中年童貞氏は麗しの姪から寵愛を受けて…

その壱．姪っ娘は超絶完璧才媛令嬢

帝都のとある住宅街に佇む旧邸宅の朝の出来事————。
帝都貴族公爵にして警視副総監になりたての新島真一氏の屋敷である。
「さあ、お父様、拓斗（たくと）、起きてェ～～…起きてくださーいッ、朝ですよぉーッ」
フライパン片手にエプロン姿のお嬢さんは、朗らかに声を張り上げる。
ソフト・エレガントと形容するにふさわしい、優美で大人びた穏やかな顔だちだ。
が、一方で黒目がちの瞳はなかなか芯の強さを窺わせる澄んだ色を湛えていた。

この娘こそ、新島家の総帥令嬢の遥である。
母のいない公爵家で妻、そして母親、姉とついでに家政婦紛いの役割までこなす、甲斐甲斐しいお嬢さん。
しかし、彼女は単なる良家の聡明な娘という立ち位置に甘んじない。
帝都一の進学校、帝国麻星高校（ていとあせいこうこう）の生徒会長にして、トップクラスの成績を誇る超才媛だ。
身分制度に厳しい帝都にあっては、家柄のみならずその人格や能力も伴わなければ進学も許されないのだが、特に女子生徒は前項の10パーセントを占めるに過ぎない。
美貌と知性を兼ね備えた彼女は学校の誇りでもある。

総理大臣や帝都亜細亜中央銀行頭取とも同窓であるこの令嬢。
それだけでも天は二物も、三物も与えているというにふさわしいが、出来立てのシンクロナイズドスイミング部では男子を押しのけ、個人で全国制覇まで成し遂げて見せた。
くわえて、春に行われたアジア弁論大会では日ノ本の國の高校生代表を務め、軍事力増強を進めるかの国をけん制し、軽やかにその愚策を論破して見せ、祖国の若者の心情を代弁して見せた。
今や、帝都のマスコミも注目の遥は、血筋の良さも相まって末は大臣か、はたまた警察幹部か、と高校生にしてれっきとした名士なのである。

そんなパーフェクトガールだが、家出は案外のんびり屋の性格そのままに、穏やかな娘であり、世話好きの姉である。
と、同時に、甲斐甲斐しい姪っ娘でもある様子で…。