風の街エレジー

新開 水留

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17 「腐覚」

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 飲み屋街へ出て、『雷留』ではない店へと場所を移した。部落民である事と職業からくる忌避の目や差別を嫌い、雷留以外ではあまり飲食店を利用しない銀一達であったが、今自分達を連れ歩く大きな背中はいずれ劣らぬ嫌われ者のヤクザである。極道御用達の店など近付いた事すらない銀一達は、内心どんな美味い酒が飲めるかと本来ならば期待に胸を膨らませたかもしれない。しかし状況と心境がそれを許さなかった。
 先頭を藤堂が行く。その後ろを竜雄が歩き、そして銀一、和明、最後にケンジとユウジが並んでいる。
 成瀬の姿はない。藤堂と埠頭で会う約束をしていた事は間違いないが、藤堂がケンジとユウジを連れて来た時点で話をする気は失せたようだった。立て続けに起こる惨劇を思えば両脇に用心棒を置きたがる気持ちもわからぬではないが、とは言え成瀬は警察の人間である。藤堂一人ならなんとでも理由を付けて会う事は出来るが、喧嘩師として名高い二人を同席させるにはリスクが大きく、そもそもただ指を銜えて同席を黙認するくらいなら逮捕したい、というのが成瀬の本音だった。
 それは成瀬の目付きが物語っていた。ケンジとユウジは正直な所すぐにでも姿を眩ませたい思いがあったが、藤堂への義理と、銀一達に負けた手前逃げるようにその場を去る事に男としての抵抗があった。やがて話をする気の失せた成瀬は苦虫を噛み潰したような顔で、藤堂の尻を蹴り上げて、今晩にもで連絡して来いと吐き捨てて埠頭を後にした。
 銀一達も、そしてケンジ達も拍子抜けのする思いであった。ケンジ達は仕事柄ある程度成瀬の刑事としての性質を耳にしている。老齢とは思えぬ鋭い眼光と事件解決に対する執着心は常軌を逸していると、裏稼業の誰もが口を揃えて噂した。そもそも年齢を考えれば現役の警察官でいる事の方がおかしいのだ。嘱託か、相談役かは分からない。どちらにせよ、そんな男の前での刃物沙汰、流血沙汰の大立ち回りはれっきとした現行犯である。成瀬の合図によって、いつ、どこから警察官が大挙して押し寄せてくるかとケンジ達は身構えており、この場に成瀬以外の警察官がいない事は彼が立ち去るまで信じられなかった。
 あるいは榮倉が生きて成瀬の側にいたならば、相手が何人であろうと誰であろうと、成瀬が引き下がるような真似はしなかったのではないか。銀一はそう思ったが、言葉にすべきではないのだろうと、誰にも言う事なく呑み込んだ。
 歩いて飲み屋街を移動する間、和明とユウジが肩を並べて言葉を交わしている姿が、銀一には印象深い光景として記憶に焼き付いたという。住む世界は違えどお互いを子供の頃から知っている間柄だ。一歩間違えば殺してしまうかもしれないような苛烈な暴力行為の後でさえ、何事もなかったように話が出来る関係というものが、不思議と尊いもののように銀一の目には映った。
 ユウジは和明に関節を外された手首を痛そうに押さえながら、どうにかしろよと詰め寄る。しかし和明は「医者行けや」と取り合わない。それ所か、顔面から埠頭のコンクリートに叩きつけられたユウジは盛大に鼻血を吹き出しており、その血筋の痕を指さして笑う始末だった。それを見たケンジはただただ苦笑して、頭を横に振った。
「お前らは頑丈やのう」
 と竜雄がケンジ達に声を掛ける。
「よう言うわ、嫌味にしか聞こえんがな」
 そうケンジが答えると、
「阿保言え、俺ユウジはほんまに死んだ思うたわ。和明やってもうたでー!て」
