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5. その男、童貞につき
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向坂を部屋に送ったあと、トイレにUターンして本日三度目の哀しい行為に耽った久野は、自室に戻るなりべたりと床に座り込んだ。ベッドか椅子に上がる余裕すらないため、脱いだ久野のパーカーを自分の椅子の背にかけて、ちゃっかり私物化している向坂に対しても、文句を言う気にはなれない。
向坂は先刻のようにベッドの縁にちょこんと腰かけていた。そして床で放心している哀れな軟体動物を無言で眺めていたが、やがて一つ首を縦に振った。
「お前は案外使えるな」
「ははは……どういたしまして……」
ありがたいお褒めの言葉に、久野は虚ろな笑い声を立てたが、向坂は気にする様子もなくもう一度肯き、ふあ、と小さくあくびをした。あくびまで愛くるしいなんて、いったい神は何処まで無慈悲なのだろうか。久野が架空のロープと架空の踏み台とを脳内に配置していると、突然向坂の右の人差し指がぴしっと彼に突きつけられた。
「僕は少し寝るから、お前はそこにいろ」
どうやら、お腹がいっぱいになったのと色々あって疲れたのとが重なって、おねむになったらしい。そして、なんでそんなことお前に命令されなきゃいけないんだよ、という至極まともな抗議をする機会は決定的に奪われていた。なにせ意訳すると(過酷な現実から逃避するため、あるいは他者からの攻撃的言説から精神を守るため、脳内意訳システムが異様に強化されてしまった人間というものが一定の頻度で誕生するのだが、久野にもどうやらその素質があったらしい)、ちょっと寝るけど傍にいてね、何処にも行かないでね、とお願いされているのだ。しかも発言したのは、中身はともかく外見は何度強調してもしたりないほど可愛らしい女の子である。この瞬間、彼の首は縦に振られるためだけに存在した。
「僕が起きるまで、絶対に部屋から出るなよ」
「お、おう、わかった」
そんな必死な目で見つめられて出て行けるわけがねえだろ、と思いながら久野はしっかりと肯き返してやった。すると向坂はもそもそと毛布の中に潜り込み、枕に頭を預けた。が、目を閉じる前にころんと寝返りを打って横向きになり、久野にじとっとした視線を向けた。
「……絶対、ここにいろよ」
「わかったって」
「絶対だからな」
「大丈夫だから安心して寝ろ」
すると大きな目がやっと瞼の下に隠れた。だが向坂は久野をいまひとつ信用しきれないのか、数十秒するとぱちっと目を開いて久野の存在を確認する。それが五分ほど続いた時点で、久野は投了を決めた。
彼は透明な国境線を越え、聖域に突入すると、相手のベッドの脇にどんと座った。
「ほら、俺はここにいるから」
言いながらずれた毛布を直してやる。すると突然向坂の手が彼の手首を掴み、ぐいっと毛布の下に引き込んだ。そして久野が呆気に取られている隙に、さっさと目を瞑ってしまう。もちろん指は彼の手首を掴んだままだ。
「いやもうほんと勘弁してくれよ……」
小さな手を振り解くことなどできなかった。縋りつくように絡みつく細い指は、向坂の不安を無言で物語っている。強気な態度が時折凄まじい勢いで崩れるあたり、きっと本当は心細くて仕方ないのだろう。久野は諦めて相手の望みどおりにさせてやることにした。彼の手を掴んだことで少し安心したのか、やがて向坂は眠りに落ちたようだった。こうして二人に束の間の休息が訪れた。
だが。
「……」
当たっている。
「…………」
それはもう物凄く当たっている。
「………………」
右手の中指と薬指と小指の先に、非常に好ましくて悩ましいむにむにした塊が、疑いの余地を挟む間隙も推測や推量や婉曲といった主観的思考的修辞的緩衝材を捻じ込む空隙もなく当たっている。
「………………もうやだ……」
もうこれ以上無為に自己の精子を下水に放流したくない久野は、細心の注意を払って向坂の指から自分の手を引き抜こうとした。が、ほんの数ミリ動かしたか否かといったところで、安らかに眠っていた向坂の顔に微かな不満の色が浮かんだ。
「んー……」
向坂は小さく唸ると久野の手をよりいっそう強く握り、残酷にもそれを自身の胸へと引き寄せてしまった。
「――!」
童貞は声にならない悲鳴あるいは歓声を上げた。
刺激ということに限定するなら、先ほど女の子の部分を直に擦り上げたことに比べれば、布越しの乳など可愛らしいものではある。しかし童貞的には女性器はあまりにもファンタスティックでアルティメットでフェータルでハードであり、その破壊力に一発で新皮質を焼き払われた彼は思考停止するほかなく、それに比べリアルでファミリアでキッチュでイージーな布越しのおっぱいは身の程に合ったものであり、対象を観察し堪能し記憶する精神的余裕を確保しておいてくれるという意味において、生まんことは別の価値と尊さがあった。
というわけで、向坂が自分の手を放さないことを言い訳に、久野は据え膳ならぬ据え乳に五本の指を埋めた。これまでも何度か胸や腕に乳を押しつけられてはいたものの、掌や指でじっくりとその感触を味わうのは初めてだった。
「……っ」
おっぱいは、ただただ、素晴らしかった。
彼は目に熱いものが湧くのを感じた。この感触を何と形容したものだろう。むにゅっとしつつもぷるっとしており、何処までも従順な柔らかさに溢れつつ、男の力を受け止める弾力もあり……。
そんなわけで、片手で乳をむにむにと揉みながら、久野は妄想した。次のパラグラフはその妄想の内容であり、全てフィクション(フィクションという言葉の適用範囲を、ここで深く追及してはならない)である。
