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chapter 6 「もしもワタシが少年探偵団のリーダーだったら」 Ⅲ
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はたして鬼が出るか蛇が出るか。
しかし、画面に現れたのは思いのほか意外なものだった。
「編集画面?」
ウインドウの中に大きく開いた入力画面が表示されていた。まさしくウィキペディアとかで出てくるような編集画面である。
「これ…………編集できるの? ウソでしょ?」
ミカが半ば呆れたような声が出るのも当然だ。漏洩や暴露を目的としたサイトにあって暴露された側が自由に書き換えられるのならそもそも根幹から成り立たない。
しかし、蛍はむっつりと画面を睨みながら短く指示を出した。
「ユーリ、試しに何か消してみてくれ」
カーソルを合わせてデリートキーを押したが、たちまちエラーアラートが表示される。
「デスヨネー」
「違う。権限の問題じゃない。アラート内容をよく読んでみろ」
~[編集ポイントが足りません。ポイントは情報入力ページで獲得できます。]~
編集ポイント? 何のことだろう?
「左上のメニューを開いてみろ。入力ページがあるはずだ」
蛍の言う通り、入力ページははたしてあった。ネット通販で送り先を入力するようなノリで暴露対象と暴露する情報を入力することができる。
―――何なんですか、これは…………?
「そうか。『ノーネーム』の本質がわかったぞ」
ミカもそれに頷く。どうやらわかっていないのは夕璃だけらしい。持ち前の負けず嫌いでもう一度考えてみようとしたが、蛍は構わず答えを口に出した。
「暴露された情報を消すにはそれ以上の情報を暴露する必要があるんだ。新たに暴露された情報を消すためにまた新たに情報が暴露される。言ってみれば情報のネズミ講だな。よくできたシステムだ。本当のねずみ講と違って痛むのは良心だけだ。しかも、金なら二度騙される阿呆はいないだろうが、情報なら何回でも引き出すことができる」
「ちょっと! ちょっと待って! ホタル、それは変だよ!」
すかさず夕璃が反論する。
「お金は唯一絶対だけど、情報はそうじゃないでしょう? 嘘を書こうとする人もいるんじゃない? ううん、こんなサイト相手に本当のことを書こうとする人の方が少ないよ」
「情報の真偽は問題じゃないだろう。『嘘も百回つけば真実になる』という言葉もある」
一瞬考え込んだ夕璃に代わって口を開いたのはミカだった。
「うーん、それは違うんじゃないかなあ。それじゃ遅かれ早かれそんなサイト誰も信用しなくなるよ。本当のことが書いてないとみんな思ったらますます本当のことなんて書かなくなるよね? それって致命的じゃない?」
「うーん。確かにそれは一理あるな…………」
テーブルの上に重い沈黙が落ちる。そもそも「ノーネーム」は何のためにこんなことをしているのだろう? 悪質サイトにありがちな広告も見当たらないのでお金目的というわけでもなさそうだ。正義とか信念? まさか!? 内容は悪辣極まりないが、所詮は学生の闇サイトだ。そんなことをしてどうするわけでもあるまい。
「考えてどうなるわけでもない。そうだな、試しに何か情報を入力いれてみるか。ミカ、おまえならそういう関係の情報には詳しいだろ?」
「ほいほーい」
ミカは夕璃からノートPCを渡されると早速キーボードで入力し始める。窓側に座っているため入力内容は夕璃にしか読めないが、その内容を見て夕璃は目をひん剥いた。
「―――っ! ミ、ミカ、何を……っ!」
「ああ、これ? まずは明らかにウソの内容を、ね」
―――「白蘭学院高校生徒会長の六条夕里は実は女の子である」―――
ミカが「ノーネーム」に入力した内容はよりもよってこれであった。
「あっ、通っちゃった」
「ちょっと!?」
小気味いい効果音とともに編集ポイントをゲットしたことがインフォメーションされていた。どうやら情報の信ぴょう度を判定し、信ぴょう度が高ければ高ポイントが得られるらしい。
「なんだなんだ…………おいおい、生徒会最大の重要機密をネットに流出させてどうするんだ!? そりゃ真実認定されて当然だろ…………」
