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第15話 磨術祭⑧ 麟《りん》

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 どれだけ死人を減らそうが、動きを止めようが、次から次へと死人があらわれ、新たな術を使ってくる。


(もう......これは......まだ僕には無理だったか)


 その時僕は、よみさんにされた話しを思い出していた。




「私達を霊力感知して、どう思った.....」


「よみさんは確かにすごい霊力を感じますけど、麟は......これは、とてつもない力を感じる......人の持つ力じゃない、これは......」


「そうだ、私は人間じゃない、物質と霊的な世界を行き来できる獣、霊獣《れいじゅう》、その中でも取り分け強い瑞獣《ずいじゅう》だ。 まあそれ例外は覚えてないんだけど......本当の姿すら」


 麟は胸を張ったと思ったら困った顔でそう言った。


「私の霊力でも、この子を本来の姿にすることは出来なかった。 でも神無君なら出来るかもしれない。 この子と契約し、君の霊力で麟を満たした時、本当の姿、そして力を目覚めさせられるかもしれない......必ず君にもこの子にもそれは必要になるわ、きっと......」


 そう言ってよみさんは僕に麟を託した。


(だが、無理だったのか)


「いーや、なんとか間に合った、名前を呼びな、神無!」


 僕の頭に麟の声が響いた。 


「目覚めろ、麟!」


 僕は叫んだ! その瞬間、僕の体は光輝き始めた。


「なんだ!? 神無ちゃんの体が光って、空中に何かが、あれは......」


 僕の胸から飛び出した光が頭上に止まると麟の姿が現れる、そして麟は一体の獣の姿に変わった。 その獣の背は五色に輝き、龍の顔に鹿の体、馬の尾に牛の蹄を持ち頭に一つの角を持っていた。


「神無様の上のあれは......霊獣いえ、瑞獣《ずいじゅう》麒麟《きりん》ですか......」


「あの麟て麒麟なのかよ......」


「麟、この結界破れるか」


「出来るかじゃなくて、やるしかないんだよ!!」


 麒麟となった麟は結界に向かって突進した。


 バチバチバチバチ!! 角が結界に触れ、落雷が落ちたような轟音が轟くと、結界にヒビが入った。 そして麟は人型に戻り落ちていった。


「今じゃ! ありったけの術式を撃ち込め!」


 水瀞理事長の号令で外の者は一斉に攻撃を集束させると、結界に穴が出きると、


「続け!!!」


 虎堂先生がそう言い、手足を虎のように変化させ、突っ込んで来ると次々と雪崩のように皆が結界に入って遺体と戦い始めた。


「神無様!」


「神無!」


 雅と灰が僕のもとに駆け寄ると、


「僕は、大丈夫......でも、麟が......」


「彼女は大丈夫ですよ、ほら」


 と乾先輩が眠ってる麟を背負って連れてきてくれた。 


「気を抜くな! まだ来るぞ!」


 そう言うと、襲ってくる死人に横から割って入り金形代君が戦っている。 他に庚先輩や、牛砂先輩も僕の周りを守って戦っていたが、数の多さで押されていた。 その時、


「結界を張れるものは全力で張れ!」


 水瀞理事長は、とても老人とは思えない声を出すと術式を唱えた。


「水行、獄海立《ごくつなみ》!」 


 何もないところから大量の水が湧き、津波が結界の穴から流れ込んだ。 波が引くと死人は全て倒れて動かなくなった。


「どんな威力だよ......あのじいさん......化け物か」


 灰の言葉を聞きながら、僕は意識が遠くなっていった。




 目が覚めるとそこは保健室のベッドの上だった。


 目を張らした雅と灰が心配そうに見つめていた。


「神無様!」


「ふう、驚かせるなよ」


「二人とも......そうだ麟は!」   


「私はここだ」

 
 そう言うと、僕の中から出てきた。


「あなたどこから!」

 
「神無と契約したから、神無の中だ」


 雅が驚いて口をパクパクさせている。 


「目が覚めたか」


 保健室のドアをノックして巽先生が開け入ってきた。


「取りあえず、今日は皆休め、土光薙の保護はこちらでする」 


「でも!」  


 雅と灰が食い下がるも、


「麟がいるから大丈夫だよ」


 と僕が言うと渋々帰っていった。


 巽先生に、僕は、


「あいつは......」


「姓 無名のことか......わからん......死人は全て封印されたが、その中にあいつがいたかは確認できない......」


 巽先生は静かに言った。


「まだ......」


「......」   


 僕が言うと先生は無言だった。


「......ここは俺達が守っている。 お前は心配せず休め、霊力もほとんど失っているからな」


 そう言って出ていった。

 
「姓 無名、あいつもだけど、裏に誰かがいる。 それに、僕にはやらなきゃいけないことがある」


「それは、かなり危険だぞ、神無」


 麟は厳しい顔でそう言った。


「ああ......覚悟してる」


 僕はそう答えた。

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