久野が胸を優しくしかし情熱的にもしくは変態的に撫でさすり揉みしだいていると、安らかに眠っていたはずの向坂の息が、僅かずつではあるが徐々に上がっていった。頬がほんのりと上気し、毛布の下で膝をすり合わせ始める。そのたびに揉まれていない方の乳房がたぷたぷと揺れた。やがて白く細い指が、放っておかれたおっぱいを遠慮がちに掴み、もう片方の手がそろそろと自身の股間へ這い下りていった。久野が毛布を取り除けると、いつの間にか向坂は、上半身は全裸、下半身は下着だけになっており、その指先はひらひらした真っ白なパンツの中に忍び込んで、密やかな動きを開始していた。ちゅく、ちゅぷ、という淫らな音が指の動きに合わせて小さく響く。ぷるぷる震える白い塊を力任せに鷲掴みにし、健気なほどぴんと立ち上がった桃色の乳首を指の間できつく挟むと、向坂はオナニーを続けながらびくびくと震えた。「や、あ、あぁん……」甘ったるい声と共に、身体が反る。久野はパンツの中に突っ込まれていた向坂の腕を掴んで引き出し、代わりに自分の指をそこに差し込んだ。下着はしとどに濡れており、温かな肉は絶頂の余韻に痙攣している。肉の襞を掻き分けると、そこには侵入できそうな、小さな小さな穴のようなものがあった。彼は一つ深呼吸をして、それから最も長い中指を穴に宛がうと、愛液でぬめる処女の膣をゆっくりと暴いた。……
それからきっかり二時間後、向坂の目がぱちりと開いた。ふあ、とまたしても愛らしいあくびをして、虫けらか何かのように今まで握り締めていた久野の手を振り払い、気持ちよさそうに伸びをすると、上半身を起こす。そしてベッドの脇で項垂れている善良な童貞の姿を認め、眉間に軽く皺を寄せた。
「……お前、なんだか老けたな」
「ありがとうございます……」
妄想疲れで顔面がアラサーのヤクザにまで進化した久野は、床の上でへたばったまま、やはり何が何でも向坂の姿を元に戻さねばならない、と強く思った。このままでは自分は生ける屍になってしまう。しかしいったいどうすれば元に戻るのだろう。
水を飲みたいだのトイレに行きたいだのちょっと勉強するからお前もそのへんで課題でもやれだのという向坂の要求にいちいち応えてやりながら、久野はずっと解決策を考え続けた。しかし何もよいアイディアは浮かばないまま、夜になった。夕食は昼と同じように部屋に運んでやったので問題なかったのだが、九時になって久野が風呂に行く準備を始めると、向坂が例の調子でちょんちょんと彼の袖を引っ張った。
「……なんだよ」
嫌な予感を覚えつつ訊ねる。すると向坂は平然と言い放った。
「僕も風呂に入りたい」
「無理に決まってんだろ」
ここは男子校の寮だ。共同浴場しかないし、もちろん女湯なんて存在しない。トイレに行くくらいならぎりぎり誤魔化せるが、誰にもばれずに入浴することなど絶対に不可能だ。思春期真っ只中の男たちの群れに裸の向坂を放り込んだらどうなるか、考えただけでも恐ろしい。
間髪入れず却下すると、向坂は頬を膨らませた。残念ながら、物凄く可愛い。
「このままじゃ気持ち悪い」
「駄目だ」
「入りたい」
「駄目です」
「でも」
「だーめ」
向坂は久野の袖を握ったまま、彼の目をじっと見つめた。久野はたじろいだが、しかしいくら美少女のお願いであっても、こればかりは聞いてやるわけにはいかない。
「濡れタオルで身体を拭くくらいにしとけ」
視線を逸らしてそう言うと、向坂は少し考えてから肯いた。
「じゃあそれでもいい。ただし、お前がやってくれ」
「なんでだよ!」
ほとんどキレながら久野は叫んだ。善良な童貞をこれ以上地獄に突き落とすなど、鬼畜の所業としか思えない。アラサー極道フェイスで睨みつけると、どういうわけか向坂は胸を張って、自分でなんてできるわけがないだろう、と言った。その言葉と態度に、久野は怒りを通り越して呆れた。
「あのなあ、お前が大金持ちのお坊ちゃまだってのは知ってるけど、身体くらい自分で拭けるだろ。どんだけ甘やかされて生きてきたんだよ。ていうか、今までは全部自分でやってきたんじゃないのか」
「失礼な奴だな。僕だって男の身体のままだったら、身体を拭くくらいのことは自分でする」
久野は考えた。つまり、女の身体だから自分ではできない、ということか。では、何故女の身体ではできないのだろう。
「……もしかしてお前、女、駄目なのか」
「見るのも触るのも論外だ」
「もしかして、……ホモ?」
貞操の危機を感じて思わず訊ねると、灰色の瞳が絶対零度の視線で久野を貫いた。
「お前は本当に感動的なまでに馬鹿だな」
「馬鹿って何だよ! お前俺に頼みごとしてるんじゃなかったのかよ!」
すると向坂はいかにもうんざりした様子で溜め息をついた。そして馬鹿は馬鹿だろう、と数時間前と同じ言葉を口にした。
「いいか、女の身体が苦手な男が同性愛者だとは限らないだろう。セクシャリティのあり方は多様だ。僕は確かに女体を生理的に受けつけない人間だが、しかしだからといって男の身体に欲情するわけでもない。つまり性欲はあってもその対象が現状何処にも向かない種類の人間だ。ついでにいうと、恋愛対象は特に決まっていないが、これは僕と対等の立場であろうとする人間に今まで出会ったことがないせいで、誰にも恋愛感情を持ったことがないためだな。ゆえに今後、僕が女性に恋をするのか、あるいは男性に恋をするのかは不明だ。もしかしたら、どちらにも恋をしないかもしれない。したがって、僕は今の自分のセクシャリティを確定させることができない。可能性としては、女性を愛しつつもその肉体を嫌悪するため性的関係が結べない、という非常に厄介な事態に陥ることもありうる。もしそうなった場合、僕は晴れてノンセクシャルに分類されることになるだろう。ついでに言うと、お前がさっき言った『ホモ』という表現には差別的なニュアンスがあるから、世の同性愛者に対し喧嘩を売るつもりがないのであれば、今後は『ホモセクシャル』や『ゲイ』などと表現すべきだ。もう一つつけ加えると、『ホモセクシャル』とは同性愛という意味だから、レズビアンも含まれる。わかったか」
