ケットシーの異世界生活

曇天

文字の大きさ
上 下
10 / 60

第十話

しおりを挟む
 次の日、昨日なんとかできた酵母液を使って、仕込んでいたライ麦からパンをつくる。

「膨らむかな......」

「きっと大丈夫。 ただ今日城で聞いたとき酵母液は、少し温度を下げておいておくとはいってました」

 そうリディオラさんがいう。

「そうなんですか! すぐ使っちゃった......」

「まあ液はまだまだあるし、次試しましょう」

「ですね」

 窯からいい香りがしてくる。 パンを取り出してみる。

「おっ! 本の少し膨らんだかな。 あと少し柔らかい。 んん、でも少し酸っぱいかな......」

「でも、普通のものよりはるかに柔らかくて美味しいですよ!」

 食べてみるとそう喜んでリディオラさんはいった。

「うん、確かに前よりはましだ。 でもやっぱり小麦粉がほしいですね。 それならもっと柔らかいパンが焼けるんですけど」

「種がかなりの高級品ですから、種を買って育てて増やすしかないですね」

「そうですね。 まずはこれを売りましょう」

「ですが、商人ギルドに所属してください」

「商人ギルド?」

「ええ、個人が販売するためには商人ギルドに所属して、許可をえる必要があるんです」

(商工会みたいなものか......)

「条件は?」

「そうですね。 えーと、確かどんな店か、店の種類、規模や経営計画を提出し、あとは開業資金ですね。 供託金を納めないといけません。 およそ1万ゴールドですね。 みなはじめは商人の元で働いて、そのお金をためるのです」

「1万ゴールドか、かなりかかるな」

(もってるお金は3000ゴールド、一日、三食食べるのに30ゴールドぐらいか)

「お金か......」

(やはり姫様の枕しか...... でも何日分かな)

 覚悟を決めようとしたとき、リディオラさんが口を開いた。

「危険ですが、トールどのがよければ仕事を紹介しますよ」

「危険ということは、モンスター絡みですか?」

 そう聞くと、少し顔を曇らせてリディオラさんはうなづいた。

「ええ、最近モンスターがとても多くなっているのです。 騎士団も一応はでているのですが、少々事情があり動かせないこともあるのです」

「すみません。 前にもきいたのですけど事情とは?」

「......そうですね。 お話ししておいたほうがよろしいか。 この国の現状が関係しております」

 そう言いづらそういうと、ため息を一度ついて、話を続けた。

「実は、前王と王妃さまが続けてなくなり、王女が後を継ぎました。 しかし、それを快く思わない貴族や重臣たちがいるです」

「それが邪魔をしている......」

「はい、ですから王女も王位を継げず、王女のまま。 騎士団も動かせません」

「なぜ邪魔をしているのです」

「もともと王は貴族、重臣などを制御し、力を削いでおりました。 民への搾取がひどかったからです。 そして王女も......」

「それが気にくわない者たちがいるということですか......」

「ええ、王女が王位につけば、あのご気性ゆえ、さらに貴族たちを締め付けるでしょう。 騎士団は貴族の階級の子息が多い。 それで動かないのです。 このまま不満が大きくなれば、民に人気のある姫の信用は失墜しますからね」

 そう眉をひそめリディオラさんはいう。

「なるほど、それならモンスターを倒したほうがいいか......」

「でていただけるなら」

「それで、どこのモンスターを倒せばいいのですか」

「西のアプサスの森にモンスターがいるらしいのです。 そう民から陳情がありました。 木こりたちが仕事できずに困っているそうです。 一応1万ゴールドの懸賞金がでます」

「それなら供託金は払える! そのモンスターは強いんですか」

「戦ったものはいませんが、話から推察するに大きな岩のような鳥のようなモンスターだと思われます」

「岩...... なのに鳥...... とりあえず、いってみます」

「私も......」

「いえ、確認にいって戦えるかどうかをみてきます。 無理そうなら
逃げますし、戦えそうなら力を貸してください」

「トールどのなら逃げ切れるか...... わかりました。 ご無理はなさらないよう」

 心配そうにリディオラさんは帰っていった。


 ぼくは次の日、西にある森へとやってきていた。

「さすがにリディオラさんにこれ以上頼るわけにもいかないしな」

(まあ戦えないなら逃げればいいのは本当だ。 ぼくの脚なら逃げきれるだろう)

「岩か...... かなり固そう。 切れるかな」

 森を歩いていく。 かなり深く進むと、大きな木に斧が刺さったままだった。

「モンスターに襲われて逃げたのか...... ならこの近くだ。 魔力感知に反応はない...... えっ?」

 一瞬暗くなった。 

「まだ日も高いのに......」

 上を見上げると、茶色い壁がある。

「岩山...... 動く! ちがう! これは」

 壁だと思っていたものは動き出した。 すぐさま走って逃げる。 

 茶色いそれは、地面を踏みしめて追ってくる。

「ぎゃあああああ!!」

 必死になって走るも、靴がネコの足に合わず転んだ。

 その茶色いものはこちらに迫った。

「も、もうダメだ......」

 そう覚悟したとき、その硬い腕らしきものにゆっくり近づく。

「えっ?」 

「ぴぃぃ......」

 そう耳に小さい鳴き声が届いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...