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第一話

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 いつもの朝、今日は雲ひとつなくとても天気がいい。

(代わり映えしない景色だ。 なにも変わらないなら、いっそなくなってしまえばいい......)

 窓から外を見ながら俺はそう思った。

 俺は山年 咲見《よまとし さきみ》十七歳。

 高校をやめニートとなった。 そんな俺を哀れんだじいさんからこの二階建て十室の古アパート【山年荘】《やまとしそう》を手に入れたまではよかったが、まさかの入居者ゼロ。 収入もなく必要経費に怯える日々だった。

(なにせ立地がもより駅より一時間だ。 元々開発で駅ができるのを見こしてじいさんが買ったが、地元住民の反対で頓挫した無用の長物)

 そうため息をついたその時、窓の外が激しく輝き目がくらんだ。

(なっ! なんだ!?)

「くくくくくっ! 千年ぶりの空気! ふぁーはっはっ!」

 後ろからバカ笑いが聞こえた。 振り返って見ると同い年ぐらいの少女がなぜか俺の部屋にいた。

(なんだこいつ!? どこから現れた)

「ふふふっ、帰ってきた! 異世界へと逃げ、ついにこのラルガルドへとな!」

(異世界...... ラルガルド? なにいって......)

 視界に入った窓から見える景色はいつもの景色ではなく、森のようになっていた。

「なっ!? どこだここは!?」 

「知れたこと、ここはラルガルド。 魔王たる余の魔法によって転移してきたのだ。 そのせいで貯めた魔力は失ったが、まあ回復すればよい...... それより国......」

「魔法で転移だと!?」

 驚いて声がでると少女と目があう。 燃えるような赤い長髪の美しい少女は、目を丸くして驚いている。

「な、なぜ! 貴様がここにいる!?」

「知るか! お前が俺のアパートを転移させたんだろ!」

「なんだと!? 本当だ! やたら魔力を消費したと思ったら、建物ごと転移したとはな。 ふっ、まあよい些末《さまつ》なことだ」

「まあよいわ、じゃねえよ! 勝手に転移させんな! もとに戻せよ!」

 俺は少女の頭を両拳で左右からこめかみをグリグリした。
 
「いたたたたた! やめよ! この余を誰と思うておる。 魔王ディンプルディだぞ!」

「知らんわ! ディンプルだか、テンプラだか知らんが! さっさともとの世界に戻せ!」

「いたたたたた! やめよ人間め! 余の魔法で消しずみにされたいか!」

 手をはねのけ、少女は潤む目で俺をにらんでいった。

「うるせえよ」

 少女の額に全力のデコピンを決める。

「ぐあっ!! き、貴様! 余が魔王と知っての狼藉か! 滅っしてくれる!」

 そういってわめいている少女を、近くに置いていた梱包用のビニール紐でぐるぐるに巻いた。

「なっ! なにをする!」

「元の世界に帰さないとお前をこのまま引き渡す。 お前魔王なんだろ。 報奨をもらえるかもしれん」

「や、やめよ! 魔法を使えば貴様なぞ、瞬殺だぞ! いいのか! いいんだな! いいんだよな!」

 床でバッタのように跳ねながらそうわめいた。

「できんだろうが! お前が魔法を使えんのは知っているぞ!」

「な、なぜそれを!!」

 目を白黒させて少女はおどろく。

「大声で自白していたんだよ! アホの子め!」

 縛った少女をひっぱっていく。

「なっ!! やめよ! やめよ! わかった! わかった! お主の望みを叶えてやる! それでよかろう!」

「望みだと? ふん! 信じられるか! 解放したあと、寝首をかくつもりだろうが! そうはさせん!」

「まて! 余は魔王ぞ! 約束をたがえるなどせぬ! 疑うというならば余と神との魔法の契約にしよう!」 

「魔法の契約だ?」

「うむ! 契約は絶対破れぬ! なっ! なっ!」

(願いか、魔法を使えるなら、ありえるか......)

「じゃあ証明して見せろよ」

「疑り深いやつめ...... よかろう見せてやる」

 少女が何事か唱えると、目の前の空間が揺らぎ映像がうつる。 

「これは......」

 そこには城のような所で玉座に座る少女と、かしづくローブをまとったものがいた。

「よかろう契約だ。 お主の願いを聞き入れ力を授けよう」

「はっ! 魔王さま! ありがとうございます」

 少女は立ち上がり杖をつくと魔法使いの体が光輝く。

「おお! 確かに約束通りの魔法です! ありがとうございます!」

 そう魔法使いは深々と礼をすると去っていった。

「これはなんだ?」

「それはかつて人間の男に魔法を授けた時のものだ。 どうだこれで信じたか」

(確かにこいつだな...... でも幻覚をみせたという可能性もある)

「どうだ。 あの雄々しく威厳ある姿! まさに魔王であろう! あっはっはっは!」

 いもむしのような姿で自称魔王は高笑いしている。

(うん、こいつアホの子だからたぶん本当だな。 さてどうする? こいつを連れていっても最悪嘘だと思われて斬首なんてこともあるし、手柄だけとられてなんの成果もえられん可能性もあるな。 それよりは......)

「よし、いいぞ。 でどんな契約だ」

 俺は魔王の話を受けることにした。

「三度の願いができる。 余の魔力が及ぶ範囲だ。 まあ元の世界に帰るにはかなり魔力を回復させねばならんがな。 あとはお主には攻撃できぬ、そういう契約だ」

(ふむ、魔力とやらを回復させればいいのか、なら願いを無限にするか)

「もちろん。 願いを増やしたりはできんがな」

 ニヤリと笑う。  

(まあ、当然か...... 三度叶う願いに、攻撃されないか......)

「これは他者に命じたりもできんわけか」

「無論だ! そのような姑息なまね魔王がするか! ただあくまで願いは倫理的、法的なものを準拠するからな。 貴様はなんか怪しい」

 下からいぶかしげにみあげてくる。

(ちっ! こいつただのアホの子じゃないか、だがこんな世界なら法等穴だらけだろういくらでもごり押しできる...... くくくっ)

「よし、その契約でいい」

 縛っている紐をほどいた。

「よかろう、ならばいくぞ!」

 ーー神との契約にしたがい、三つの汝が望みを叶えんーー 

「ディヴァインプロミス」

 ディンプルディと俺の体が互いに光輝き、すぐにおさまる。

「これで終わったのか......」

「ああ、これで余と神との契約は成立した」

 こうして俺は魔王ディンプルディと契約し異世界生活をスタートさせた。

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