「はあ」
全然わからないが、とりあえず自分の貞操は安全らしいということは理解できたので、久野は肯いておいた。そして肯いてしまったせいで、向坂の身体を拭いてやることがなし崩し的に決まってしまった。
自らの不幸を嘆きつつ部屋を出た久野は、湯を張った洗面器を手にして戻った。向坂は何をするというわけでもなく、床に座ってタオルを絞る彼の隣に体育座りし、タオルを捻じり切りかねないほど緊張している童貞をじっと見ていた。
「ええと……と、にかく、ぬ、脱げよ」
「脱がせてくれ」
女の子に対し、脱げよ、などという言葉を吐くのは、生まれて初めてだった。そして女の子に、脱がせて、と言われるのも、やはり生まれて初めてだった。
「――は?」
「だから、脱がせてくれ。さっき言っただろう、女の身体は、見るのも触るのも駄目なんだ」
「だったら目を瞑って脱げばいいんじゃないかなあ!」
動揺と絶望で裏声になりつつも必死で久野が提案すると、ジト目の美少女は無情にそれを叩き切った。
「無理だな。どうやったって手が身体に触れる。僕が嘔吐して困るのはお前だろう。ほら、早くしろ、湯が冷める」
ほかに道はなかった。久野は諦めて隣に座る少女のTシャツに手をかけた。長い睫が下りるのを見届けてから、布を上に引っ張る。
「ほら、手を挙げろ」
頭と手からTシャツを抜いて取り去ってやると、滑らかな皮膚に覆われた真っ白な上半身が露わになった。腕は不安なほど細く、腹は何処までも平坦だが、おっぱいは最初に見たときと同じ重量感で、感度のよさそうな甘い色の乳首を心持ち上に向けている。
相手が目を閉じたままなのを確認してから、久野はタオルで痛々しいくらい細い鎖骨の辺りをそっと撫でた。気持ちがよいのか、向坂の表情が和らぐ。それで彼は向坂の後ろに回り、髪の毛を持ち上げて、首や肩や背中や腕を丁寧に拭いてやった。初めて間近で接する女の子の身体は、何処も彼処も細く華奢で、力を入れたら壊れてしまいそうだった。それは久野を不安な気持ちにさせた。もし向坂が女の子になってしまったことが、他の連中――それも善良な童貞とは対極の存在――に知れたら、どうなるだろう。向坂は頭痛がするほど無防備だ。性欲まみれの男どもに取り囲まれてつるんと剥かれ、まだ男を知らない未熟な膣や小さな口や細い喉に(そしてもしかしたらか弱いアナルにも)汚い男根を死ぬほどぶち込まれるはめになりかねないし、そうなったら心だけでなく肉体にも深刻な傷を負うことになるだろう。
背中側を拭いている間はそんなことを考えて沈鬱な気分になっていたため、久野は性欲を抑えたまま作業を進めることに成功した。しかし身体の正面を拭く段階になると、さすがに煩悩を追い払うことはできなかった。彼はおっぱいを前にして、暫し固まった。いかにも少女といった具合のほっそりした身体と、搾れば母乳が噴き出しそうなほど丸々と熟れきった乳房の組み合わせは、どうしようもなく猥褻だった。勃起するのはこの際仕方ないとして、この完璧なおっぱいをいかに攻略すべきだろう。久野は考えた末、まずは無難に腹を片づけることにした。ぺたんつるんとした可愛らしいお腹を、くるくるとさするように拭いてやる。それから徐々に拭く範囲を上にずらす。タオルの端がぷっくり膨れた下乳に触れたとき、向坂は小さく息を漏らした。
「ん……」
久野は心の中で叫んだ。喘ぐな。
身体の中心から外側へ、外側から中心へ、タオルを持った手で繰り返し南半球を往復すると、おっぱいはたぷんたぷんと揺れた。乳首も乳房の揺れに伴い、視界の中で狼狽えたように右往左往する。タオルがとうとう乳首に到達し、小さな乳頭を綿百パーセントの優しさで擦り上げる。
「……ぁ……ふ……」
乳首は他の部位と色と形状がことなっている。ということは、より丁寧に拭かねばならないはずだ。という謎の論理を展開し、久野は親指と人差し指でタオル越しに乳首を摘み、痛くないよう加減しながら柔らかく擦り合わせた。
「あ……あん……うふぅ……」
揺れるおっぱい、桜色に上気した頬、乳首を摘まれて零れる甘い鳴き声。どれも数時間前に久野が展開した妄想と同じだった。右の乳首を擦り終えると、彼の手は左の乳首に移った。
「ひぁっ」
左の方が、感度がよいらしい。生地で先端をこしこししてやると、瞬く間に赤くなって硬く膨れる。もう我慢の限界だった。久野はタオルを広がると、それを両方の乳房に被せ、布の上から二つの丸い肉塊を握り込んだ。
「や、ぁ、あ、あ、あん……っ」
両手で肉を掴み、蕩けそうなほど柔らかいのをよいことに揉みしだいた。直接触れているわけではないのに、指も掌も気持ちがよかった。気の済むまで揉み倒してから、次は谷間を攻めることにする。著しく発育の進んだ乳房と乳房の間は狭く、タオルで包んだ片手をそこに挟み、掌と甲とを使って上下運動をすると、おっぱいがぶるんぶるんと弾んだ。恐らくこれがいわゆるパイズリなのだろう、と久野は思った。手の代わりに愚息を挟めば完璧だ。おっぱいで陰茎を扱きつつ、柔らかな舌と唇で亀頭をれろれろちゅっちゅしてもらえれば、もう自分は死んでもいいかもしれない。そんな気分で相手の顔を覗き込んだ久野は、背中を悪寒に似た何かが駆け抜けるのを感じた。