 と銀一が笑った。和明は喉を鳴らして笑い、ユウジは後頭部を押さえて何故だか照れたような表情を浮かべた。
「んで藤堂さんは平気なん。太腿と背中にナイフ刺さってたけど」
 竜雄が藤堂の背中に向かって言うと、藤堂は振り返りもせずに、
「何が?」
 と言っただけだった。



 その店の名は、『イギリス』と言った。
 銀一達は生まれて初めてキャバレーというものに足を踏み入れた。現代のキャバクラとはまた違い、当時のキャバレーはホステスが客をもてなすという共通点以外は、ショーが行われたり生バンドの演奏があったりと、今でいうクラブ、少し前で言えばディスコの趣に近い飲食店であった。しかし、銀一達にとってみれば十分現実離れした夢の世界であり、煌びやかな内装とど派手な衣装で身を飾った女性達の存在は、ここ数日の暗い現実を一瞬は忘れさせる程強烈であった。
 藤堂が舎弟を引き連れて遊びに来た。そういう風に見られているであろうことは銀一達にも分かった。本来なら二十歳そこそこの若い労働者が、金もないのに足を踏み入れて良い店でない事は一目瞭然だった。それでなくとも店員が揉み手をしながら近づいて来、両脇を良い匂いがする女性二人に挟まれる事など本来自分達に起こりうる筈がなかった。銀一達は鼻息を荒くしながら、きょろきょろと店内を見回した。
 藤堂が側に立つボーイに耳打ちし、下がらせた。そして銀一達に振り返り、
「とりあえず飲んで、話はそれからや。お前ら、好きな子選んで横に付けたらええわ」
 と言った。
 思わず銀一と竜雄が顔を見合わせた。
 好きな子を選んで横に付けたらええわ? どう意味や?
 夜の店。高い酒が飲める店。そういう場所である事は察しがつくが、意味なく自分達の側をうろついている女性らがどういう存在なのか、はっきりとは理解していなかった。竜雄はキャバレーのシステムをなんとなく聞いた事があるようだったが、急な展開に気持ちがついていかないようだった。銀一に関しては、全く意味が分かっていなかった。
「俺、この子がええわー」
 と和明が言った。全く物怖じしない男なのである。
「この子がええてなんや。お前、失礼やぞ」
 と銀一が小声で諫めると、和明は首を傾げて「何が」と聞いた。
「好きな子選べ言うから選んでるんよ、何も失礼な事あるかいなー。なー?」
 和明はそう言って、見初めた女性の手を取った。細く色白で、派手さはなく上品でいながら決して暗さのない、若さと自信に満ちた美人だった。
「あかんで、カズ。それ未成年や。おもろない、やめとけ」
 と一瞥をくれて藤堂が言った。
「え」
 と和明は驚いて女性の見た。男達のやりとりを面白おかしく見つめていた彼女は、ついにぷっと吹き出して笑った。和明は嬉しそうに笑って、
「年なんて関係ないよな。俺はやっぱこの子がええわ。もう決めた」
「おい」
 と藤堂が窘める声を上げると、
「ここで暴れたろか?」
 と和明は声のトーンを落として言った。たった一言で空気が張り詰めた。
「チ、お前と言う奴は」
 藤堂は舌打ちして頭を振る。
「ガキはガキ同志よろしゅうやっとけ、何が面白いんじゃ、あほが」
「おもろいおもろないは、これからやんなあ。なー?」
 と和明は言って、手をつないだままの女性に頷きかけた。女性はやや困り気味に微笑んで、頷き返した。
「名前は?」
 と和明が尋ねると、女性は一瞬迷った末、
「まどかです」
 と本名を名乗った。後に、善明和明の妻となるまどかとの、これが初めての出会いであった。
「ええ名前やなあ」
 と和明が言うと、
「ほんまは、マリーて名乗らなあかんのやけど」
 と、はにかんでまどかは答えた。
「あはは、まどかの方がええな。何才?」
「二十歳です」
