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17.ご対面
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和解、というわけではないけれど、もう魔犬たちに襲撃されることの無くなった帰り道は、洞窟とあって薄暗くはあるものの穏やかな道のりとなった。
少し帰路を外れても他のモンスターが棲みついているわけではないから襲われることも、その形跡もない。
代わりに『情報収集』が薬草や鉱石と示すものを採集できたので、今度新しいレシピに挑戦する予定もできた。
連れ帰ることになった子虎は、外見上は治ったとはいえまだ万全ではないため、まつりにぬいぐるみのように抱かれている。
緊張しているのか生来の性分なのか、大人しくされるがままにされているものだから、町の出入りを管理する門番もまさか猛獣の子とは思わず、『シルバーホーン』の冒険者たちと一緒だったこともあり、「お疲れ様」とすんなり通してくれた。
「っと」
「まつりさん?」
石造りの門を越えたところで急に足を止めたまつりに、悠介が振り返る。
ずっと大人しくしていた子虎がもぞもぞと身動ぎしていた。黄金の瞳はきょろきょろと動き回り、耳や鼻までぴくぴくと忙しない。まだ短い手足が宙を掻いて、ピンク色の肉球が見え隠れした。
「子虎、怖がってる?」
「ううん、どっちかっていうと、好奇心っぽいかな?」
まつり曰く、猫じゃらしを振った時の猫に似ているらしい。今度子虎の前でも振ってみよう、と悠介は思った。ついでに、今度魔犬たちに会いに行く時はボールでも持っていって、“取ってこい”をさせてみたい。
「いろいろ見せてあげたいけど、先にリトハルトさんに報告しないとだよね」
「うん。心配してるだろうし」
遊ばせてあげたい気持ちはあるけれど、今はまだ仕事中。異世界とはいえ警察官が職務放棄するわけにはいかない。
「ごめんね、もうちょっとだけ待ってね」
二人で左右から頬を包み込むように撫でると、子虎はぐるりと一つ唸ったけれど、また大人しくまつりの腕に収まった。ふてくされたように顔を逸らす様はどこか人間臭く、幼い態度に思わず微笑が溢れ出る。
まつりが困ったように苦笑し、悠介はもう一度子虎を撫でてから、待たせてしまっていた『シルバーホーン』の冒険者たちに小さく頭を下げた。
紳士的な彼らは気にすることはないと快く笑い返す。
「寄り道はできないが、軽い食事くらいならいいんじゃないか? 行儀は良くないが、串焼きとかなら歩きながらでも食べられる」
「いいんでしょうか」
「そのくらいなら五分もかからないだろうからな」
「俺たちもさすがに腹が減ったし」
ぽん、とわかりやすく腹に手を添える姿を有り難く思いながら、二人は頷き、屋台が立ち並ぶ広場前に続く通りに足を向けた。
リュカスの町は、ほとんど円に近い形状をしている。ギルドハウスは専ら壁近くに建てられているのだが、『シルバーホーン』とガレナ鉱山は広場を挟んで正反対にあった。
そして広場といえば露店や屋台が立ち並ぶ定番の場所なだけあって、相当の規模を誇るその場所には、屋台と人が溢れている。悠介たちが求める食べ物や飲み物に、武器や防具、工芸品も含めた雑貨を扱う店も複数見受けられた。
奥の方では何かしら購入したらしい人たちが噴水の縁に腰掛けて飲食したりしているが、迷路のように店が並んでいるので、あまり深入りしてしまっては通りに戻れなくなりそうだ。
「……どうしよう、すっごい取り締まりたくなってきた」
うずうずと体を揺らすまつりに、職業病と思いながら悠介も苦笑して同意する。
「スリとか多そうだよね」
「違う、そうじゃない」
一瞬でまつりに否定された。
「じゃあ何のこと?」