エロい。
胸を弄られ、目を閉じて息を乱す向坂の表情は、雄に嵌められるのを待つ雌のそれだった。濡れた睫と薄く開いた唇に、思わず舌を伸ばしそうになる。
――今ここで、俺は妄想を現実にすべきなのだろうか。
「……下、拭くから」
ぼそりと告げて、久野は向坂を抱き上げた。向坂は抵抗せず、腕を彼の首に回した。華奢な身体をベッドに下ろすと、ゆるゆるのズボンと下着をまとめて取り去る。それから自分もベッドの上に乗り、自らの太腿に相手の踵を置いて、つまさきから足を拭き始めた。太腿まで拭き終えると、もう片方の足に移る。その間、久野の目は完全に向坂の足の間に固定されていた。優しい桃色をした襞が、足を動かすたび微かに蠢く。
無抵抗な身体をころりと転がしてうつ伏せにすると、次は小さいながらも絶妙な丸みを維持した丘に取り掛かる。少女のお尻は、おっぱいとはまた異なる弾力で久野の力を受け止めた。今まで尻にはさほど興味のなかった久野だったが、濡れタオルを貼りつかせた尻の谷間というのは、想像を絶する破壊力があった。尻を堪能してから、久野は再び向坂の身体を転がして仰向けにした。
「膝を立てて、足を広げろ。拭きにくい」
ここまでされてもまだ身体を拭いてもらっているという認識なのか、向坂は素直に言われたとおりの姿勢をとった。最早無毛といってよいくらいつるつるした秘所が、久野の目の前でぱくりと開かれる。そこは既に女の子のお汁でぐっしょりと濡れ、男を欲しがるようにひくんひくんと震えていた。
「大事なところだから、特に綺麗にしないとな」
奇妙なくらい冷静な声が出たのは、興奮の針が振り切ってしまったせいだろうか。
「冷たかったら言えよ」
湯をくぐらせたタオルを絞り、それで指先を包む。柔らかな花弁の一枚をなぞると、それだけで向坂の腰は揺れた。
「あん、ん、……ひぅ……あぁっ」
「動くなよ。指が変なところに入ったらどうするんだ」
「くぅん……」
小さな穴を隠すように寄った、淡い色の花弁を丹念に拭う。向坂は動かないように我慢しているらしかったが、時折踵がシーツを擦った。男根を迎え入れるための準備をしているのか、花弁の下からは耐えずとろとろと愛液が滴り、洪水のようになっている。
「これ、拭いても追いつかないんじゃねえの」
拭っても拭っても溢れる雫。止めるには、男の怒張した性器を奥までぎちぎちに嵌め込み、栓をするしかないだろう。
クリトリスをぐりぐりと刺激しながら、肉の襞を掻き分けて、粗相をしたかのように濡れそぼった穴に触れる。妄想ではこの中に指を突っ込んで、Gスポット(何処にあるのか正確に把握しているわけではないが)を嫌というほど擦り上げ、何度も潮を吹かせたのだ。
「ひっ、いやっ、あ、あ、あうぅっ、ひぐっ、いやあああっ」
やはりクリトリスは弱いのだろう。向坂の喘ぎ声が切羽詰まったものになっていく。久野が視線を上げると、綺麗な顔は涙でぐしょぐしょになっており、指先はシーツを握り締めて強張っていた。
準備なら、互いにできている。向坂の女の子の部分は申し分ないほど濡れているし、久野の愚息も痛いくらい膨張している。ここまでしても相手が逃げないのなら、食ってしまっても構わないはずだ。そもそも、自分がこんな美少女になったにも拘らず、無防備に素肌を晒して煽ってくる奴が悪いのだ。
そう思った久野の手が、未使用の愚息を取り出すべく、自らの股間のジッパーに触れたときだった。
「……く、の……」
か細い声が、彼の名を呼んだ。それはまるで、迷子の子供が母親を呼んでいるかのようだった。
「……くの……」
瞼が持ち上がり、潤んだ灰色の瞳が彼を捉える。そこには恐怖や拒絶の色がない代わりに、疑念も戸惑いも浮かんではいなかった。その目には、ただ不安だけがあった。そしてその不安を、ほかでもない久野に取り除いてもらおうと、向坂は彼に視線で、声で、縋りついていた。
久野はゆっくりと息を吐いた。それから濡れた向坂の股間を簡単に拭うと、相手の身体を抱き起こし、数時間前にしたように膝の上に乗せて頭を撫でた。
「……大丈夫だ。ちゃんと綺麗になったから、もう何もしない」
向坂は訳がわからないのか、久野の頬に自分の頬をくっつけて暫くじっとしていたが、やがて何かに納得したかのように大きく肯くと、久野の顎を平手で突き上げた。
「おふっ」
「このままだと風邪を引く。着替えはクローゼットの中だ」
不意を打たれてのけぞった久野は、顎をさすりながら小さな暴君を見つめた。
「……要するに、着せてほしいのか」
「脱げなかったんだから着られるわけがないだろう。少し考えれば、いや、考えるまでもなくわかる話だ。それでよく七葉の入試に受かったな。裏口か?」
童貞を卒業し損ねた挙句、裏口入学疑惑をかけられた哀れな少年は、力なく首を横に振るとベッドから下り、クローゼットを開いた。もう口を開く気にもなれない。それでも久野が外見だけはいたいけな少女に新しいTシャツとズボンを着せ、ついでに乱れた髪を手櫛で整えてやっていると、つやつやベビーピンクの唇が思い出したように動いた。
「それにしても、他人に身体を拭かれると、くすぐったくて声が出るな。笑いすぎて少し喉が痛い」
想定内の反応だった。あまりに想定内すぎて、円周率が小数第十位あたりで割り切れてしまいそうだった。
「あーそうですねーでも笑う門には福来るって言いますからねー」
こうなったらもう笑うしかない。ただただ路上のミミズのように干からびた笑みを浮かべる久野に、向坂は真冬の屈斜路湖のごとく凍てついた眼差しを注いだ。
