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第十話
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町から離れたなにもない荒れた砂地に、その場には不釣り合いな巨大な石造りの神殿のようなものが見えてきた。 そこに白い服を着た信者たちが列をなしてはいっていく。
「こんな巨大なものをつくったんですか」
「ええ、かなりの信者が無理な寄付と労働をしてをしてつくったようです。 いままでに事故で何人も死んでいますよ。 とはいえ信仰を否定するわけにはいかないので......」
疲れたようにそうレリーさんがいう。
(確かに、ただでさえ戦後、国への反発が強いのに信仰なんて否定したら暴動すらおきかねないからな。 レリーさんも目の下にクマがある、対応にかなり疲れてるようだな)
「人が生き返るなんて夢みたいなことにすがるなんて......」
そうレリーさんが呟いた言葉はぼくの胸に刺さる。
(本当だ...... その過ちでぼくはミーシャを)
ミーシャを見ると、下をみて静かに歩いている。
「これ以上は彼らを刺激するので危険です。 前に同僚がここに立ち入ろうとして暴行を受けましたから」
そういえば、無表情でこちらを見ているものたちがいるのに気づいた。
(引くべきか......)
ぼくたちは戻りレリーさんに案内された宿に泊まる。
「どう思う?」
『麻薬の話はなかったな。 何がマフィアルートだ。 やっぱりハリザはあてにならないな。 でもこの教団は怪しい』
そうけづくろいをしながらミーシャがいった。 どうやら猫の本能的なものがたまにでるらしい。
「ああ、ぼくもよみがえらせるというのが気になる...... とはいえあの神殿に近づくのは難しそうだ」
『まず、明日私が中に潜入する』
「わかった」
次の日、ミーシャとともに神殿近くへむかった。
ミーシャが神殿にはいるのを確認して待っていると、争うような声が聞こえる。
「あれはレリーさん」
見えたのは女性を引き留めようとするレリーさんの姿だった。
「姉さん! もうスタリオは死んだの!」
「でも、きっと奇跡がおこって甦るわ!」
「死んだ人はよみがえらない! 姉さんは騙されているのよ!」
「死んだ人が甦るのをこの目でみたの!」
「そんなのインチキよ! 目を覚まして!」
そう姉の腕をひくレリーさんを他の信者が乱暴に引き離した。 周りの信者が怒号を浴びせている。
「待ってください!」
ぼくはわってはいった。
「クルスさん......」
「レリーさん落ち着いて」
ぼくはレリーさんをつれ町に戻った。
「すみません。 みっとないところをお見せして」
そう憔悴した顔でレリーさんはうつむく。
「いえ、お姉さんが教団に入信を」
「......ええ、前の戦争で婚約者が戦死してすぐでした」
「それで」
「人が甦るわけないのに...... すみません。 私はこれで」
レリーさんがそういうとさっていった。
『かなりまいってるな......』
いつの間にかそばに来ていたミーシャがそういった。
「ミーシャ、それでどうだった」
『ああ、奥には教祖と呼ばれていた老婆がいて、一心不乱に集まった信者に説教をしていた』
「どんな?」
『この世界は汚れている、本当の人間ではなく偽物の人間が支配してるからだ、共に新しい人間になろう、とかなんとか』
「新しい人間...... それで儀式は」
『ああ、やつらは復活の儀式として胸を貫いた人間を甦らせるパフォーマンスをしていた』
「それって」
『ああ、魂なき人形のようなディシーストを甦らせてみせただけだ』
「やはりそんなトリックか」
『ただ、それでも信者は熱狂していたよ。 疑っているものもいなかった。 異様な光景だった』
(人は信じたいものを望むからか......)
次の日、ぼくはローブをまとい神殿前にいた。 信者たちをみるとその顔色は悪い。
(よくみると信者たちはみな体に不調をもっているようだ)
神殿に近づくと、大柄な信者が二人前にたった。
「ここは信者以外は立ち入り禁止だ」
「入信したいんですが」
「入信希望か......」
ぼくのことを上から下までみると、何事かを二人で話している。
「では、この薬をのめ。 毎日信者は接種するものだ」
そういって、黒い錠剤を差し出した。
(これか...... これがまさか麻薬なのか)
昨日のことを思い出す。
「侵入して証拠を手に入れれば、信者の目を覚まさせられるかな」
『まず侵入が難しい。 神殿周り四方に大勢の信者が配置されている。 だから私もヒラメに隠れてなかにはいった』
「ネコさえ...... か、なら入信しかないか」
『それだが、やつらは入信希望者に何かの錠剤をのませていた。 毒なのか麻薬なのかはわからないが、のむのは危険だぞ』
(そうミーシャから聞いていたから......)