「あー……なんでもない。あ、でも夏と冬に有給とっていい?」
「え? ああ、うん。俺はいいよ」
どうにも脈絡を掴めない要望に悠介は首を傾げたが、特に問題もなさそうだったのでそれ以上追及はしなかった。
すでに待機列に並んでいた『シルバーホーン』の冒険者たちと合流し、大ぶりな串焼きを手に広場に背を向ける。
まつりは子虎を抱いているので、悠介が彼女の口元に串を差し出した。
子虎は食べたそうに首を伸ばしたが、香辛料の匂いが気に入らなかったのかすぐにそっぽを向いてしまう。
結果、安心して一人で一本を食べることができるのだが、同時に、報告後はまず子虎の腹を満たそうと二人の予定が決まった。
通りの半分を過ぎる頃には串焼きも食べ終わり、残った串は悠介が炎魔法であっさり燃やす。
まつりには見慣れた光景だったが、『シルバーホーン』の冒険者たちは物言いたげな目を悠介に向けた。
やがて、カウベルの音と共にギルドハウスに入る。カウンターには本の山が築かれていて、その合間からリトハルトと目が合った。
「! おかえり。皆、よく無事で帰ってきてくれた」
「ただいま戻りました、マスター」
安堵の笑みを浮かべて出迎えるリトハルトに、『シルバーホーン』の面々も嬉しそうに受け応える。
帰還を心から喜んでくれるリトハルトを嬉しく思いながら、クエストに臨んだ一同はすぐに気を引き締めてクエスト完了の報告を始めた。
「洞窟に棲み着いているモンスターは魔犬でした。妖精犬か黒妖犬かは判別できませんでした」
「ふむ……それで?」
「噂に流れた子供については、それらしい形跡は無し。魔犬たちに保護されていた子虎がいるので、その鳴き声が勘違いされた可能性があります」
ふむ。呟いたリトハルトが顎を撫でる。
「白い虎とは珍しい。蒐集家が欲しがりそうだな」
「実際、洞窟では呪具の首枷がされてましたからね」
思い出して忌々しげに声を低くした同胞に、リトハルトも不快そうに眉間を寄せた。
動物の飼育に関して苦言を呈するつもりはないが、呪具を用いてとなれば話は変わる。
呪具とは忌むべき物だ。装着者の尊厳を奪う悪品。
リトハルトは多くを語らず、子虎はこのまま保護することが決まった。
「解呪はやはりマツリが?」
「はい。治癒だけでも十分すごいのに、防壁も解呪もこなすのですから、本当に大した物です。神殿から迎えが来なかったのが不思議なくらいの素晴らしい腕前でしたよ」
「……迎えが来なかった、というよりも、見つけられなかったのかもしれないな」
「神殿がですか? そんなまさか、彼女ほどの才能なら、間違いなくあちらに神託が降されるでしょう」
からりと笑う彼に、リトハルトは何も言わなかった。
神殿には神託が降される。善にしろ悪にしろ、神託を賜った神殿の手から逃れるなど不可能。……そのはずだった。
けれどリトハルトは何故か、彼女なら、彼女たちならと思ってしまうのだ。
「…………」
考えを払拭しきれないまま、ギルドの印を取り出す。朱肉要らずの加工が施されたそれをクエスト依頼書に捺しつけると、くっきりと鮮やかにギルドの紋章が刻まれた。
「ともあれ、一般人に被害がなかったことを喜ぼう」
「はい」
それは本当に良かったと、現場にいたからこそ、思う気持ちも強いのだろう。晴れやかな笑顔にリトハルトも温かく微笑み、ついでギルドハウスの奥、子虎と戯れる悠介とまつりに目を向けた。
子虎は傍目にもわかるほどまつりに懐いていて、背中を撫でられながらせっせと蒸し鶏にありついている。数々のモンスターを見慣れたリトハルトの目から見ても、到底人を襲いそうには思えなかった。
その証拠に、悠介が見慣れない薄っぺらい板を子虎とまつりに向けているが、どちらも嫌がるどころか気にする素振りすら見せていない。
「……」