「なんだか哀れだな。存在が」
それがあまりに的確なコメントだったため、久野は静かに自分のベッドに戻り、三十分ばかり枕に顔を埋めてさめざめと泣いた。そのせいで、彼は危うく風呂に入り損ねるところだった。
向坂は先刻のようにベッドの縁にちょこんと腰かけていた。そして床で放心している哀れな軟体動物を無言で眺めていたが、やがて一つ首を縦に振った。
「お前は案外使えるな」
「ははは……どういたしまして……」
ありがたいお褒めの言葉に、久野は虚ろな笑い声を立てたが、向坂は気にする様子もなくもう一度肯き、ふあ、と小さくあくびをした。あくびまで愛くるしいなんて、いったい神は何処まで無慈悲なのだろうか。久野が架空のロープと架空の踏み台とを脳内に配置していると、突然向坂の右の人差し指がぴしっと彼に突きつけられた。
「僕は少し寝るから、お前はそこにいろ」
どうやら、お腹がいっぱいになったのと色々あって疲れたのとが重なって、おねむになったらしい。そして、なんでそんなことお前に命令されなきゃいけないんだよ、という至極まともな抗議をする機会は決定的に奪われていた。なにせ意訳すると(過酷な現実から逃避するため、あるいは他者からの攻撃的言説から精神を守るため、脳内意訳システムが異様に強化されてしまった人間というものが一定の頻度で誕生するのだが、久野にもどうやらその素質があったらしい)、ちょっと寝るけど傍にいてね、何処にも行かないでね、とお願いされているのだ。しかも発言したのは、中身はともかく外見は何度強調してもしたりないほど可愛らしい女の子である。この瞬間、彼の首は縦に振られるためだけに存在した。
「僕が起きるまで、絶対に部屋から出るなよ」
「お、おう、わかった」
そんな必死な目で見つめられて出て行けるわけがねえだろ、と思いながら久野はしっかりと肯き返してやった。すると向坂はもそもそと毛布の中に潜り込み、枕に頭を預けた。が、目を閉じる前にころんと寝返りを打って横向きになり、久野にじとっとした視線を向けた。
「……絶対、ここにいろよ」
「わかったって」
「絶対だからな」
「大丈夫だから安心して寝ろ」
すると大きな目がやっと瞼の下に隠れた。だが向坂は久野をいまひとつ信用しきれないのか、数十秒するとぱちっと目を開いて久野の存在を確認する。それが五分ほど続いた時点で、久野は投了を決めた。
彼は透明な国境線を越え、聖域に突入すると、相手のベッドの脇にどんと座った。
「ほら、俺はここにいるから」
言いながらずれた毛布を直してやる。すると突然向坂の手が彼の手首を掴み、ぐいっと毛布の下に引き込んだ。そして久野が呆気に取られている隙に、さっさと目を瞑ってしまう。もちろん指は彼の手首を掴んだままだ。
「いやもうほんと勘弁してくれよ……」
小さな手を振り解くことなどできなかった。縋りつくように絡みつく細い指は、向坂の不安を無言で物語っている。強気な態度が時折凄まじい勢いで崩れるあたり、きっと本当は心細くて仕方ないのだろう。久野は諦めて相手の望みどおりにさせてやることにした。彼の手を掴んだことで少し安心したのか、やがて向坂は眠りに落ちたようだった。こうして二人に束の間の休息が訪れた。
だが。
「……」
当たっている。
「…………」
それはもう物凄く当たっている。
「………………」
右手の中指と薬指と小指の先に、非常に好ましくて悩ましいむにむにした塊が、疑いの余地を挟む間隙も推測や推量や婉曲といった主観的思考的修辞的緩衝材を捻じ込む空隙もなく当たっている。
「………………もうやだ……」
もうこれ以上無為に自己の精子を下水に放流したくない久野は、細心の注意を払って向坂の指から自分の手を引き抜こうとした。が、ほんの数ミリ動かしたか否かといったところで、安らかに眠っていた向坂の顔に微かな不満の色が浮かんだ。
「んー……」
向坂は小さく唸ると久野の手をよりいっそう強く握り、残酷にもそれを自身の胸へと引き寄せてしまった。
「――!」
童貞は声にならない悲鳴あるいは歓声を上げた。
刺激ということに限定するなら、先ほど女の子の部分を直に擦り上げたことに比べれば、布越しの乳など可愛らしいものではある。しかし童貞的には女性器はあまりにもファンタスティックでアルティメットでフェータルでハードであり、その破壊力に一発で新皮質を焼き払われた彼は思考停止するほかなく、それに比べリアルでファミリアでキッチュでイージーな布越しのおっぱいは身の程に合ったものであり、対象を観察し堪能し記憶する精神的余裕を確保しておいてくれるという意味において、生まんことは別の価値と尊さがあった。
というわけで、向坂が自分の手を放さないことを言い訳に、久野は据え膳ならぬ据え乳に五本の指を埋めた。これまでも何度か胸や腕に乳を押しつけられてはいたものの、掌や指でじっくりとその感触を味わうのは初めてだった。
「……っ」
おっぱいは、ただただ、素晴らしかった。
彼は目に熱いものが湧くのを感じた。この感触を何と形容したものだろう。むにゅっとしつつもぷるっとしており、何処までも従順な柔らかさに溢れつつ、男の力を受け止める弾力もあり……。
そんなわけで、片手で乳をむにむにと揉みながら、久野は妄想した。次のパラグラフはその妄想の内容であり、全てフィクション(フィクションという言葉の適用範囲を、ここで深く追及してはならない)である。