「ほんまは?」
「じゅうー…はちです」
「そっか。ええよ、無理やり飲ましたりせんから」
「お酒は強いですよ」
「おっほほお、ええがなあ。そしたら、楽しめるんと違うのー?」
「はい。よろしくお願いします」
 何をイチャイチャしとんねん。阿保くさ。口々にそう悪態をついて、ケンジとユウジが女性を二人ずつ引き連れて店の奥へと消えた。
「お前らは?」
 と、藤堂は銀一と竜雄に向かってそう声を掛けた。
「いや、俺ええわ」
 と竜雄が答え、
「おお、俺もええ」
 と頷いて銀一もそう言った。
 藤堂は呆れた顔で何度も美人の手を引いて「どうや、これは」と勧めてきたが、二人とも頑として首を縦に振らなかった。



 銀一も竜雄も和明も、これでもかとばかりに高そうな洋物の酒ばかりを頼んだ。飲んだ事のない酒を、どんな種類の酒なのかも分からないまま、メニュー表を指差して値段の高い順番に注文した。藤堂は苦々しい顔を浮かべていたものの、止める事をしなかった。
 運ばれてくる酒が自分の物かも確かめもせずに片っ端から飲み干していく銀一達は、言葉に出来ない怒りをアルコールの酔いでごまかしたかった。しかし、どれだけ飲んでも一向に酔えなかった。
 和明の横に座ったまどかだけが無邪気に手を叩き、
「凄いですね。皆さん底無しなんですね」
 と褒め称えた。しかし和明はまどかに微笑んで見せ、「ごめんな」と言った。
「必ずまた顔出すから、やっぱり今日の所は外してくれるとありがたいな」
「おい、ええがな。失礼な事言うな、仕事しとるのに」
 そう言ったのは銀一だった。
 まどかは屈託のない笑みで首を振り、
「大丈夫です。またいらして下さいね。待ってます」
 と言って立ち上がった。
「すんません」
 と銀一は頭を下げ、竜雄も戸惑いながら頭を下げた。
 藤堂はボーイを呼んで、自分達の周囲から女性を外させた。一気に場が暗くなった。
「…榮倉は」
 そう銀一が切り出した瞬間、
「待てや」
 と藤堂が止めた。銀一達はほとんど睨むような目つきで藤堂を見た。
「考えて喋れよ」と藤堂は言った。「今日みたいな機会はもうないぞ。俺を時和会の藤堂義右やと、ちゃあんと理解した上で喋れ。ガキの戯言に耳を貸す程暇やないし、ステゴロで下手こいた罰として己に課したこれはペナルティみたいなもんじゃ。本来俺がお前らに話をせないかん義理なんぞないし、タダ酒飲ましたる謂れもない。お前らがどう思おうとどういう行動に出ようと構わんが、俺を敵に回したいのか、そこをちゃんと考えた上で喋れよ」
 そう言われては銀一は黙った。持って回ったような言葉は難しくて分からない。ただ、藤堂を敵に回したいのかと言えば、それは違う。だがその事と、自分が尋ねたい話にどう繋がりがあるというのか。何を聞き、何を話せば藤堂が敵に回ると言うのか、全く理解が出来なかったのだ。
 竜雄が言った。
「はっきりさせとくわ。俺ら、あんたの事はどうでもええ。俺らはヤクザやないし、敵に回すとか味方に付けるとか、そんな事考えて生きてない」
 銀一は大きく何度も頷いて、竜雄の言葉に賛同した。竜雄が続ける。
「聞きたい事は色々あるけどよ。全部が全部藤堂さんの口から聞けるとは俺らも思ってない。ただ確実に言える事は、あんたの差し金でこいつらは今回の事件に巻き込まれてる気がしてならんのよ。卑怯な事はしとうないからここではっきり言うとくけど、俺も、平助から相談を受けとった。だからいずれはあいつの家に関わる事にはなったと思う。その点が早いか遅いかだけの話やと言えばそうかもしれんが、…なあ、なんであんたはこいつらを関わらそうとしたんや? こいつらと言うか、俺らを」
「難しいなあ」
 と藤堂は素直な感想を口にした。