コツ、とわざとブーツの踵を鳴らして近づいてみる。
子虎は弾かれるように顔を上げて黄金の目でリトハルトを捉えたが、傍らの悠介とまつりの様子を確認するとすぐに視線を外し、また蒸し鶏に齧り付いた。
当然、二人も何も言わない。
「ユースケ、マツリ」
「はい」
呼ばれて、二人の返事が重なる。
きょとんと見上げてくる顔はあどけなく、リトハルトは思わず苦笑した。こんなに幼く見えるのに、末恐ろしい新米冒険者がいたものだ。
「その子虎は、君たちが保護してくれないか」
「え、わたしたちが?」
「二人によく懐いているようだからね。人目に触れやすいここで保護するよりは余程安全だろう」
ギルドハウスには所属する冒険者以外にも、依頼人や、採集したものを各地に送り届ける郵便ギルドの配送人も出入りする。それは『シルバーホーン』も『レッドグリフォン』も変わらない。
けれど拠点を比較した場合、外部からの出入りが少ないのは『レッドグリフォン』だ。
クベーニュ村も穏やかな土地柄だから、子虎を匿うには申し分ない。
リトハルトの言葉に、悠介とまつりは丸っこい目で互いを見合った。
「いい、のかな? わたしはいいんだけど……」
「オレも。あ、でも、一回バルディオさんに聞いてみないと。あそこ、借家だし」
リトハルトに借家という言葉は聞きなれないが、とりあえず二人自身は子虎の保護に否はないことは察した。
「条件はあるが人外もパーティーとして数えられることがあるから、ランドルフにも一言言っておいた方がいいだろう。あれで一応ギルドマスターだからな」
もふもふと子虎の毛並みを掌に受けながらリトハルトが言う。ぞんざいな物言いだが、言葉の裏にはランドルフに対する信頼が伺えた。
そっとまつりが手で口元を覆う。僅かに逸らされた顔はなぜかほんのり色づいていた。
悠介は不思議そうにそれを一瞥したが、体調が悪いわけではないようだからそっとしておくことにした。
「是非、そうしますね」
にっこりと笑顔で返した悠介に、リトハルトもまた素晴らしい笑みでもって応えた。
少し帰路を外れても他のモンスターが棲みついているわけではないから襲われることも、その形跡もない。
代わりに『情報収集』が薬草や鉱石と示すものを採集できたので、今度新しいレシピに挑戦する予定もできた。
連れ帰ることになった子虎は、外見上は治ったとはいえまだ万全ではないため、まつりにぬいぐるみのように抱かれている。
緊張しているのか生来の性分なのか、大人しくされるがままにされているものだから、町の出入りを管理する門番もまさか猛獣の子とは思わず、『シルバーホーン』の冒険者たちと一緒だったこともあり、「お疲れ様」とすんなり通してくれた。
「っと」
「まつりさん?」
石造りの門を越えたところで急に足を止めたまつりに、悠介が振り返る。
ずっと大人しくしていた子虎がもぞもぞと身動ぎしていた。黄金の瞳はきょろきょろと動き回り、耳や鼻までぴくぴくと忙しない。まだ短い手足が宙を掻いて、ピンク色の肉球が見え隠れした。
「子虎、怖がってる?」
「ううん、どっちかっていうと、好奇心っぽいかな?」
まつり曰く、猫じゃらしを振った時の猫に似ているらしい。今度子虎の前でも振ってみよう、と悠介は思った。ついでに、今度魔犬たちに会いに行く時はボールでも持っていって、“取ってこい”をさせてみたい。
「いろいろ見せてあげたいけど、先にリトハルトさんに報告しないとだよね」
「うん。心配してるだろうし」
遊ばせてあげたい気持ちはあるけれど、今はまだ仕事中。異世界とはいえ警察官が職務放棄するわけにはいかない。
「ごめんね、もうちょっとだけ待ってね」
二人で左右から頬を包み込むように撫でると、子虎はぐるりと一つ唸ったけれど、また大人しくまつりの腕に収まった。ふてくされたように顔を逸らす様はどこか人間臭く、幼い態度に思わず微笑が溢れ出る。