久野が胸を優しくしかし情熱的にもしくは変態的に撫でさすり揉みしだいていると、安らかに眠っていたはずの向坂の息が、僅かずつではあるが徐々に上がっていった。頬がほんのりと上気し、毛布の下で膝をすり合わせ始める。そのたびに揉まれていない方の乳房がたぷたぷと揺れた。やがて白く細い指が、放っておかれたおっぱいを遠慮がちに掴み、もう片方の手がそろそろと自身の股間へ這い下りていった。久野が毛布を取り除けると、いつの間にか向坂は、上半身は全裸、下半身は下着だけになっており、その指先はひらひらした真っ白なパンツの中に忍び込んで、密やかな動きを開始していた。ちゅく、ちゅぷ、という淫らな音が指の動きに合わせて小さく響く。ぷるぷる震える白い塊を力任せに鷲掴みにし、健気なほどぴんと立ち上がった桃色の乳首を指の間できつく挟むと、向坂はオナニーを続けながらびくびくと震えた。「や、あ、あぁん……」甘ったるい声と共に、身体が反る。久野はパンツの中に突っ込まれていた向坂の腕を掴んで引き出し、代わりに自分の指をそこに差し込んだ。下着はしとどに濡れており、温かな肉は絶頂の余韻に痙攣している。肉の襞を掻き分けると、そこには侵入できそうな、小さな小さな穴のようなものがあった。彼は一つ深呼吸をして、それから最も長い中指を穴に宛がうと、愛液でぬめる処女の膣をゆっくりと暴いた。……
それからきっかり二時間後、向坂の目がぱちりと開いた。ふあ、とまたしても愛らしいあくびをして、虫けらか何かのように今まで握り締めていた久野の手を振り払い、気持ちよさそうに伸びをすると、上半身を起こす。そしてベッドの脇で項垂れている善良な童貞の姿を認め、眉間に軽く皺を寄せた。
「……お前、なんだか老けたな」
「ありがとうございます……」
妄想疲れで顔面がアラサーのヤクザにまで進化した久野は、床の上でへたばったまま、やはり何が何でも向坂の姿を元に戻さねばならない、と強く思った。このままでは自分は生ける屍になってしまう。しかしいったいどうすれば元に戻るのだろう。
水を飲みたいだのトイレに行きたいだのちょっと勉強するからお前もそのへんで課題でもやれだのという向坂の要求にいちいち応えてやりながら、久野はずっと解決策を考え続けた。しかし何もよいアイディアは浮かばないまま、夜になった。夕食は昼と同じように部屋に運んでやったので問題なかったのだが、九時になって久野が風呂に行く準備を始めると、向坂が例の調子でちょんちょんと彼の袖を引っ張った。
「……なんだよ」
嫌な予感を覚えつつ訊ねる。すると向坂は平然と言い放った。
「僕も風呂に入りたい」
「無理に決まってんだろ」
ここは男子校の寮だ。共同浴場しかないし、もちろん女湯なんて存在しない。トイレに行くくらいならぎりぎり誤魔化せるが、誰にもばれずに入浴することなど絶対に不可能だ。思春期真っ只中の男たちの群れに裸の向坂を放り込んだらどうなるか、考えただけでも恐ろしい。
間髪入れず却下すると、向坂は頬を膨らませた。残念ながら、物凄く可愛い。
「このままじゃ気持ち悪い」
「駄目だ」
「入りたい」
「駄目です」
「でも」
「だーめ」
向坂は久野の袖を握ったまま、彼の目をじっと見つめた。久野はたじろいだが、しかしいくら美少女のお願いであっても、こればかりは聞いてやるわけにはいかない。
「濡れタオルで身体を拭くくらいにしとけ」
視線を逸らしてそう言うと、向坂は少し考えてから肯いた。
「じゃあそれでもいい。ただし、お前がやってくれ」
「なんでだよ!」
ほとんどキレながら久野は叫んだ。善良な童貞をこれ以上地獄に突き落とすなど、鬼畜の所業としか思えない。アラサー極道フェイスで睨みつけると、どういうわけか向坂は胸を張って、自分でなんてできるわけがないだろう、と言った。その言葉と態度に、久野は怒りを通り越して呆れた。
「あのなあ、お前が大金持ちのお坊ちゃまだってのは知ってるけど、身体くらい自分で拭けるだろ。どんだけ甘やかされて生きてきたんだよ。ていうか、今までは全部自分でやってきたんじゃないのか」
「失礼な奴だな。僕だって男の身体のままだったら、身体を拭くくらいのことは自分でする」
久野は考えた。つまり、女の身体だから自分ではできない、ということか。では、何故女の身体ではできないのだろう。
「……もしかしてお前、女、駄目なのか」
「見るのも触るのも論外だ」
「もしかして、……ホモ?」
貞操の危機を感じて思わず訊ねると、灰色の瞳が絶対零度の視線で久野を貫いた。
「お前は本当に感動的なまでに馬鹿だな」
「馬鹿って何だよ! お前俺に頼みごとしてるんじゃなかったのかよ!」
すると向坂はいかにもうんざりした様子で溜め息をついた。そして馬鹿は馬鹿だろう、と数時間前と同じ言葉を口にした。
「いいか、女の身体が苦手な男が同性愛者だとは限らないだろう。セクシャリティのあり方は多様だ。僕は確かに女体を生理的に受けつけない人間だが、しかしだからといって男の身体に欲情するわけでもない。つまり性欲はあってもその対象が現状何処にも向かない種類の人間だ。ついでにいうと、恋愛対象は特に決まっていないが、これは僕と対等の立場であろうとする人間に今まで出会ったことがないせいで、誰にも恋愛感情を持ったことがないためだな。ゆえに今後、僕が女性に恋をするのか、あるいは男性に恋をするのかは不明だ。もしかしたら、どちらにも恋をしないかもしれない。したがって、僕は今の自分のセクシャリティを確定させることができない。可能性としては、女性を愛しつつもその肉体を嫌悪するため性的関係が結べない、という非常に厄介な事態に陥ることもありうる。もしそうなった場合、僕は晴れてノンセクシャルに分類されることになるだろう。ついでに言うと、お前がさっき言った『ホモ』という表現には差別的なニュアンスがあるから、世の同性愛者に対し喧嘩を売るつもりがないのであれば、今後は『ホモセクシャル』や『ゲイ』などと表現すべきだ。もう一つつけ加えると、『ホモセクシャル』とは同性愛という意味だから、レズビアンも含まれる。わかったか」