「これはほんまに、俺はお前らをどうこうしようと思うてあんな話をしたわけやない。確かに西荻の家にお前らと同い年のガキがおる事は知ってたし、バリマツ殺しと警官殺しの接点があの家にある事も分かってた。本来なら内々で探りを入れるのは簡単な話やが、慎重にならざるをえん理由も、…まあ、なんというかな」
「志摩か?」
 と銀一が言った。
 場の空気が一変した。
 藤堂は腕組みをしたまま右手にブランデーの入ったグラスを握っていたが、銀一が言葉を発した瞬間そのグラスを握り潰した。慌ててボーイが駆け寄ってきたが、藤堂はバラバラとフロアに砕けたグラスを落とし、「ええわ」とひとこと言って下がらせた。
 藤堂はすぐには答えなかったが、銀一達が黙っていると、やがてゆっくりと話を始めた。
「俺にとっても、賭けやった」
 先程のボーイが、ブランデーがなみなみと注がれた新しいグラスを持って現れた。藤堂はそのグラスを黙って受け取ると突如立ち上がり、
「下がれ言うたやろうが!」
 と叫んでボーイにグラスを投げつけて、蹴った。周囲で悲鳴が上がり、ケンジとユウジが様子を見に現れた。和明は黙ってボーイが立ち上がるのを助け、「すまんな。こっちはもう関わらんでええし、警察だけ呼ばんといてな」と小声で言った。
 仁王立ちのまま空中を睨み付ける藤堂の姿は、まさしく『時和の暴れ牛』の異名そのままであった。興奮して今にも蒸気が立ち昇りそうなその立ち姿に、銀一は内心「ようこいつに喧嘩で勝ったな」と少しだけ感心した。
 藤堂はテーブルにあった水割り用の氷を口に含むと、バリバリと噛み砕いて「んんん」とうなり声を上げてソファーにどかりと腰を落とした。
「一番初め、最初に首を捻ったのは、こいつらの話を聞いたや」
 藤堂はそう言い、意外にも遠巻きに自分達の様子を伺っていたケンジとユウジに親指を向けた。銀一達は彼らが側に来ている事にこの時ようやく気がつき、そして突然の事態に首を捻った。
「お前らの仲間に、神波春雄がおるやろ」
 不意打ちで藤堂の口から飛び出た春雄の名前に、銀一達の心臓が爆ぜるように跳ねた。
「あいつが年端もいかん女子を東京へ呼び寄せた時、娘の親から追手を放てと依頼されて、この、ケンジとユウジを差し向けた」
「藤堂さんがか?」
 と銀一が聞いた。
「直接命令したんは俺やない、うちの親父や。その娘っちゅうのはお前らも知ってる通り、志摩の妹や。当時志摩は既にうちの準構成員やったのと、あいつの父親とうちの親父が懇意にしとったのもあって、俺ん所へその話が来た。俺はなんでそんな下らん事で自分とこの若いのをわざわざ東京へやらないかんのやと小言を言いよったが、親父は聞く耳もたん。とりあえず力づくで奪い返して来いという命令やった。失敗は許さんと、なんやえらい本腰の入れようで、それが却って阿呆臭いと取り合わなんだ俺は冗談半分でこの二人を差し向けたんや。力づくという話になればこいつら程確実な人材はおらん。そんなもん、相手がどうなっても責任負わんぐらいの気持ちでおったのを、こいつらはまんまとしくじりやがった」
 銀一達は顔を見合わせた。
 この話は聞いた事がある。しかしケンジとユウジ、そして春雄との間にどのようないざこざがあったのかという詳しい事情までは聞かされていなかった。そもそも春雄達に追手が放たれていた事を知ったのも随分と後になってからであり、その時には既に春雄はこの件を笑い話に変えていた。当時、春雄の口からはケンジとユウジの名前すら出て来なかったのだ。
 棒立ちのままのケンジ達に向かって、銀一が言う。
「風の噂ぐらいには聞いた事あったけど、ほんまやったんか。…なんでお前らは、響子を連れ戻さなんだんや? いくら相手が春雄や言うても、二人掛かりでいけば」