まつりが困ったように苦笑し、悠介はもう一度子虎を撫でてから、待たせてしまっていた『シルバーホーン』の冒険者たちに小さく頭を下げた。
紳士的な彼らは気にすることはないと快く笑い返す。
「寄り道はできないが、軽い食事くらいならいいんじゃないか? 行儀は良くないが、串焼きとかなら歩きながらでも食べられる」
「いいんでしょうか」
「そのくらいなら五分もかからないだろうからな」
「俺たちもさすがに腹が減ったし」
ぽん、とわかりやすく腹に手を添える姿を有り難く思いながら、二人は頷き、屋台が立ち並ぶ広場前に続く通りに足を向けた。
リュカスの町は、ほとんど円に近い形状をしている。ギルドハウスは専ら壁近くに建てられているのだが、『シルバーホーン』とガレナ鉱山は広場を挟んで正反対にあった。
そして広場といえば露店や屋台が立ち並ぶ定番の場所なだけあって、相当の規模を誇るその場所には、屋台と人が溢れている。悠介たちが求める食べ物や飲み物に、武器や防具、工芸品も含めた雑貨を扱う店も複数見受けられた。
奥の方では何かしら購入したらしい人たちが噴水の縁に腰掛けて飲食したりしているが、迷路のように店が並んでいるので、あまり深入りしてしまっては通りに戻れなくなりそうだ。
「……どうしよう、すっごい取り締まりたくなってきた」
うずうずと体を揺らすまつりに、職業病と思いながら悠介も苦笑して同意する。
「スリとか多そうだよね」
「違う、そうじゃない」
一瞬でまつりに否定された。
「じゃあ何のこと?」
「あー……なんでもない。あ、でも夏と冬に有給とっていい?」
「え? ああ、うん。俺はいいよ」
どうにも脈絡を掴めない要望に悠介は首を傾げたが、特に問題もなさそうだったのでそれ以上追及はしなかった。
すでに待機列に並んでいた『シルバーホーン』の冒険者たちと合流し、大ぶりな串焼きを手に広場に背を向ける。
まつりは子虎を抱いているので、悠介が彼女の口元に串を差し出した。
子虎は食べたそうに首を伸ばしたが、香辛料の匂いが気に入らなかったのかすぐにそっぽを向いてしまう。
結果、安心して一人で一本を食べることができるのだが、同時に、報告後はまず子虎の腹を満たそうと二人の予定が決まった。
通りの半分を過ぎる頃には串焼きも食べ終わり、残った串は悠介が炎魔法であっさり燃やす。
まつりには見慣れた光景だったが、『シルバーホーン』の冒険者たちは物言いたげな目を悠介に向けた。
やがて、カウベルの音と共にギルドハウスに入る。カウンターには本の山が築かれていて、その合間からリトハルトと目が合った。
「! おかえり。皆、よく無事で帰ってきてくれた」
「ただいま戻りました、マスター」
安堵の笑みを浮かべて出迎えるリトハルトに、『シルバーホーン』の面々も嬉しそうに受け応える。
帰還を心から喜んでくれるリトハルトを嬉しく思いながら、クエストに臨んだ一同はすぐに気を引き締めてクエスト完了の報告を始めた。
「洞窟に棲み着いているモンスターは魔犬でした。妖精犬か黒妖犬かは判別できませんでした」
「ふむ……それで?」
「噂に流れた子供については、それらしい形跡は無し。魔犬たちに保護されていた子虎がいるので、その鳴き声が勘違いされた可能性があります」
ふむ。呟いたリトハルトが顎を撫でる。
「白い虎とは珍しい。蒐集家が欲しがりそうだな」
「実際、洞窟では呪具の首枷がされてましたからね」
思い出して忌々しげに声を低くした同胞に、リトハルトも不快そうに眉間を寄せた。
動物の飼育に関して苦言を呈するつもりはないが、呪具を用いてとなれば話は変わる。
呪具とは忌むべき物だ。装着者の尊厳を奪う悪品。
リトハルトは多くを語らず、子虎はこのまま保護することが決まった。
