虹彩異色のネクロマンサー

曇天

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第三十七話

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 隊長たちの会議があったその夜、ぼくたちは軍施設に向かった。

「俺やライミーアやシュリエは、敵に監視されている可能性がある。 お前たちで向かってくれ」

 そういわれて、ぼくとミーシャで動いていた。

『二人だけかよ』  

「爆薬を大量に保有している大きな弾薬庫のある施設はそれほど多くない。 もし狙われるなら、帝国はその数ヶ所に複数のネクロマンサーをおくだろう。 気づかれないためにぼくたちなんだ」

『役職もちや有名な奴らは待機ってわけか』

「ああ、帝国に気づかれずに、工作員を見つけ出し拘束するか、爆薬を守りテロを阻止する。 それがぼくたちの任務だ。 ここがリブレート基地。 この地域最大の軍事施設だ」

 目の前に金網でか囲まれた大きな基地がみえる。 横には山がありトンネル内に弾薬庫があるときいていた。

『私たちは軍人にも、敵にも、気づかれずに中に入り込むのか。 難しいだろ』

「いや、新しい軍医として入り込む。 そういう手はずになってる。 でもミーシャはこの鞄に隠れていて」

『わかった』

 ぼくは鞄にミーシャをいれると、検問をぬけ施設へとはいった。


「少尉どの。 ここが医療室です」

 そう部屋まで兵士に案内された。

「ありがとうございます。 何かあればお伝えください」

「はっ」

 そう敬礼して兵士は帰っていった。

『そういや、お前少尉だったな。 忘れてた』

 ミーシャは鞄から顔をだしていった。

「そうだよ。 ミーシャは死んだことになってるから昇格して中尉だけどね」

『じゃあ上官を敬えよ』

「はいはい、中尉どの。 それでどうやって調べる?」

『やつらは爆弾に術を仕掛けるんだろ。 爆薬を格納してる場所で待ち伏せがいいんじゃないか』

「いや、何人いるかわからないし、ずっと隠れて待ち伏せはできない。 ミーシャなんてばれたら即保健所だよ。 ディシーストも探知される」

『なら私たちが先に術をかけておくか』

「さすがに術をかけたらテロリストにばれる。 彼らの中には爆薬を移動させるためにネクロマンサーがいるからね。  数日前に格納場所に張り込むけど、いつ行動を起こすかわからないから、できるならそれまでにここに潜り込んだものを絞りたい」

『そんなの無理だろ。 軍人だけで1000人もいる。 他のスタッフもいれたら何人かもわからん。 出身や年齢も偽装されてるだろうし、長期に潜伏されてたら見つけるなんて不可能だ』

「ああ、でもおそらく軍人だ。 弾薬庫にはいらないといけないからね。 それに前の戦争は大きかった。 帝国もかなりの戦力となるネクロマンサーの多くを工作員として使う余裕はなかったはず」

『ということは三年前以降にこの基地に配属されたものか』

 ぼくは渡された書類に目を通す。

「ああ、ここに兵士のカルテがある。 三年前からの配属者、それも基地内を自由に歩けるか、離れたところにあるトンネルの弾薬庫に近づいても不審ではないものだろうね」

 それからカルテと、他の書類を総合して調べる。


「......十一名まで絞れた。 おそらくこの中に何人かのネクロマンサーがいる」

『そいつらを調べるのか』

「ああ、一人ずつ調べよう。 おそらくネクロマンサーたちは同じ仕事のところには全員はいないはずだ」

『ばれても最悪、切り捨てられるからだな』

「爆発処理が二人、爆薬管理の四人、投擲兵の四人、この基地のティナ長官だ」

『長官までか?』

「ああ、二年前に赴任している。 それに長官ならどこでもはいれる。 ぼくは問診するからその間にミーシャはその兵士の部屋から手紙などをあれで盗み見てくれ」

『手紙をあれで...... わかった。 そいつらの部屋を調べてくればいいんだな』

 ぼくたちはそれぞれ調べ始めた。


「えっと、クルス中尉、自分の健康診断でなにかあったのですか?」

 若い兵士が不安そうに聞いてきた。 彼は投擲部隊のリースだ。

「いや検査の結果そこまで悪くはないのですが、腎臓や肝臓が弱ってるようなんです。 体調がどうかと聞きたくて」 

「ああ、そうでしたか。 少し最近、酒をのみすぎて不安たったんですが、特に体調は悪くはありません」

 そうほっとしたようにリースはいう。

(工作するのに不健康だと任務に支障をきたすが...... この数値だと、かなりアルコールを接種しているな)