「彷徨える魂よ、我が声に答えよ」
小さくつぶやくと、その錠剤をだされた水で飲み込んだ。
「よし...... これでお前も同じ信徒だ。 また明日ここに来れば薬を渡す」
そう二人は微笑むと先へと通してくれた。
ぼくは二人から見えない柱に隠れると、口から手に吐き出した。 それは小さなクラゲだった。 クラゲの中に黒い錠剤がある。
「ふう、うまくいった」
錠剤とともに星幽石を口に含んで、水からクラゲを甦らせていた。
(あとはこの錠剤を調べてもらうか)
『ただすぐもどると怪しまれる。 すこしここにいるぞ』
ミーシャがそういい、ぼくたちは信者と共に奥へとむかう。
そこには巨大な祭壇があり、その上にローブをきた老婆と数人の男女がたっていて、荘厳な音楽がながれている。
「皆さま、腐りきった人間が支配するこの世界は全て偽りなのです。 本当の人間となるために、我らは新たなる世界へと向かいましょう」
そう老婆が恍惚の表情でかたる。 信者は一斉に歓声をあげる。
『あれが教祖のジステマだ』
「あの人が......」
「いま、その奇跡をみせましょう。 プリエステス」
そのそばにいたプリエステスと呼ばれた女性が、たっている男性の頭を銃で撃ち抜いた。 男は頭から血をながしてたおれた。
信者たちから悲鳴が響く。
「落ち着きなさい! いま奇跡がおきるのです!」
プリエステスが倒れた男に手を振れると、男はゆっくり立ち上がった。
「奇跡だ!」
「復活した!」
「ジステマさま!」
そう信者たちは熱狂している。
「やはり、ネクロマンシーか」
『だろうな。 あの男から感情が感じられない。 ただの人間の形をした人形だ』
「すごかっただろう。 あれが神の奇跡だ。 私の娘も、いずれ復活させていただけるのだ」
帰るとき、そう神殿の前にいた信者がそうほほえんだ。
「ええ......」
(この人たちは本当に信じているんだな...... 無理もない。 本当に死者が甦るなら......)
「こんな巨大なものをつくったんですか」
「ええ、かなりの信者が無理な寄付と労働をしてをしてつくったようです。 いままでに事故で何人も死んでいますよ。 とはいえ信仰を否定するわけにはいかないので......」
疲れたようにそうレリーさんがいう。
(確かに、ただでさえ戦後、国への反発が強いのに信仰なんて否定したら暴動すらおきかねないからな。 レリーさんも目の下にクマがある、対応にかなり疲れてるようだな)
「人が生き返るなんて夢みたいなことにすがるなんて......」
そうレリーさんが呟いた言葉はぼくの胸に刺さる。
(本当だ...... その過ちでぼくはミーシャを)
ミーシャを見ると、下をみて静かに歩いている。
「これ以上は彼らを刺激するので危険です。 前に同僚がここに立ち入ろうとして暴行を受けましたから」
そういえば、無表情でこちらを見ているものたちがいるのに気づいた。
(引くべきか......)