「春雄君とはやりおうてない」
 そう言ったのはケンジだった。銀一達は驚きのあまり目を見開き、そして黙った。視線だけがお互いの間を乱反射する。状況が上手く把握出来ず、言葉を待つ彼らの空気に、渋々という表情でケンジは話を始めた。隣に立つユウジの顔は、暗く沈んでいた。
「と言うかあん時は会ってもないわ。俺らは春雄君に辿り着く前に、素性の知れん奴に襲われたんじゃ。一瞬やったわ。多分背後からやと思うけど、不意打ちでガツンと一撃顎に食ろうて二人とも一発KO。相手はもしかしたら二人やったかもしれん。それぐらい、俺もユウジも反応でけんかった。地べたに這いつくばって完全に意識がなくなる寸前、あかん、これは死ぬと思った。その俺の耳元で声が聞こえた。『神波春雄には手を出すな。志摩響子を東京に置いて帰れ』」
「その声に聞き覚えはあったんか?」
 と竜雄が聞いた。寝起きのような、緊張で潰された喉から来るしわがれた声だった。その言葉の意味は、『志摩か?』であった。
「ない。囁くような、けど恐ろしい声やったわ」
「ほいでこの馬鹿タレはおめおめと負けて帰ってきよったわけや」
 藤堂はそう言い溜息を付いたが、その言葉ほどケンジ達に対して怒っているようには見えなかった。更に藤堂は言う。
「本来ならそれで済ます話やないわな。親父からの直々の命令や。なんとしてでも娘を奪い返さにゃならん。ただ、今も言うたこいつらの話を聞いた時、俺は思い出したんや。ひょっとして俺は、こいつらをそんな目に合わした奴らに、会った事があるかもしれん。ひょっとしたらそれは…」
「そいつらが、黒か」
 と、銀一が言った。銀一の言葉にゆっくりと頷いた藤堂に、
「雷留であんた、実際に会うた事があるって言うてたけど、その話か?」
 と、竜雄が聞いた。
「まあ、…確信はない。随分前の話やし、それに、アレが黒やと認識したのは俺やのうて、成瀬さんの方なんや」
「…え?」
 成瀬? 突然出て来た老刑事の名前に、銀一達は戸惑いを隠せない。情報が多すぎる。
 藤堂は自分の右手を顔の横に上げ、先端の無い親指を動かして見せた。
「まだ俺が十代で、ヤクザモンとして駆け出しやった半人前の頃、恐喝の現場で下手打った。ある時自分の不倫相手を獲られたかなんだか言うて、食品会社の社長が泣きながら転がり込んできたんじゃ。相手の事もよう知らべんと、よし分かった、いっちょ噛み付いて金分捕って来る言うて、その社長からも依頼料として金を巻き上げ、相手を痛め付けて引き出せるだけ金引き出して、依頼してきた社長には少な目に渡しといたらええわて、簡単に考えとった。所が相手は名うての政治家で、当時世間を賑わせた汚職事件にも裏で噛んどるややこしい男やったんや。当然そういう奴にはそういう奴なりの、今で言うボディガードやらなんやらの裏ルートがある。それがどこぞのヤクザならまだやりようがあったもんの、得体の知れん奴が突然ふらっと出て来よった」
「庭師か!?」
 と、堪え切れずに銀一が叫んだ。
「え? 庭? 何じゃい」
 話の腰を折られた藤堂は銀一を睨んだ。
「すまん、何でもない」
 と銀一は答え、藤堂は再びグラスの氷を口に含んで噛み砕いた。
