインが、私に懐柔されたと触れ回ってるものがいるみたい」
「そんなことだれが?」
「アースラント伯爵です」
ため息をつくようにリディオラさんはいう。
「アースラント伯爵?」
「私の叔父で、父の弟、一時的に王となったけど、おじいさまに解任され、父なきあと自分が王位を継ぐものだと豪語してたけどなれなかった哀れな人よ」
「その腹いせですか」
「......そうね。 それもあるだろうけど、領地運営もうまくはいってないみたい」
「しかしながら、王女反対派の貴族たちの受け皿となっているようです」
「まあ、いいわ。 ガルバインと話し合って対策するから、あなたはパン屋をがんばって」
「はい」
「あと、たまにもふらせて」
「それはお断りします!」
そういって逃げるようにこむぎとかえった。
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