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07.あたたかい食事
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それぞれの家から食材を持ち込んで、さあやるぞとキッチンに立つ。
見慣れない構造の調理器具に、しまったと焦りを抱いたのも束の間、ここでもスキル『情報処理』は良い仕事をしてくれた。
日本でいう家電は、この世界ではすべて魔力で動くらしい。スキルといい、便利なものだ。
「それじゃあ悠介くん、お野菜の皮剥きとかお願いね」
「ほいほーい」
異世界にいるとはいえ、時間はすでに定時過ぎ。すっかり気の抜けまくった悠介に、まつりは姉のような心境で微笑んだ。
「悠介くん、土大蛇退治の時はあんなに頼もしかったのに」
「えー? だって、いつもあんな気を張ってたら疲れちゃうじゃないですか。何事もメリハリが大事なんですよ」
今は定時後なのでメリなんです、と言いながら、洗い終わった野菜がまつりの手に渡る。
まつりは慣れたように手を動かした。
まずはスープ。ジャガイモは一口大に切って魔導オーブンレンジで蒸かし、千切りにしたニンジンと玉ねぎをコンソメと塩コショウ、水を加えた鍋で煮込む。
別の鍋には湯を沸かし、乾燥パスタと塩を一つまみ。
フライパンにニンニクとオリーブ、バターを入れて、香りが立ったらベーコンを加えて弱火で加熱。
生クリームと粉チーズを加えてじっくり煮詰めたら、ゆで上げたパスタを絡めて、キノコのクリームパスタの出来上がり。
スキル『生産』獲得
項目『調理』解放
『調理』レベル1→2
「料理もスキルになるのか……需要はどこにあるんだろう」
「料理人とか、ですかね?」
何とも言えない空気が二人の間に漂う。
こほん、まつりが咳払いした。
「私ならこれだけで十分なんだけど……悠介くん、足りる?」
「夜中にお腹なが鳴ること確定ですね」
「だよねぇ。じゃあ、もう一品」
薄切りにしたキノコをとウインナーを、食べやすい大きさに切ったホウレンソウと一緒にバターで炒める。ホウレンソウがしんなりしたら、塩コショウで味を調えて完成。
「キノコとホウレンソウのバターソテー。バゲットに乗せて食べてね」
「りょうかーい! さっすがマドンナまつりさん!」
「なぁに、それ」
へんなの、とまつりが笑う。
悠介も、悪戯が成功した子供のように笑った。
完成した料理を二人でテーブルに運んで、今日だけは無礼講だと悠介が貰い物のワインを持ち出す。
「白ワイン?」
「そ。誕生日に、俺の生まれ年のワインをプレゼントしてくれるダチがいるんだ。味は保証するよ」
「素敵なお友達ね。……もしかして、恋人さんだったりするの?」
「あっはは、まさか。男だもん」
「……美味しいわね」
ぼそり、まつりが呟いた。
「? まつりさん、一人でつまみ食いでもしたの?」
「しないわよ、そんなこと。ほら、冷めちゃう前に食べましょ」
早く早くと急かされて、悠介も席に着く。
ワイングラスには白ワインをたっぷりと注いで、互いの無事とこれからの奮闘に乾杯した。
「ん…っ。わあ、ワインって初めて飲んだけど、美味しいのね」
「でしょ? ホットワインにしても美味しいんだ」
冬になったら作ろうか、と機嫌良さそうな悠介に、まつりも是非、と頷いた。
くるりとパスタを巻き付けて、クリームソースにくぐらせて一口。濃厚な生クリームの甘みと粉チーズの風味が口いっぱいに広がった。もぐ、と咀嚼すると、キノコの旨味がじゅわりとしみだしてくる。
これだけでももちろん美味しいのだが、バゲットにつけて食べてみると、やっぱり思った通りだった。
「うまぁ~……!」
心底幸せそうに顔を蕩かせる悠介に、まつりが満足そうに微笑む。美味い美味いと何度も繰り返すと、優しかった微笑の目尻がほんのりと赤みを帯びた。
「悠介くん、もう黙って食べて!」