「そっかー、ボクたちが気がついてないだけでみんなには公然の秘密だったんだね」
おい、こっちの世界の生徒会。
さすがの夕璃でもふざけてやったことはわかるが、内容が内容だけに反応に困る。とりあえず二人の脇腹を殴ったが、バカ二人はゲラゲラ笑うばかりであった。
「ちょっと、ミカ!? 真面目にやってよ!」
「はいはーい、じゃあ、今度は真実を書いてみようか」
―――「白蘭学院高校生徒会副会長であり、AOIのCEO兼GATEの開発者、葵井蛍は不正会計を行い、脱税行為をしている」―――
「ふむ、何を書いていやがるのかね? ミスター・ローゼンタール」
「ええ、だって本当のことじゃーん?」
「あれは節税のテクニックだって言っているだろ? ある程度収入あるヤツなにみんなやっていることだ!」
「でたでた、ジャパニーズお得意の『みんながやっているから』デスヨ! これだからエコノミックモンスターはコワイデース…………あっ、ダメだ。通らない」
タイムラグの後に表示されたインフォメーションには「保留中」の文字。編集ポイントは一応手に入るものの、微々たるものだ。どうやら「ノーネーム」的には蛍の脱税情報は噂や出まかせのレベルの判定らしい。
「ブー、なんでー? 本当のことなのにー!?」
「はっははは、ちゃんと真実を見極めるとはなかなかいいシステムではないかね」
「エビデンスが足りなかったのかな? ケイマン諸島の口座も追加でアップしておくか」
「おい、やめろ。というか、なぜおまえがそれを知っている!?」
はたしてミカの言う通りより決定的な証拠を添付することでポイントが上がるらしい。先程女子生徒のページに動画や写真があったのはそのためだろう。
「それだけじゃなく、他のユーザーがアップした情報と照合しているはずだ。複数かつ多角的に情報を集めることで精度を上げているのだろう。俺に関する情報はミカ一人にしかアップされていない。取り扱った実績がないから真実かどうか判定できない」
それだと夕里が女云々という情報が多数の生徒から上がっていることになるが、夕璃はスルーした。どうせ言ったところでからかいのネタを提供するだけだし、何より現時点では間違ってはいないのだから。
「普通は希少性がある情報の方が価値が高いはずなんだけどねえ。本当に『嘘百回』の理屈そのままじゃない」
「だな」
とにかく『ノーネーム』のコンセプトは理解できた。しかし、理解できたとしてもその方法と動機を解明しないことには事件解決にはならない。
「―――似ているな」
蛍は顎に手をやりずっと考え込んでいたが、ぽつりとそんなことを呟いた。
「えっ?」
「いや、何でもない。単なる思いつきだ。まさか、な」
かぶりを振ると蛍は立ち上がる。
「それに今は考えるよりも犯人に直接聞いたほうが早い」
「ええっ!?」
「フッ。この俺が相手の掌の上で踊らされるわけがないだろう? ここのネットワークはREAが常時監視している。どう迂回しようと時間をかければゴールは特定できる。そして、『ノーネーム』は俺たちに時間を与え過ぎた」
蛍はニヤリと笑うとタブレット端末を掲げる。
画面上の地図に映し出された光点は二つ。
一つは都心から西に少し離れた郊外にあったが、もう一つは今いるファミレスのすぐ近くにあった。徒歩でなら約十五分。もう五年近く通い続けたその場所はなんなら目を瞑ってでも行くことができるだろう。
「ノーネーム」の本体サーバーの場所は二つに絞られた。二組に分かれてそれぞれ向かうことにしたが、夕璃は迷うことなく白蘭学院のサーバー室を選んだ。
「俺も本命はそっちだと思う。勘だけどな」
蛍がそう言ったとき夕璃は運命めいたものを感じた。
―――いえ、これはリベンジです!
「ホタル、僕たちで必ず犯人を捕まえよう!」
「お、おう。なんか妙に気合入っているな。というか、データの本体があったとしても犯人が一緒にいるとは限らないだろ」
「大丈夫、絶対にいるから。勘だけど」
こちとら一度は頭をカチ割られているのだ。これで運命論が働かなければ、カミソリでがっつり剃られたマイヘアーたちが浮かばれない。本来であれば、美少女の一部として天寿を全うしたであろう髪たちの無念が黒い炎とともに燃え上がり復讐へと変わる。
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