「俺の運が良かったのは、その場にたまたま成瀬さんが居合わせた事や。向こうは向こうで、その汚職事件の捜査で俺が標的にしとった政治家を追ってたわけや。場所はその政治家のオフィスで、俺の方が先客として写真なんぞチラつかせながらガンガンその政治家に追い込み掛けよった。そこへ成瀬さんが現れた。あっちは頭の先からつま先まで筋金入りの刑事や。こっちは正に恐喝の真っ最中。こらあかんと思うて撤退しかけた所へ、ふらっと黒いスーツの男が入って来た。ノックもなしに現れたその男は俺を見るなり顎に一撃。俺が持ってた政治家の不倫写真が空中に舞い上がったのだけは覚えてるわ。意識が戻った時、俺はいつの間にか成瀬さんと並んで土下座しとった。何でやねん思うて立ち上がろうとしたけど、成瀬さんが俺の頭を上からグイグイ抑え付けよる。『相手が悪い。堪えろ』あの人はそう言うて、自分も決して顔を上げようとせなんだ。俺も若かったし意味も分からん。不意打ち喰らったままただで帰れるかいってなもんで無理くり立ち上がった時、聞いたわ。ケンジが言いよった、囁くような、恐ろしい声を」
 誰も言葉を発せなかった。身動き一つせず、藤堂の話に聞き入った。
「『跪け。一言でも喋ったら殺す』。そう、言いよったんじゃ」
 鳴りやまぬ音楽と嬌声で騒がしい筈のキャバレーにおいて、銀一達の座るこの一画だけが水を打ったような静けさに包まれていた。
「若いっちゅうのは罪やぞ。あの時俺は心底震えあがった。そやけど、震えあがってる己が許せなんだ。何を言おうと思ったのか、今となっては思い出せん。たった一声、『おい』と口にした瞬間、成瀬さんが俺の右手を引っ掴んで、床に転がってたドスでこの指を切り落とした」
 銀一達の、開いた口が塞がらなかった。当然呆れたわけではなく、驚きのあまりだった。
「驚くのはこっからや。確かそのドスは俺が懐に忍ばせてたものやが、いつの間にか床に落ちとったんやな。そのドスを握ったまま成瀬さんはこう言うた。『こいつはまだ何も分からん、ただいきがりたいだけのクソガキや。ワシに免じてなんぞ言うつもりはないけど、今日だけ、この一回だけでええから見逃してやってくれ。その代わり、きちんと代償は払う。こいつのこの親指と…』。成瀬さんはそう言うて、自分の足にドスを突き立てた。『ワシの足の指持っていってくれ。この通り』。場所が、政治家のオフィスやったいうのも功を奏したんかの。恐喝でガンガンに追い込んでた筈の政治家の勧めもあって、俺らは無事解放されたと、まあ、こういうわけや。知ってるか、それから成瀬さん、刑事のくせに走るのめちゃくちゃ遅なってのう。こっちは現場抑えられても余裕で逃げおうせるんやけど、なんや悪うて、俺は何度か自分から捕まりに行ったったわ」
 話の最後には機嫌良さげに笑う藤堂だったが、誰一人笑える筈がなかった。にわかには信じがたい話だったが、受け入れるしかなかった。
 竜雄がウィスキーの入ったグラスをあおって、口元を抑える。
 和明はテーブルのどこか一点を見つめたまま動かない。
 銀一は両手を膝に置いて鼻から溜息を逃がすと、やがてこう切り出した。
「ケンジとユウジを襲った奴と、あんたから親指を奪った男は、同じ人間なんか?」
 藤堂はしばらく考え、
「分からん。俺の記憶も曖昧でな、顔はよう覚えとらんのや。正面からどつかれたもんの、一発で意識飛ばされとるし、その後はまともに顔を見取らんでな。こいつらも、それは同じようやし。ただ、この業界で生きてれば黒の噂話も堅気の人間よりは多く耳にするからな。どこどこの仕事は奴らの仕業らしい。どこのぞ馬鹿が黒に立てついて組ごと消されたらしい。尾ひれ付くのは当たり前としても、火のない所に煙は立たんでな。…なんとのう嫌な予感というか、匂いというものはある」
「志摩とはどう繋がる?」
 銀一の追及に、藤堂は首を横に振る。
「ケンジらが誰ぞに襲われた後、東京から俺に連絡を寄越した。あれはまだ東京におった時やのう?」
 首だけ振り向かせて藤堂が言うと、ケンジとユウジは頷いて答えた。ケンジが言う。
「東京駅や。ワシらは最初、商売敵が仕事の邪魔をしよったんじゃと思うてこの人に連絡したんよ。例えばなんや、懸賞金みたいなんが春雄君らに出とって、先を競うように他の奴らも送り込まれとんやないか、そいつらにやられたんやないかて、そう思うたんじゃ」
