隔界記~王崩の白銀姫~

曇天

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玲国十二将

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 町の裏手で詞葉達が、戦っている頃。
 戒興山の狭い道を馬に乗り武装した者達が行列をなして通っていた。


「確かに、ここは守るに易い攻めるに難しだな」

 
 先頭の、人一人はあろうかという大剣を背にした金色の短髪の男が話すと、


「そうね、罠でもあればかなりの数の犠牲がでるわね。
 だからこそ十二将の内、蒼真に近い私達が選ばれたんでしょう」


 そう紫の長髪をなびかせた美女が答えた。


「ちっ、あの狐、陰湿なことしやがる」

「私も玄蓬殿には嫌なものを感じるけど、将としては軍規に従うしかないわ」


 舌打ちする男に女は答えた。


 二人がそう話している内に大きな門外不が見えると、
 その前に蒼真が立っているのが見えた。


 近づき二人が馬を降りると、蒼真は


「冴瑛殿の言うとおり、やはりあなた方が来られたのですね、兄様、姉様」

「ええ、玄蓬殿のことだから尖兵を送っていると思ったけど、貴女は取り敢えずは無事なようね」

「だが、分かっているな蒼真、俺達が来た意味」

「はい、詞葉様を引き渡すように、そしてこの町を焼こうと来られたのでしょう」


 その言葉に姉様と呼ばれた女は驚く、


「どうしてそこまで......
 でも心配しないで、私達が命じられたのはあなたと詞葉様の捕縛、それに町の破壊だけ、
 人を殺せとは命じられてはいないから」

「そうだ、大人しく従えば詞葉様とお前の罪の減刑を願い出るつもりだ」


 二人の話を目を閉じ聞いていた蒼真は、静かに目を開け


「兄様、残念ですが従えません」

「なっ! 戦うと言うのか! 我等は一万、裏手に五千、一万五千人、
大軍を動かせずとも、一日もあればこの町を攻め落とせるのだぞ!」

「なにか、考えがあるのかしら、でも私達はこの国の将軍、引くことは出来ないわよ、それにここを落とした後、姜国と戦うことになる。
あまり時間はかけられない」


「詞葉様も私も何一つ罪を犯してはいない。 
 兄様、姉様、いえ、
 玲国十二将、凱翔《がいしょう》将軍、麗稀《れいき》将軍
 お二方共に私がお相手します、そして私が負ければ潔く降伏しましょう」


 蒼真がそう言うと、


「お前が俺たちを二人相手にするだと、お前に武芸を教えたのは俺達だぞ」

「いいわ、二人なら怪我を負わせずに抑えられる」


 麗稀は腰の左右の細い剣を抜き両手に構えた。
 仕方ないそう言うと凱翔は背の大剣を抜いた。


 蒼真は剣を抜くと同時に霧衣と言い、周囲の霧に紛れた。


「その戦術は、俺が教えたんだぞ!」


 大剣で薙ぐと霧を切り裂いて、蒼真に襲い掛かかった。
 その斬撃を両手の剣で受けると、後方から麗稀が双剣で斬りかかる。


 蒼真は風踊と呼ぶと、風が麗稀を押し戻そうとする。
 それを麗稀は剣を地面に刺して身体を止めると、水滑《すいこつ》と呼んで上に手をかざした。
 

 すると、水が空中の集まり水弾となって蒼真に放たれ、それに合わせて凱翔が大剣を水平にしてる振り下ろした。
 蒼真は両手を包むように風を収束して地面に当て後方に逃れ、包んだ手を上に向け風の壁で水弾を防いだ。


「少し見ない間に風踊の扱い方が上手く使くなったわね」

「そうだな戦い方を知ってるのは、こちらだけじゃなかったな」
 
 
 蒼真は霧を操ると霧の中に多くの影が現れ紛れこみ、その影が一斉に動く。
 ガキン、蒼真が凱翔の腕を斬りつけると硬質な音がして、斬りつけた腕が岩になっていた。


「残念だったな! 深清は主が危険だと判断すると防衛するのを知っていよう」

 間髪入れず、礫甲《れきこう》と叫び、凱翔が体に岩の鎧を体に纏う。
 そして、岩となった腕を振るうと、蒼真を霧の中に飛ばした。


「音がしない、不響ね、同時に使ってる」

「これだと、本物ごと斬っちまう! 麗稀!」


 水滑! そう麗稀が言うと水が集まり大きなエイとなって麗稀を乗せ空に上がると、豪雨となってその一帯に降り注ぎ霧は消えた。
 更に、麗稀は雷耀《らいよう》と呼び腕を振り下ろすと、雷を纏うむじなが地上に雷撃として落ちた。


「かはっ!」
 

 水に伝わった雷撃を受けた蒼真は痺れ膝を付いた。


「ここまで、腕を上げてるとはね、さあ詞葉様をこちらに渡しなさい」


 地上に降りた麗稀と凱翔が蒼真に近づくと、蒼真が静かに笑みを浮かべた。
 すると、凱翔と麗稀は一歩も動けなくなった。


「なんだ!? くっ! 地面から足が取れん!」

「これは、何をしたの!?」

「......不響には音を消す他に、触れたものを粘着させる分泌物を出せると、ある方から聞きまして、あなた方を足止めさせて頂きますよ......」

「これを紛れ込ませるために、私にわざと水滑を使わせたのね!」

「俺達を止めても、裏もここも兵で一杯だ逃げられんぞ!」


(信じていますよ、詞葉様......)


 少しして蒼真が倒れ意識を失うと、麗稀と、凱翔は動けるようになった。


「一体この程度の足止めになんの意味があると言うの......」

「町の隅々まで調べろ、詞葉様を見つけるんだ」 


 凱翔が兵に調べさせるが、何処にも詞葉の姿はなかった。 


「いない!? どういうことだ!」

「まさかこの子を囮にした!? 一体どうやってここから逃げたの!」


 凱翔が大きくため息をつきながら、
 

「どうするよ麗稀、命令どうり町を焼くか?」

「いえ、ここは私達が無能と言うことにしておきましょう。
 この子が、蒼真がそこまでする詞葉様がどうするのか少し見てみたいわ」


 麗稀はそう言うと、倒れている蒼真を優しく抱き上げた。
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