恥ずかしいじゃない、と拗ねたような顔をするまつりは、同期の男たちが見たら間違いなく雄叫びを上げるだろう。
「ごめんなさーい。でも、本当に美味しいよ?」
「もう、黙る!」
怒るわよ、とじっとりとした目で見上げられて、もう一度詫びを口にしようとした、その時だ。
玄関のドアベルが鳴る。
一瞬のうちに酔いが醒めた。互いに顔を見合わせ、頷き合う。
玄関に立ったのは悠介だった。その後ろにはまつりが援護できるようにと拳銃に手をかけ控えている。
「……どちら様ですかー?」
あえて間延びした声で聞くと、反応はすぐに返ってきた。
「おお、ユースケか。ワシじゃ、バルディオじゃ」
「バルディオさん?」
ぱちり、悠介は瞬いた。
声の調子からして、異常事態が起きているわけでもないだろう。
悠介は手を下に下げる動きをまつりに見せ、扉に手をかけた。
心持ちゆっくりと押し開ければ、バルディオの姿が露になる。その両腕には、大きな紙袋が抱えられていた。
「こんばんは、どうなさったんですか?」
「お前さんたちのおかげで、村に食料が買い込めたからの。礼と祝いを兼ねて、持ってきたんじゃ」
魔道具が揃っていても、肝心の食材がなければ意味がない。
そう渡された紙袋には、言葉通りどっさりと食べ物が入っていた。
「ありがとう、ございます……。……ねえ、まつりさん。お願いがあるんですけど……」
悠介が振り返る。まつりはわかっていると言うように頷いてみせた。
「バルディオさん、もしお夕飯がまだなら、召し上がっていかれませんか? お祝いに美味しいワインを開けているんです」
「ワイン? というか、この家に食べるものなんてあったか?」
「俺たちが持ち込んだんですよ。ね、食べてってくださいよ。まつりさんの料理、すっごい美味しいんですよ」
まるで自分のことのように自慢げな悠介に、バルディオはそれならと頷いた。
「是非、ご相伴に与ろうかの」
答えた途端なった腹に、バルディオの顔が真っ赤になった。
その後、まつりの手料理を食べた彼が目に涙を滲ませたことは、三人だけの秘密である。
見慣れない構造の調理器具に、しまったと焦りを抱いたのも束の間、ここでもスキル『情報処理』は良い仕事をしてくれた。
日本でいう家電は、この世界ではすべて魔力で動くらしい。スキルといい、便利なものだ。
「それじゃあ悠介くん、お野菜の皮剥きとかお願いね」
「ほいほーい」
異世界にいるとはいえ、時間はすでに定時過ぎ。すっかり気の抜けまくった悠介に、まつりは姉のような心境で微笑んだ。
「悠介くん、土大蛇退治の時はあんなに頼もしかったのに」
「えー? だって、いつもあんな気を張ってたら疲れちゃうじゃないですか。何事もメリハリが大事なんですよ」
今は定時後なのでメリなんです、と言いながら、洗い終わった野菜がまつりの手に渡る。
まつりは慣れたように手を動かした。
まずはスープ。ジャガイモは一口大に切って魔導オーブンレンジで蒸かし、千切りにしたニンジンと玉ねぎをコンソメと塩コショウ、水を加えた鍋で煮込む。
別の鍋には湯を沸かし、乾燥パスタと塩を一つまみ。
フライパンにニンニクとオリーブ、バターを入れて、香りが立ったらベーコンを加えて弱火で加熱。
生クリームと粉チーズを加えてじっくり煮詰めたら、ゆで上げたパスタを絡めて、キノコのクリームパスタの出来上がり。
スキル『生産』獲得
項目『調理』解放
『調理』レベル1→2
「料理もスキルになるのか……需要はどこにあるんだろう」
「料理人とか、ですかね?」
何とも言えない空気が二人の間に漂う。
こほん、まつりが咳払いした。
「私ならこれだけで十分なんだけど……悠介くん、足りる?」
「夜中にお腹なが鳴ること確定ですね」
「だよねぇ。じゃあ、もう一品」
薄切りにしたキノコをとウインナーを、食べやすい大きさに切ったホウレンソウと一緒にバターで炒める。ホウレンソウがしんなりしたら、塩コショウで味を調えて完成。