「しゃないとはんなもんひーわからんふぁ」
 口を開いたユウジの言葉は誰にも理解されず、場が静まり返った。
「ユウジ、俺喋るわな」
「うん」
「ただ藤堂さんに聞いたら、そんなわけあるかいて一蹴されて」
「当たり前やんけ」と藤堂。「なんでただのガキ共が駆け落ちしたぐらいで賞金が出んねん。そんなもん俺が行くわ。ただ、そうは言うてもこいつらがいてこまされたんがホンマなら普通やない。そら念の為に確認を取ろうとはする。そしたら、志摩に聞くのが一番早い。おい、お前んとこのおとん、他所にも手を回して追手差し向けとるんか?」
「志摩は…なんて?」
 銀一が聞くと、藤堂は一瞬口を噤んで銀一を見返した。
「おらなんだ」
「え?」
「どこ探しても、志摩を見つける事は出来んかった。やがてケンジとユウジがこっちへ戻って来るのと同時に、志摩も帰ってきた。お前仕事放っぽってどこしけ込んでたんじゃて言いよったら、ふふんと笑うて、野暮用ですと来た。俺もきったはったの世界で生きて来た博徒の端くれや。あいつの目を見た時に裏がある事は直感でけた。ただそれが何なのかは見当もつかん。昔からあいつは飄々とした所のある奴やったし、怪しいと感じたのはその一回だけやったから、それ以降深く追求する事もなかった」
「え、でもそれもう三年くらい前の話と違う? まだ十七、八やで」
 不意に思い出したように、和明が言った。
「せや。まだあいつは十代じゃった。そこから三年、志摩も俺もヤクザとして、同じ盃を受けた組織の一員として共に生きて来た。…バリマツが死ぬまではな」
「志摩が関係しとるんか!?」
 思わず竜雄が声を荒げた。
「証拠はない。前も言うたとおり、そういうものは一切ない。せやから想像でしかない。そもそも確信のある話ならこんなトコで酒飲んでる場合と違うからな」藤堂は自嘲気味にそう言い、グラスをあおった。「一年前に西荻平左が死んだ時、その殺害方法が常軌を逸してると噂になったのはお前らも覚えてるやろ。当時成瀬さんは俺のとこにも話を聞きに来た。うちの組が関係しとるんやないかと疑ってるようやったが、あれはヤクザの殺し方やない。俺と成瀬さんの間でなんとのう、嫌な空気が流れたわ」
「あんたら、そこまでツーカーやったんか」
 不意にケンジがそう口を挟んだ。
「ちょっと、付き合い方考えさせてもらわなあきまへんな。時和会の若頭が刑事と仲がええなんて、冗談でも笑えんよ」
 藤堂は、今更それがどうしたと言わんばかりに片頬に笑みを浮かべた。それが一般論と呼べるのかは分からないが、当時警察組織とヤクザは利害関係の一致する局面において、互いの行動を黙認するケースが珍しくなかったという。人間性や個人の性格も大きく関わってはいる為決して普通の事ではないが、藤堂と成瀬のような関係は、義理と人情を重んじた時代の象徴とも言えた。
「好きにしたらええがな。盃やろうなんて一言も言うてないぞ」
「親父は知っとるんけ」
「お互い利用しあっとるだけじゃ。親父は関係ない」
「ほう。ほなそう親父に言うといたるわ」
「好きにせえ。俺とお前らでは役割が違うんじゃ」
「はあ?」
 ケンジが凄んで前に踏み出すと、ユウジが腕を出してそれを止めた。
「ワシらは捨て駒やと言いたいんか貴様ァ」
 尚も牙を剥き出すケンジに、銀一は諭すような声で
「今は抑えてくれや。今後の事は後で考えろ。今は、志摩の事や」
 と言った。ケンジはフロアに唾を吐いて、藤堂に背を向けた。
「ケンジ。こないだお前らが赤江まで出張って来て志摩を襲ったんは、藤堂さんの指示か?」
 藤堂には直接聞かず、銀一はケンジに尋ねた。今のケンジならば、本音を話すと思ったのだ。