「はあ」
全然わからないが、とりあえず自分の貞操は安全らしいということは理解できたので、久野は肯いておいた。そして肯いてしまったせいで、向坂の身体を拭いてやることがなし崩し的に決まってしまった。
自らの不幸を嘆きつつ部屋を出た久野は、湯を張った洗面器を手にして戻った。向坂は何をするというわけでもなく、床に座ってタオルを絞る彼の隣に体育座りし、タオルを捻じり切りかねないほど緊張している童貞をじっと見ていた。
「ええと……と、にかく、ぬ、脱げよ」
「脱がせてくれ」
女の子に対し、脱げよ、などという言葉を吐くのは、生まれて初めてだった。そして女の子に、脱がせて、と言われるのも、やはり生まれて初めてだった。
「――は?」
「だから、脱がせてくれ。さっき言っただろう、女の身体は、見るのも触るのも駄目なんだ」
「だったら目を瞑って脱げばいいんじゃないかなあ!」
動揺と絶望で裏声になりつつも必死で久野が提案すると、ジト目の美少女は無情にそれを叩き切った。
「無理だな。どうやったって手が身体に触れる。僕が嘔吐して困るのはお前だろう。ほら、早くしろ、湯が冷める」
ほかに道はなかった。久野は諦めて隣に座る少女のTシャツに手をかけた。長い睫が下りるのを見届けてから、布を上に引っ張る。
「ほら、手を挙げろ」
頭と手からTシャツを抜いて取り去ってやると、滑らかな皮膚に覆われた真っ白な上半身が露わになった。腕は不安なほど細く、腹は何処までも平坦だが、おっぱいは最初に見たときと同じ重量感で、感度のよさそうな甘い色の乳首を心持ち上に向けている。
相手が目を閉じたままなのを確認してから、久野はタオルで痛々しいくらい細い鎖骨の辺りをそっと撫でた。気持ちがよいのか、向坂の表情が和らぐ。それで彼は向坂の後ろに回り、髪の毛を持ち上げて、首や肩や背中や腕を丁寧に拭いてやった。初めて間近で接する女の子の身体は、何処も彼処も細く華奢で、力を入れたら壊れてしまいそうだった。それは久野を不安な気持ちにさせた。もし向坂が女の子になってしまったことが、他の連中――それも善良な童貞とは対極の存在――に知れたら、どうなるだろう。向坂は頭痛がするほど無防備だ。性欲まみれの男どもに取り囲まれてつるんと剥かれ、まだ男を知らない未熟な膣や小さな口や細い喉に(そしてもしかしたらか弱いアナルにも)汚い男根を死ぬほどぶち込まれるはめになりかねないし、そうなったら心だけでなく肉体にも深刻な傷を負うことになるだろう。
背中側を拭いている間はそんなことを考えて沈鬱な気分になっていたため、久野は性欲を抑えたまま作業を進めることに成功した。しかし身体の正面を拭く段階になると、さすがに煩悩を追い払うことはできなかった。彼はおっぱいを前にして、暫し固まった。いかにも少女といった具合のほっそりした身体と、搾れば母乳が噴き出しそうなほど丸々と熟れきった乳房の組み合わせは、どうしようもなく猥褻だった。勃起するのはこの際仕方ないとして、この完璧なおっぱいをいかに攻略すべきだろう。久野は考えた末、まずは無難に腹を片づけることにした。ぺたんつるんとした可愛らしいお腹を、くるくるとさするように拭いてやる。それから徐々に拭く範囲を上にずらす。タオルの端がぷっくり膨れた下乳に触れたとき、向坂は小さく息を漏らした。
「ん……」
久野は心の中で叫んだ。喘ぐな。
身体の中心から外側へ、外側から中心へ、タオルを持った手で繰り返し南半球を往復すると、おっぱいはたぷんたぷんと揺れた。乳首も乳房の揺れに伴い、視界の中で狼狽えたように右往左往する。タオルがとうとう乳首に到達し、小さな乳頭を綿百パーセントの優しさで擦り上げる。
「……ぁ……ふ……」
乳首は他の部位と色と形状がことなっている。ということは、より丁寧に拭かねばならないはずだ。という謎の論理を展開し、久野は親指と人差し指でタオル越しに乳首を摘み、痛くないよう加減しながら柔らかく擦り合わせた。
「あ……あん……うふぅ……」
揺れるおっぱい、桜色に上気した頬、乳首を摘まれて零れる甘い鳴き声。どれも数時間前に久野が展開した妄想と同じだった。右の乳首を擦り終えると、彼の手は左の乳首に移った。
「ひぁっ」
左の方が、感度がよいらしい。生地で先端をこしこししてやると、瞬く間に赤くなって硬く膨れる。もう我慢の限界だった。久野はタオルを広がると、それを両方の乳房に被せ、布の上から二つの丸い肉塊を握り込んだ。
「や、ぁ、あ、あ、あん……っ」
両手で肉を掴み、蕩けそうなほど柔らかいのをよいことに揉みしだいた。直接触れているわけではないのに、指も掌も気持ちがよかった。気の済むまで揉み倒してから、次は谷間を攻めることにする。著しく発育の進んだ乳房と乳房の間は狭く、タオルで包んだ片手をそこに挟み、掌と甲とを使って上下運動をすると、おっぱいがぶるんぶるんと弾んだ。恐らくこれがいわゆるパイズリなのだろう、と久野は思った。手の代わりに愚息を挟めば完璧だ。おっぱいで陰茎を扱きつつ、柔らかな舌と唇で亀頭をれろれろちゅっちゅしてもらえれば、もう自分は死んでもいいかもしれない。そんな気分で相手の顔を覗き込んだ久野は、背中を悪寒に似た何かが駆け抜けるのを感じた。
エロい。
胸を弄られ、目を閉じて息を乱す向坂の表情は、雄に嵌められるのを待つ雌のそれだった。濡れた睫と薄く開いた唇に、思わず舌を伸ばしそうになる。
――今ここで、俺は妄想を現実にすべきなのだろうか。
