虹彩異色のネクロマンサー

曇天

文字の大きさ
上 下
30 / 60

第三十話

しおりを挟む
 そこに現れたのは五番隊のグラード隊長だった。 

「隊長...... ちょうど都合がいい。 あなたを一番殺したかったのだから!」

「やはり、お前はあの町の......」

「死ねぇえええ!!」

 何本もの触手がグラード隊長へ叩きつけられる。

「彷徨える魂よ、我が声に答えよ」

 何かがぶつかったような大きな音がし土煙がまった。

「くくくっ、つぶれた!! やったか!」

 土煙がはれると、グラード隊長はその場にたっていた。

「なんだと!?」

 グラード隊長の右腕には蟹のような巨大なハサミがある。

「......【小手蟹】《ガントレットキャンサー》」

 振るわれた巨大なハサミはその触手を切りさいた。

「きゃああああ!!!」

「あきらめろ。 殺したくはない...... 投降しろ」

「こ、殺したくないですって、よくいうわ! 私の町の人間を皆殺しにしたやつが!」

 そう叫ぶと、リリーエ副隊長は立ち上がりすべての触手でグラード隊長を叩きつける。

 だがグラード隊長はそれらすべてを受けきり、その触手を切り裂いていく。

「がぁああ!」

 リリーエ副隊長は悶えながらも、立ち上がる。

「無駄だ......」

「そ、そうね。 確かに無駄のようね...... でもお前だけは必ず殺すわ。 あの子達には悪いけどね」

 そうリリーエ副隊長は悲しげにこちらをみた。

(まさか!?)

「ミーシャ......」

 ぼくが叫ぶのと同時に、爆発が起こる。

「うっ...... ミーシャ」

『大丈夫だ。 ほら』

 みると、体全体を蟹の甲羅にしたグラード隊長がぼくたちの前にいた。

「怪我はないか......」

「え、ええ、でも」

「私は大丈夫だ......」

 そういうと、グラード隊長は、煙が上がり穴が空いた地面をみていた。


「すまなかったな...... 君たちを巻き込んでしまった。 こちらの不備だ」

 ぼくたちは五番隊の本部に来ていた。 前にはグラード隊長がいる。

「これはリリーエ副隊長の策謀だったんですね」
 
「ああ、この国への工作。 彼女が帝国兵であることは、把握していた。 彼女と十数名の隊員による共謀だ」

『それで放置してたのかよ』

「帝国の動きを知るため、泳がせていた......」

 そういって目を伏せた。

「それだけじゃないですよね...... リリーエ副隊長は虐殺のあった町の住人だ。 だから」

「ふぅ............」

 そうグラード隊長は深くため息をつく。

「でも、ぼくたちをかばうような人が虐殺などするわけがない。 その時、何があったんですか。 教えてください」

 ぼくが聞くと、グラード隊長は一瞬沈黙して、静かに語りだした。

「......あの時、私は仲間たちと共に占領した町にいた。 町の住民は帝国からの解放を喜んでいた。 帝国の圧政による解放、私たちは優しく迎え入れられた。 だが......」

 そういいながら顔に手をおいた。

「......ある夜のことだ。 何者かに襲撃を受けた」

「帝国......」

「違うな...... あいつらは異質だった。 私たちも応戦したが、どれ程攻撃を加えても死ななかったんだ」

「まさか白き聖者《ホワイトセイント》」

「おそらく...... あまりに圧倒的な力の差だった。 戦いの最中、私は爆発を受け茂みの溝に落ち気を失った。 朝、目が覚めると町の住民も同僚たちも皆殺されていた」

「リリーエ副隊長はそこの出身だった......」

「ああ、町の住民リストにあったのを思い出した。 だからこれは私への復讐なのだと考えた。 殺されてやるべきなのではと...... それがこんな事態を生んだんだ。 本当にすまない」 

 グラード隊長は唇をかみあやまった。


『ふりだしか』 

「ああ、ここには白き聖者《ホワイトセイント》はいないな」

『なんでグラードはリリーエに真実を話さなかったんだ』

「もう遅かったんだろう。 気づいたときにはリリーエ副隊長は罪を犯していた。 もし告げれば、そのおかした罪や憎悪が意味のないことに気づいて後悔するだろう。 意味を失った彼女は死ぬかもしれない」

『だから自分を悪者にしたのか』

「自分を罰したかったんじゃないかな。 ぼくたちも戦場で仲間たちを見送ったとき、罪悪感はあっただろ」

『......ああ、自分たちだけが生き残ったからな』

「だからだと思う。 きっと後悔してるんだよ。 生き残ったことも、止められなかったことも」

(ぼくのように......)

 その時強い風が吹いた。 そして樹木がゆれ笛のような音があたりに聞こえる。 それはリリーエ副隊長たちの悲しみの声のようにも聞こえた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...