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第五章 屍の視線(1)
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掌が、指が、唇が、舌が、肌の上を這っている。
気持ちが悪いので嘔吐しないように意識を他へ移す。
胃の中には既に何も入っていないし、胃液を吐くのはとても疲れるのだ。
部屋は暗く、瞼を閉じているので、具体的に何が起きているのかはよく分からない。
聞こえるのは、ベッドのスプリングの耳障りな音と、粘膜のたてる悲鳴と、荒い息遣いだけ。
抉じ開けて引っかく爪も、肉を噛む歯も、体内に押し込まれた異物も、纏わりつくような熱も汗も唾液も精液も、全て相手のものであって自分には関係ないから、それらについてはもう考えないことにしている。
音と闇で皮膚を塞ぎ、神経を痛みに集中させる。
そうすれば、この夜もまた越えられるはず。
性感帯だけでなく痛覚までなかったら、恐らく耐えられなかっただろう。
だから、それだけは本当によかったと思っている。
不意に骨と関節が軋む。
肺が圧迫されて息ができなくなる。
一際鋭い痛みが走って、どうやら新たな裂傷だか擦傷だかが生まれたらしい。
この男はわざと傷つけるような行為をする。
そうやって、滲んだ血を舐めるのが好きなのだ。
徐々に音が忙しなくなって、痛みが激しくなって、身体が冷たくなっていく。
どのくらいたったのだろう。
まだ終わらないのだろうか。
この男といると、一分が一時間に、一時間が永遠に感じられる。
本当に、あとどのくらい続くのだろう。
早く終わればいい。
早く。
早く。
早く。
これは本当に、俺の人生なのだろうか?
気持ちが悪いので嘔吐しないように意識を他へ移す。
胃の中には既に何も入っていないし、胃液を吐くのはとても疲れるのだ。
部屋は暗く、瞼を閉じているので、具体的に何が起きているのかはよく分からない。
聞こえるのは、ベッドのスプリングの耳障りな音と、粘膜のたてる悲鳴と、荒い息遣いだけ。
抉じ開けて引っかく爪も、肉を噛む歯も、体内に押し込まれた異物も、纏わりつくような熱も汗も唾液も精液も、全て相手のものであって自分には関係ないから、それらについてはもう考えないことにしている。
音と闇で皮膚を塞ぎ、神経を痛みに集中させる。
そうすれば、この夜もまた越えられるはず。
性感帯だけでなく痛覚までなかったら、恐らく耐えられなかっただろう。
だから、それだけは本当によかったと思っている。
不意に骨と関節が軋む。
肺が圧迫されて息ができなくなる。
一際鋭い痛みが走って、どうやら新たな裂傷だか擦傷だかが生まれたらしい。
この男はわざと傷つけるような行為をする。
そうやって、滲んだ血を舐めるのが好きなのだ。
徐々に音が忙しなくなって、痛みが激しくなって、身体が冷たくなっていく。
どのくらいたったのだろう。
まだ終わらないのだろうか。
この男といると、一分が一時間に、一時間が永遠に感じられる。
本当に、あとどのくらい続くのだろう。
早く終わればいい。
早く。
早く。
早く。
これは本当に、俺の人生なのだろうか?
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