「解呪はやはりマツリが?」
「はい。治癒だけでも十分すごいのに、防壁も解呪もこなすのですから、本当に大した物です。神殿から迎えが来なかったのが不思議なくらいの素晴らしい腕前でしたよ」
「……迎えが来なかった、というよりも、見つけられなかったのかもしれないな」
「神殿がですか? そんなまさか、彼女ほどの才能なら、間違いなくあちらに神託が降されるでしょう」
からりと笑う彼に、リトハルトは何も言わなかった。
神殿には神託が降される。善にしろ悪にしろ、神託を賜った神殿の手から逃れるなど不可能。……そのはずだった。
けれどリトハルトは何故か、彼女なら、彼女たちならと思ってしまうのだ。
「…………」
考えを払拭しきれないまま、ギルドの印を取り出す。朱肉要らずの加工が施されたそれをクエスト依頼書に捺しつけると、くっきりと鮮やかにギルドの紋章が刻まれた。
「ともあれ、一般人に被害がなかったことを喜ぼう」
「はい」
それは本当に良かったと、現場にいたからこそ、思う気持ちも強いのだろう。晴れやかな笑顔にリトハルトも温かく微笑み、ついでギルドハウスの奥、子虎と戯れる悠介とまつりに目を向けた。
子虎は傍目にもわかるほどまつりに懐いていて、背中を撫でられながらせっせと蒸し鶏にありついている。数々のモンスターを見慣れたリトハルトの目から見ても、到底人を襲いそうには思えなかった。
その証拠に、悠介が見慣れない薄っぺらい板を子虎とまつりに向けているが、どちらも嫌がるどころか気にする素振りすら見せていない。
「……」
コツ、とわざとブーツの踵を鳴らして近づいてみる。
子虎は弾かれるように顔を上げて黄金の目でリトハルトを捉えたが、傍らの悠介とまつりの様子を確認するとすぐに視線を外し、また蒸し鶏に齧り付いた。
当然、二人も何も言わない。
「ユースケ、マツリ」
「はい」
呼ばれて、二人の返事が重なる。
きょとんと見上げてくる顔はあどけなく、リトハルトは思わず苦笑した。こんなに幼く見えるのに、末恐ろしい新米冒険者がいたものだ。
「その子虎は、君たちが保護してくれないか」
「え、わたしたちが?」
「二人によく懐いているようだからね。人目に触れやすいここで保護するよりは余程安全だろう」
ギルドハウスには所属する冒険者以外にも、依頼人や、採集したものを各地に送り届ける郵便ギルドの配送人も出入りする。それは『シルバーホーン』も『レッドグリフォン』も変わらない。
けれど拠点を比較した場合、外部からの出入りが少ないのは『レッドグリフォン』だ。
クベーニュ村も穏やかな土地柄だから、子虎を匿うには申し分ない。
リトハルトの言葉に、悠介とまつりは丸っこい目で互いを見合った。
「いい、のかな? わたしはいいんだけど……」
「オレも。あ、でも、一回バルディオさんに聞いてみないと。あそこ、借家だし」
リトハルトに借家という言葉は聞きなれないが、とりあえず二人自身は子虎の保護に否はないことは察した。
「条件はあるが人外もパーティーとして数えられることがあるから、ランドルフにも一言言っておいた方がいいだろう。あれで一応ギルドマスターだからな」
もふもふと子虎の毛並みを掌に受けながらリトハルトが言う。ぞんざいな物言いだが、言葉の裏にはランドルフに対する信頼が伺えた。
そっとまつりが手で口元を覆う。僅かに逸らされた顔はなぜかほんのり色づいていた。
悠介は不思議そうにそれを一瞥したが、体調が悪いわけではないようだからそっとしておくことにした。
「是非、そうしますね」
にっこりと笑顔で返した悠介に、リトハルトもまた素晴らしい笑みでもって応えた。
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