「キノコとホウレンソウのバターソテー。バゲットに乗せて食べてね」
「りょうかーい! さっすがマドンナまつりさん!」
「なぁに、それ」
へんなの、とまつりが笑う。
悠介も、悪戯が成功した子供のように笑った。
完成した料理を二人でテーブルに運んで、今日だけは無礼講だと悠介が貰い物のワインを持ち出す。
「白ワイン?」
「そ。誕生日に、俺の生まれ年のワインをプレゼントしてくれるダチがいるんだ。味は保証するよ」
「素敵なお友達ね。……もしかして、恋人さんだったりするの?」
「あっはは、まさか。男だもん」
「……美味しいわね」
ぼそり、まつりが呟いた。
「? まつりさん、一人でつまみ食いでもしたの?」
「しないわよ、そんなこと。ほら、冷めちゃう前に食べましょ」
早く早くと急かされて、悠介も席に着く。
ワイングラスには白ワインをたっぷりと注いで、互いの無事とこれからの奮闘に乾杯した。
「ん…っ。わあ、ワインって初めて飲んだけど、美味しいのね」
「でしょ? ホットワインにしても美味しいんだ」
冬になったら作ろうか、と機嫌良さそうな悠介に、まつりも是非、と頷いた。
くるりとパスタを巻き付けて、クリームソースにくぐらせて一口。濃厚な生クリームの甘みと粉チーズの風味が口いっぱいに広がった。もぐ、と咀嚼すると、キノコの旨味がじゅわりとしみだしてくる。
これだけでももちろん美味しいのだが、バゲットにつけて食べてみると、やっぱり思った通りだった。
「うまぁ~……!」
心底幸せそうに顔を蕩かせる悠介に、まつりが満足そうに微笑む。美味い美味いと何度も繰り返すと、優しかった微笑の目尻がほんのりと赤みを帯びた。
「悠介くん、もう黙って食べて!」
恥ずかしいじゃない、と拗ねたような顔をするまつりは、同期の男たちが見たら間違いなく雄叫びを上げるだろう。
「ごめんなさーい。でも、本当に美味しいよ?」
「もう、黙る!」
怒るわよ、とじっとりとした目で見上げられて、もう一度詫びを口にしようとした、その時だ。
玄関のドアベルが鳴る。
一瞬のうちに酔いが醒めた。互いに顔を見合わせ、頷き合う。
玄関に立ったのは悠介だった。その後ろにはまつりが援護できるようにと拳銃に手をかけ控えている。
「……どちら様ですかー?」
あえて間延びした声で聞くと、反応はすぐに返ってきた。
「おお、ユースケか。ワシじゃ、バルディオじゃ」
「バルディオさん?」
ぱちり、悠介は瞬いた。
声の調子からして、異常事態が起きているわけでもないだろう。
悠介は手を下に下げる動きをまつりに見せ、扉に手をかけた。
心持ちゆっくりと押し開ければ、バルディオの姿が露になる。その両腕には、大きな紙袋が抱えられていた。
「こんばんは、どうなさったんですか?」
「お前さんたちのおかげで、村に食料が買い込めたからの。礼と祝いを兼ねて、持ってきたんじゃ」
魔道具が揃っていても、肝心の食材がなければ意味がない。
そう渡された紙袋には、言葉通りどっさりと食べ物が入っていた。
「ありがとう、ございます……。……ねえ、まつりさん。お願いがあるんですけど……」
悠介が振り返る。まつりはわかっていると言うように頷いてみせた。
「バルディオさん、もしお夕飯がまだなら、召し上がっていかれませんか? お祝いに美味しいワインを開けているんです」
「ワイン? というか、この家に食べるものなんてあったか?」
「俺たちが持ち込んだんですよ。ね、食べてってくださいよ。まつりさんの料理、すっごい美味しいんですよ」
まるで自分のことのように自慢げな悠介に、バルディオはそれならと頷いた。
「是非、ご相伴に与ろうかの」
答えた途端なった腹に、バルディオの顔が真っ赤になった。
その後、まつりの手料理を食べた彼が目に涙を滲ませたことは、三人だけの秘密である。
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