「……下、拭くから」
ぼそりと告げて、久野は向坂を抱き上げた。向坂は抵抗せず、腕を彼の首に回した。華奢な身体をベッドに下ろすと、ゆるゆるのズボンと下着をまとめて取り去る。それから自分もベッドの上に乗り、自らの太腿に相手の踵を置いて、つまさきから足を拭き始めた。太腿まで拭き終えると、もう片方の足に移る。その間、久野の目は完全に向坂の足の間に固定されていた。優しい桃色をした襞が、足を動かすたび微かに蠢く。
無抵抗な身体をころりと転がしてうつ伏せにすると、次は小さいながらも絶妙な丸みを維持した丘に取り掛かる。少女のお尻は、おっぱいとはまた異なる弾力で久野の力を受け止めた。今まで尻にはさほど興味のなかった久野だったが、濡れタオルを貼りつかせた尻の谷間というのは、想像を絶する破壊力があった。尻を堪能してから、久野は再び向坂の身体を転がして仰向けにした。
「膝を立てて、足を広げろ。拭きにくい」
ここまでされてもまだ身体を拭いてもらっているという認識なのか、向坂は素直に言われたとおりの姿勢をとった。最早無毛といってよいくらいつるつるした秘所が、久野の目の前でぱくりと開かれる。そこは既に女の子のお汁でぐっしょりと濡れ、男を欲しがるようにひくんひくんと震えていた。
「大事なところだから、特に綺麗にしないとな」
奇妙なくらい冷静な声が出たのは、興奮の針が振り切ってしまったせいだろうか。
「冷たかったら言えよ」
湯をくぐらせたタオルを絞り、それで指先を包む。柔らかな花弁の一枚をなぞると、それだけで向坂の腰は揺れた。
「あん、ん、……ひぅ……あぁっ」
「動くなよ。指が変なところに入ったらどうするんだ」
「くぅん……」
小さな穴を隠すように寄った、淡い色の花弁を丹念に拭う。向坂は動かないように我慢しているらしかったが、時折踵がシーツを擦った。男根を迎え入れるための準備をしているのか、花弁の下からは耐えずとろとろと愛液が滴り、洪水のようになっている。
「これ、拭いても追いつかないんじゃねえの」
拭っても拭っても溢れる雫。止めるには、男の怒張した性器を奥までぎちぎちに嵌め込み、栓をするしかないだろう。
クリトリスをぐりぐりと刺激しながら、肉の襞を掻き分けて、粗相をしたかのように濡れそぼった穴に触れる。妄想ではこの中に指を突っ込んで、Gスポット(何処にあるのか正確に把握しているわけではないが)を嫌というほど擦り上げ、何度も潮を吹かせたのだ。
「ひっ、いやっ、あ、あ、あうぅっ、ひぐっ、いやあああっ」
やはりクリトリスは弱いのだろう。向坂の喘ぎ声が切羽詰まったものになっていく。久野が視線を上げると、綺麗な顔は涙でぐしょぐしょになっており、指先はシーツを握り締めて強張っていた。
準備なら、互いにできている。向坂の女の子の部分は申し分ないほど濡れているし、久野の愚息も痛いくらい膨張している。ここまでしても相手が逃げないのなら、食ってしまっても構わないはずだ。そもそも、自分がこんな美少女になったにも拘らず、無防備に素肌を晒して煽ってくる奴が悪いのだ。
そう思った久野の手が、未使用の愚息を取り出すべく、自らの股間のジッパーに触れたときだった。
「……く、の……」
か細い声が、彼の名を呼んだ。それはまるで、迷子の子供が母親を呼んでいるかのようだった。
「……くの……」
瞼が持ち上がり、潤んだ灰色の瞳が彼を捉える。そこには恐怖や拒絶の色がない代わりに、疑念も戸惑いも浮かんではいなかった。その目には、ただ不安だけがあった。そしてその不安を、ほかでもない久野に取り除いてもらおうと、向坂は彼に視線で、声で、縋りついていた。
久野はゆっくりと息を吐いた。それから濡れた向坂の股間を簡単に拭うと、相手の身体を抱き起こし、数時間前にしたように膝の上に乗せて頭を撫でた。
「……大丈夫だ。ちゃんと綺麗になったから、もう何もしない」
向坂は訳がわからないのか、久野の頬に自分の頬をくっつけて暫くじっとしていたが、やがて何かに納得したかのように大きく肯くと、久野の顎を平手で突き上げた。
「おふっ」
「このままだと風邪を引く。着替えはクローゼットの中だ」
不意を打たれてのけぞった久野は、顎をさすりながら小さな暴君を見つめた。
「……要するに、着せてほしいのか」
「脱げなかったんだから着られるわけがないだろう。少し考えれば、いや、考えるまでもなくわかる話だ。それでよく七葉の入試に受かったな。裏口か?」
童貞を卒業し損ねた挙句、裏口入学疑惑をかけられた哀れな少年は、力なく首を横に振るとベッドから下り、クローゼットを開いた。もう口を開く気にもなれない。それでも久野が外見だけはいたいけな少女に新しいTシャツとズボンを着せ、ついでに乱れた髪を手櫛で整えてやっていると、つやつやベビーピンクの唇が思い出したように動いた。
「それにしても、他人に身体を拭かれると、くすぐったくて声が出るな。笑いすぎて少し喉が痛い」
想定内の反応だった。あまりに想定内すぎて、円周率が小数第十位あたりで割り切れてしまいそうだった。
「あーそうですねーでも笑う門には福来るって言いますからねー」
こうなったらもう笑うしかない。ただただ路上のミミズのように干からびた笑みを浮かべる久野に、向坂は真冬の屈斜路湖のごとく凍てついた眼差しを注いだ。
「なんだか哀れだな。存在が」
それがあまりに的確なコメントだったため、久野は静かに自分のベッドに戻り、三十分ばかり枕に顔を埋めてさめざめと泣いた。そのせいで、彼は危うく風呂に入り損ねるところだった。
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