ぼくたちは戻りレリーさんに案内された宿に泊まる。
「どう思う?」
『麻薬の話はなかったな。 何がマフィアルートだ。 やっぱりハリザはあてにならないな。 でもこの教団は怪しい』
そうけづくろいをしながらミーシャがいった。 どうやら猫の本能的なものがたまにでるらしい。
「ああ、ぼくもよみがえらせるというのが気になる...... とはいえあの神殿に近づくのは難しそうだ」
『まず、明日私が中に潜入する』
「わかった」
次の日、ミーシャとともに神殿近くへむかった。
ミーシャが神殿にはいるのを確認して待っていると、争うような声が聞こえる。
「あれはレリーさん」
見えたのは女性を引き留めようとするレリーさんの姿だった。
「姉さん! もうスタリオは死んだの!」
「でも、きっと奇跡がおこって甦るわ!」
「死んだ人はよみがえらない! 姉さんは騙されているのよ!」
「死んだ人が甦るのをこの目でみたの!」
「そんなのインチキよ! 目を覚まして!」
そう姉の腕をひくレリーさんを他の信者が乱暴に引き離した。 周りの信者が怒号を浴びせている。
「待ってください!」
ぼくはわってはいった。
「クルスさん......」
「レリーさん落ち着いて」
ぼくはレリーさんをつれ町に戻った。
「すみません。 みっとないところをお見せして」
そう憔悴した顔でレリーさんはうつむく。
「いえ、お姉さんが教団に入信を」
「......ええ、前の戦争で婚約者が戦死してすぐでした」
「それで」
「人が甦るわけないのに...... すみません。 私はこれで」
レリーさんがそういうとさっていった。
『かなりまいってるな......』
いつの間にかそばに来ていたミーシャがそういった。
「ミーシャ、それでどうだった」
『ああ、奥には教祖と呼ばれていた老婆がいて、一心不乱に集まった信者に説教をしていた』
「どんな?」
『この世界は汚れている、本当の人間ではなく偽物の人間が支配してるからだ、共に新しい人間になろう、とかなんとか』
「新しい人間...... それで儀式は」
『ああ、やつらは復活の儀式として胸を貫いた人間を甦らせるパフォーマンスをしていた』
「それって」
『ああ、魂なき人形のようなディシーストを甦らせてみせただけだ』
「やはりそんなトリックか」
『ただ、それでも信者は熱狂していたよ。 疑っているものもいなかった。 異様な光景だった』
(人は信じたいものを望むからか......)
次の日、ぼくはローブをまとい神殿前にいた。 信者たちをみるとその顔色は悪い。
(よくみると信者たちはみな体に不調をもっているようだ)
神殿に近づくと、大柄な信者が二人前にたった。
「ここは信者以外は立ち入り禁止だ」
「入信したいんですが」
「入信希望か......」
ぼくのことを上から下までみると、何事かを二人で話している。
「では、この薬をのめ。 毎日信者は接種するものだ」
そういって、黒い錠剤を差し出した。
(これか...... これがまさか麻薬なのか)
昨日のことを思い出す。
「侵入して証拠を手に入れれば、信者の目を覚まさせられるかな」
『まず侵入が難しい。 神殿周り四方に大勢の信者が配置されている。 だから私もヒラメに隠れてなかにはいった』
「ネコさえ...... か、なら入信しかないか」
『それだが、やつらは入信希望者に何かの錠剤をのませていた。 毒なのか麻薬なのかはわからないが、のむのは危険だぞ』
(そうミーシャから聞いていたから......)
「彷徨える魂よ、我が声に答えよ」
小さくつぶやくと、その錠剤をだされた水で飲み込んだ。
「よし...... これでお前も同じ信徒だ。 また明日ここに来れば薬を渡す」
そう二人は微笑むと先へと通してくれた。
ぼくは二人から見えない柱に隠れると、口から手に吐き出した。 それは小さなクラゲだった。 クラゲの中に黒い錠剤がある。
「ふう、うまくいった」
錠剤とともに星幽石を口に含んで、水からクラゲを甦らせていた。
(あとはこの錠剤を調べてもらうか)
『ただすぐもどると怪しまれる。 すこしここにいるぞ』
ミーシャがそういい、ぼくたちは信者と共に奥へとむかう。
そこには巨大な祭壇があり、その上にローブをきた老婆と数人の男女がたっていて、荘厳な音楽がながれている。
「皆さま、腐りきった人間が支配するこの世界は全て偽りなのです。 本当の人間となるために、我らは新たなる世界へと向かいましょう」
そう老婆が恍惚の表情でかたる。 信者は一斉に歓声をあげる。
『あれが教祖のジステマだ』
「あの人が......」
「いま、その奇跡をみせましょう。 プリエステス」
そのそばにいたプリエステスと呼ばれた女性が、たっている男性の頭を銃で撃ち抜いた。 男は頭から血をながしてたおれた。
信者たちから悲鳴が響く。
「落ち着きなさい! いま奇跡がおきるのです!」
プリエステスが倒れた男に手を振れると、男はゆっくり立ち上がった。
「奇跡だ!」
「復活した!」
「ジステマさま!」
そう信者たちは熱狂している。
「やはり、ネクロマンシーか」
『だろうな。 あの男から感情が感じられない。 ただの人間の形をした人形だ』
「すごかっただろう。 あれが神の奇跡だ。 私の娘も、いずれ復活させていただけるのだ」
帰るとき、そう神殿の前にいた信者がそうほほえんだ。
「ええ......」
(この人たちは本当に信じているんだな...... 無理もない。 本当に死者が甦るなら......)
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