「アルコールは控えてくださいね。 それと同僚のタランさんはどうですか? 後で本人に聞くのですが」

「あいつは酒をのみませんね。 淡々と任務をこなしていますよ。 確か戦争で家族を亡くしたとか、それで自分よりは任務に忠実なのかも」

 そうリースは自嘲ぎみに話した。

 タランをよぶ。

「......そうですね。 酒はのみません。 昔はのむこともありましたが......」

 言葉少なに答えた。

「個人的なことを聞くのは恐縮ですが、兵士のメンタルも健康上のことと判断します。 飲まなくなったのはどうしてですか?」

「......戦争で、知り合いがなくなりました」

(リースは家族といっていたな......)

「そうですか。 それは...... わかりました。 カウンセリングは受けてくださいね」

(傷ついているのはわかるが、彼はどちらかはわからないな)

 爆弾処理、そして爆弾管理のものたちも、別段かわったところはなかった。 

(最後はティナ長官か...... 二年前にここに配属、カイル隊長によると元々一番隊に所属していた。 ネクロマンサーなのは確定だが、そんな身元のものが帝国に属するかな)

「そうか。 数値的には問題ないのだな」

 その短髪の女性は笑った。 ぼくは最後にティナ長官を問診していた。

「ええ、問題ありません」

「......中尉はカイルの部下だな」

 突然いわれて動揺した。 その顔は先程とは違い真剣だ。

(それは隠していたはず......)

「大丈夫。 なにかの任務でここに来たのはわかっている。 任務内容は聞かないし、関与はしない」

 そう優しく微笑んだ。

(もし、長官が工作員なら、わざわざこの事を明かすだろうか......)

「それは助かります。 それでティナ長官は一番隊だったんですよね。 なぜこちらに」

 そういうとティナ長官は少し躊躇してこちらを見据えた。 そしてハンカチをだす。

「彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 【布雀】《クローススパロー》」

 布がスズメとなって、部屋を旋回する。

「すまないな。 この話を聞かれるとまずいので、警戒させておく。 カイルと直接接触して伝えたかったのだが、私は監視されているようなので君に伝える」 

(なんだ......)

「実は、一番隊には裏切り者がいる」

「......裏切り者、帝国の手の者ですか」

「わからないが、彼らは軍の内部に、いや政界や財界、報道界に拡がって存在している......」

「......一番隊の裏切り者はわかるんですか」

「いいや、だが調べるまでもない」

「どういう......」

「ほとんどがそうなのだ」

「えっ......」

 言葉を失う。

「......ほとんどって、総隊長もですか」

「いいや、総隊長は彼らを集めて監視しているんだ。 彼らが総隊長を監視しているように...... それがかつての戦争の英雄だったロード総隊長が黒き使徒《ブラックアポストル》がつくった最大の理由」

「黒き使徒《ブラックアポストル》は裏切り者の監視ために作った......」

「ああ、それから、そのものたちの全貌を明かにするため、信頼しているものを、様々な部署に放ったとわたしはかんがえている」

「それがティナ長官やカイル隊長たちなのか。 でもカイル隊長たちもなにも知らないようでしたが......」

「私もそうだが、皆なにも伝えられていない。 話をすれば、調べられみな即抹殺対象にされるからだ。 それぐらい敵は巨大。 信頼できる仲間がいなければただ死ぬだけだろうな......」

 ティナ長官は腕を組み眉をひそめる。

(それで六番隊や各隊に部下を送り込んだのか......)

「おそらく総隊長は、私たちならいずれこの元凶にたどり着くと信じたのだろう」

「それで、皆ばらばらにはなった」

「ああ、敵はこの国のあらゆるところにいる。 私も一番隊にいるときには気づかなかった。 基地に赴任することになり、外から黒き使徒《ブラックアポストル》をみて不審にやっと気づいたんだ」

 そうティナ長官はいった。

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