虹彩異色のネクロマンサー

曇天

文字の大きさ
上 下
27 / 37

第二十七話

しおりを挟む
『なんかサリカは隠してるな......』
  
「ああ、ぼくもそう思った。 五番隊の話もしなかったし、なにかあるね」  

 ぼくたちはサリカさんの家からでてホテルにいた。

『明日にでも尾行するか』

「そうだね...... なんだあれ! 伏せろ!」

 パリンッ! パリンッ!!

 なにかが複数当たり窓ガラスが割れた。 みると入ってきたのは白いハトたちだった。 

「白い...... 毛の色じゃない!」

 毛と思った体は固そうな黒いなにかでおおわれている。

「まさか、これはトゲ!? グールと同じようなものか!」

『みたいだな! こいつがトールの言ってたばけものか!』

 ハトは首を曲げ、異常な動きをしていた。 そしてぎこちなく羽ばたくとこちらに弾丸のようにぶつかってくる。 それをかわすと次から次へととんできて壁へ穴を何個もあけた。

(なんだ!? まさか......)

『彷徨える魂よ、我が声に答えよ。【丸綿羊】《コットンシープ》』

 ミーシャの右足に巻き付けたアームカバーから大きなヒツジが現れ、ハトたちの突進を止めた。

「かわいそうだが、しかたない」

 ポケットにいれたナイフをぬいた。 ナイフは柄に星幽石が埋め込まれている。 それはシーナさんにつくってもらった合金だった。

「彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 【鍬形】《スタックビートル」

 ナイフを投げると、クワガタムシとなり、ハトを貫いて地面に次々とおとしていった。


『窓の外にはもういないな』

 ミーシャが窓の縁にたって辺りをみている。 

「遠距離から操作したんだろう」

 ぼくは床に落ちているハトの砕けた黒い破片をみ。 そこには小さな星幽石が埋め込まれてあった。

「やはり、普通の動物の骨に星幽石を埋め込んで、何かディシーストを使って操ってるな。 これはウニか。 いやがってるように見えたからそうじゃないかと思っていたけど」 

『悪趣味だな......』

「生きてるものへのネクロマンシーは禁忌だけど、いままで試したものがいなかった訳じゃない。 かつての戦争だと【生屍】《リビングデッド》と呼ばれていた」

『生屍《リビングデッド》生きてるものへの術か。 何度か戦場でみたな。 その動物は信じられない身体能力をもっていてとても厄介だった。 でもあまり数がいなかったな』

「ああ、かなりの戦力だったけど、ただあまり重用されなかった。 星幽石を多く各部位に埋め込んで操作するから、操作がむずかしく投入する数はすくなかったんだ」

(それをこの数、正確に操作できるのか...... かなりの使い手だな)

 地面に落ちたハトたちをみておもう。

『確かにディシーストを複数動かすんだからな。 でも今のやつはそれを使ってきた』

「ああ、なにか実験ためか、ぼくたちを狙ってきたのか。 どちらかはわからない」

(サリカさんの会った感じだと、密告するような感じではなかった。  もし狙われたのなら、会ったところをみられていたか)

『まあ、外からの人間は私たちだけだしすぐにわかる。 それでこれからどうする?』

「やはり、サリカさんが気にかかる。 工場を調べよう」


 ぼくたちは工場近くにやってきた。 

 遠巻きにみても、そこは特にかわったところは見受けられなかった。

「ここが、サリカさんの働いている工場」

『鶏肉の加工工場っていってたな。 取りあえず中をみてみるか。 私がいってみる』

「ぼくは近くにいると不自然だから他をすこし調べてみる。 食肉工場だから絶対、見つかったらだめだよ」

『ああわかってる。 じゃあいってくるぞ』

 ミーシャは金網を抜けて入っていった。

 ぼくは、疑われないようにそのまますこしあるくと、その先に焼け焦げたまま放置された建物が見えてきた。

(戦争時に、焼かれた建物か)

 ガサガサと音がすると、茂みから体に殻をつけたようなネズミが現れた。

「こんなネズミはみたことない...... これも生屍《リビングデッド》か!」

 ネズミは飛びかかってきた。

 ぼくは事前に準備していたナイフで、固い殻のようなネズミを切り裂く。

(さすが、シーナさんが作ってくれた合金ナイフ! ぼくの【浅蜊刃】《クラムエッジ》で簡単にきれた)

「グルルルルゥ!!」

 目の前に大きなイヌが現れる。 やはり殻をみにまとっているようだ。

(これは貝かなにかをみにまとっている! 牙もありえないほど大きい!)

 その犬は地面をかけると、ぼくに一気に近づいて噛みつこうとした。 その牙は長くナイフのようだった。

「くっ!!」

 すごい力で押さえ込まれ、何とかナイフでふせぐ。 

「彷徨える魂よ、我が声に答えよ! 鍬形《スタックビートル》」
 
 もう一本のナイフをぬき、放ったクワガタムシは後方からイヌの背中を切り裂く。

「ギャウウウウウ!!!」

「なっ!」

 犬は苦しみながらも押してくる力が弱まらない。

「くっ!」

(そうか! 意志はなくとも体は操られているからか!)

「ぎゃあ!!」

 遠くで声がする。 すると犬の力が弱まり、そのまま息を引き取った。

「かわいそうに......」

 犬をゆっくり横に寝かせて、声のする方に向かう。

 そこで地面で足を押さえて悶《もだ》えている男がいた。 

「確か五番隊のギデルか......」

「て、てめえ...... はめやがったな!」

「なるほど、君が生屍《リビングデッド》を操っていたネクロマンサーか。 なぜぼくを襲った」

 そのとき、遠くから真っ白い牛が走ってきた。

 その背には大柄な男ーーガームがのっていて、ギデルを片手で引き上げるとそのまま去っていった。

「このままじゃすまさねぇ! 必ず殺してやるぞ!」

 ギデルはこちらをにらみながら離れていった。

「やはり五番隊が関わっていたか...... 空に【金属箔蛾】《メタルホイルモース》を放っておいてよかった。 シーナさんにつくってもらって体力の消耗が少なくなったとはいえ連続で三体はきついな」

 ぼくはすぐにミーシャのもとにむかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...