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第三十一話

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「かえる前に少しよろしいですか」 

 セレネがそういった。

(いきなりかえってもディンの魔力もないし、いいか) 

 ディンをみるとうなづく。

「ああかまわないが」

「故郷の家の整理をしたいのです」

「整理......」

「はい、もうあそこにかえることもないので......」

 そう少し寂しげにセレネは答えた。

 俺たちはセレネの故郷西のリンドルクへと向かう。


 それから三日後、俺たちはリンドルクに馬車をかりはいる。

「なんかすごく田舎だな」

 ディンがいうように小さな国でとても裕福とは思えなかった。

「勇者を排出した国にしてはなんか寂れてないか」

「......そうですね。 元々昔からここには産出する鉱物も、資源もありません。 農産物をつくって細ほぞと生きているのです」

 そう遠くを眺めながら、馬車を綾取りながらセレネはつぶやく。

「あそこ海か」

「いいえ、あそこは世界最大の湖ダヴィラン湖です」

「この方向はグルナードの湖だな」

 ディンが小声でいう。

「ああ、そういやそうか、あそこの反対か」

 それからしばらくして、小さな町トランへとついた。


「ここです......」

 セレネがいうと、小さな家がそこにある。

「なんだ。 勇者の末裔というから、領主にでもなってるのかと思ったんだけど」

「ふざけておる! 一応世界を救ったとされる勇者がこのような仕打ちとは! 恩知らずめ」

 ディンがなぜか怒っている。

「いいえ、かつて王から領地などを打診されたそうです。 私の父も...... ですが、前に話したように魔王を倒した経緯ゆえに受諾しなかったのです。 それは正義ではないので......」

 そう悲しげに答えた。

(魔王を騙されてうったことが後悔になっているのか......)

「ですが、私はその一族を誇りに思っているのです! 不正義をよしとせず、甘んじない一族を」

 そういって笑顔で家にはいる。

 中は質素で、ほとんどものもない。 年頃の子とは思えないほどなにもない。

「......これは節制の修行でもしてるのか?」

 ディンも不思議がっている。

「してませんよ。 必要はないものをあまりおかないだけです」

「物を運ぶも、なんにもないぞ。 この木のベッドぐらいか」

「それは運べないでしょう? あっそこは! 私の部屋なので待っててください!」 

 部屋を開けようとすると、セレネはあわてて止めその部屋へはいった。

「全くデリカシーのない。 女子の部屋に無造作にはいるでない!」   

 ディンに怒られる。

「まあ、こんな無機質な家だぞ。 なにもないだろ」

「そういうところだ。 お前がもてぬのは」 

「お前になにがわかる!」

「もてないのはわかる!」

「あっ! 用意できました。 さあ、行きましょう! あれ、なにをされてるのですか?」

 俺たちがいがみ合ってると、大きな袋を抱えてセレネかでてきた。

(なんだ? あの袋)


「でも騎士なのに、そんなであるいてもいいのか」

「は、はい! だいじょうぶです!」

「セレネさま! お帰りになられていたのですか!」

 その時、通りがかかった村人が声をかけてきた。

「あっ、はい」

「本当にもうさわけございません!」
 
 そう村人は膝を地面につけた。

「お止めください! いいのです......」

 俺とディンは顔を見合わせる。

「さあ行きましょう......」

 セレネが先に歩いていった。

「............」

「なあ、話してくれないか、気になってしかたない」

 無言のセレネにそういうと、ディンはうなづいた。

「ふむ、このままではモヤモヤする」

「......まあ、よくある話です」

 新たにアブリオという王は、村人たちに重税をかけ苦しめた。 その現状をうれいた騎士だったセレネはアブリオに直訴、結果として騎士団を追放されたということだった。

「本当によくある話だったな」

「うむ、予想以上によくある話だった」

 俺たちはうなづくと、セレネは苦笑している。

「そういったでしょう。 それで旅にでていたのです」

「それでも、人のために世界を旅してたのか」

「まがいなりにも勇者の末裔ですので」

 そう笑顔でいった。

「だが、このままでいいのか?」

「......私にできることはありません。 もはや騎士ですらない私にはなにも」

 俺がいうとセレネは悲しげにつぶやいた。

「勇者の末裔なのだろう! そのようなことでセリスに申すわけがなかろう!」

 ディンがそういう。

「わかっています! ですが...... 私は戦うことしか知らない...... なにもできない!!」  

 そう感情をだし馬を止めた。

「はっ、すみません! あなたたちにぶつけてもしかたないのに......」

 そうセレネは謝る。

「しかたないな」

「うむ」
 
「えっ?」

 セレネが驚く顔をする。

「なら何とかするしかないだろ」

「そうだ」

 セレネのためにここに留まることにした。
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