「ああ、そうや。ほんまの理由はしらん。最近いけすかんさかい、志摩シメてこい。金は出したる。そういう話やった」
 チっと舌打ちして藤堂が俯いた。
「極道もんが余計な事をべらべらと」
 そうボソボソと呟く藤堂の言葉に、
「お前が言うな!」
 とケンジが叫んだ。一色触発の空気を断ち切るように、竜雄が言う。
「お前ら二人は、藤堂さんが言うように志摩が怪しいとか、そういう風に感じた事はないんか?」
 ケンジは背中を見せたままユウジと顔を見合わせ、肩をそびやかした。考えた事もない。そういうニュアンスに取れた。銀一達の間に明らかな落胆が広がる。情報は増えるばかりで、一向に解決の糸口が見えない。
「握る者。投げる者」
 と、藤堂が言った。
「西荻平左が殺されてしばらく、都市伝説みたいな言い伝えが噂になってた頃、西荻の家にバリマツが頻繁に出入りするようになったと俺に言うて来たのが、志摩やった。バリマツの実の姉が、平左の息子の嫁やからな。まあ、そういう意味ではおかしな話ではないが、ただバリマツは知っての通りイケイケヤクザの代表格で、四ツ谷組の金看板や。うちのシマにそうそうでかい顔で出入りしてほしいない言うのも、そらあるわいや。そんな話を親父らとしよった時、何気ない顔であいつ、言いよった。『いつでも言うて下さいよ。殺して来ますよ、バリマツ』」
「し、志摩がか?」
 思わず、銀一の声も上擦った。
「せや。そうは言うてもうちと四ツ谷は隣り同志でそこまで敵対しとるわけやない。軽はずみな事しでかして抗争にでもなれば、近所で組構えとる分何かと面倒や。勝手な真似はするなよと言い聞かせてたおかげか、特に何も起こらんかったんやけどな。ここへ来てつい最近、また志摩の行方が知れんようなった。サラリーマンやあるまいし、常日頃から決まった時間決まった場所で働きよる仕事やないのはアレとして、大事な賭場にも顔を出さん、兄貴分である俺にも断りを入れん。普段の志摩にそういういい加減さはないから、何か面倒ごとに巻き込まれでもしたんかとも思うた。と同時に、四ツ谷の方でも騒ぎになってた。交流会の為に東京へ出かけとったバリマツが、戻ってこん、連絡が取れんとな」
「ちょい待て」と銀一が藤堂を遮った。「おいケンジ。お前らちょっと前に春雄に会いに行ったらしいな。それはお前、ひょっとして」
 背を向けたまま不貞腐れて黙っていたケンジが、銀一の方へ向き直った。
「ん、おお。せや、この人に頼まれて、バリマツと志摩の行方を探しよったんよ。見つけられんかったけどの。というか、ワシら二人が東京へ出張しとる時にはどうやら、もうバリマツはチンコロされてたらしいけどな」
「その話は、春雄にしたんか?」
「どの話?」
「志摩とバリマツを探しよるて」
「いや。人探しとるとは言うたけど、誰とか言うてない思うで。東京の事務所の番号渡した気がするけど、春雄君が自分で電話して聞いたりもせんやろし。…なんで?」
「いや、響子の耳には入れたくない話やから」
 銀一の言葉に、ケンジは荒々しく喉を鳴らした。
「カーッ!お優しい事じゃのお!」
「たらへんなはらしよの。はるほくんのけんばにはいくいうはなしやっとろろ?」
「なんて!?」
 ケンジを見やりながら首を傾げるユウジの言葉に、口々に突っ込みが入る。
「ああ、せやわ。東京の事務所でちょっと聞いたんやけど、バリマツ、行方が分からんなる寸前『船作ってるトコ見て来る』言うて、下のもんに言うてたらしいんや」
「…船?」
 銀一達は顔を見合わせた。
 とてつもなく、嫌な予感がした。






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