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03.異世界との遭遇
しおりを挟む「……ナンデスカ、コレハ」
「大蛇……いえ、土大蛇でしょうか。ゲームなら私の知る限りでは魔法等は使いませんが、毒のブレスを吐きます」
「毒っ⁉」
悠介の叫びに呼応するように、土大蛇が禍々しい息を吐きだした。
触れる前に飛び退き、距離を置いて銃を構える。
土大蛇が吐き出したのは、まつりの知識通り毒のブレスだったようだ。どす黒い紫の靄に触れた途端、瑞々しく生い茂っていた草木が腐り枯れ果てた。
「ゲームの序盤って普通スライムとかじゃないの⁉ いきなり土大蛇ってあるあるなんですか⁉」
「そんなわけないでしょう、どんな鬼畜ゲーですか」
「そんな冷静な突っ込みはいらないから! 弱点! 弱点何かないんですか⁉」
言い合っている間にも、土大蛇が悠介たちに襲い掛かる。
巨大な体躯の割に俊敏な動きを見せ、人の頭よりも長い牙を剥き出しに飛びかかってきた。
何とか避けたはいいものの、土大蛇の追撃は止まない。太い尾が鞭のようにしなり、辺りを薙ぎ払った。
咄嗟に腕でガードの姿勢はとれたものの、強すぎる衝撃に悠介は茂みの奥に吹っ飛ばされる。
「ってぇ……!」
腕は痺れているが、骨が折れた感じはしない。痺れた腕をさすりつつ、悠介は息を潜めて土大蛇の位置を確認した。
土大蛇は、おそらく何も考えず力任せに行動したのだろう。獲物を探している辺り、知能は高くないとわかる。
(佐々木さん……も、よかった、無事だな)
まつりは少し離れてはいるが、同じく茂みの中にいた。彼女も吹っ飛ばされたのだろう。
それにホッと安堵の息を吐いた時、視界の下端に異物が入り込んだ。
悠介の視線が下りる。
「っ⁉」
ざっ、と血の気の引く音がした。
茂みにあったのは、人間の腕だった。けれど、もう二度と動くことはない。
服に袖を通したままのその腕は、肘から先がなかった。あるのはただ、獣に食いちぎられたかのような切断面だけ。
(土大蛇に……!!)
食いしばる歯がぎちりと音を鳴らした。
この腕は、土大蛇の食い残しだ。
この辺りが静かだったのは、生物が姿を見せなかったのは、人間を警戒していたわけじゃない。
土大蛇に食われたか、食われないように隠れていたからなのだ。
(冗談じゃない……)
そうだ。冗談じゃない。
これは紛れもない現実なのだ。
今、自分たちは捕食されようとしている。
諦めれば、死あるのみ。
(諦めてたまるか……この土大蛇は、敵だ!)
悠介は拳銃を構えた。
「っこんの……でかい図体してるからって調子に乗るなよ!」
一発。二発。立て続けの発砲とともに響く大きな破裂音。
土大蛇の生白い下腹部に鮮血が舞った。
見た目より素早いとはいえこの巨大な体躯で銃撃から逃れることは不可能だ。
怯んだ土大蛇が動きを止める。
続けざま、まつりも銃を構え発砲した。銃弾が、土大蛇の左目に当たる。声無くのたうつ土大蛇は尾を暴れさせ、柵を巻き込んで道を陥没させた。
凶暴性は上がったが、片目を失った分動きに隙が増えている。
「二階堂くん、頭! 頭を狙って!」
叫ぶまつりの声を聞きながら、悠介は引き抜かれた木杭を掴む。
右手に銃を構え、距離を取りつつタイミングを計った。
下腹部の皮は比較的柔らかいようだが、表皮は鉄色の鱗が隙間なく覆っている。金属に近い音を響かせて跳ね返された銃弾に、まつりが慌てて土大蛇から距離を取った。
彼女がいたところに土大蛇の尾が落とされる。目だけではない、音でも獲物の位置を捉えているようだった。
(でも……)
まつりは奴の視界にいない。
土大蛇は、都合よく悠介に狙いを定めていた。
(タイミングさえ間違えなければ、何とかなる……!)
悠介はもう一度発砲した。
銃弾を眉間の鱗で跳ね返した土大蛇が飛びかかり噛みつこうとする。
その口に悠介は木杭を突き立てた。口を閉じれなくなった土大蛇の牙の隙間を、立て続けにまた発砲する。
下腹より柔らかい口内に銃弾を食らった土大蛇が、巨大な体躯を痙攣させる。上顎から頭めがけてもう一発お見舞いすれば、土大蛇は今度こそ永久にその動きを止めた。
「っ二階堂くん!」
動かなくなった土大蛇の横を過ぎ、まつりが悠介に駆け寄る。
怪我はないかとしきりに心配する彼女を大丈夫だからと宥め賺して、悠介は改めて息絶えた土大蛇に目を向けた。
巨大な蛇の体躯は道をはみ出し、路傍の草花を押しつぶしている。
「一回しかブレスを使ってこなかったのは幸いだったね」
「本当に。スキルとかと同じで、チャージタイムがあるのかしら。……でも、これでこの世界は安全ではないってことはわかったわね」
決して喜ばしいことではないが、危険性を認識しているのとしていないとでは対応にも差が出る。前以って警戒できるのは不幸中の幸いだろう。
二階堂はもう一本木杭を手に、先ほど自分が吹っ飛ばされた茂みに踏み入った。
持ち主を失い、腐食した腕。実際対峙したからこそ、この腕の持ち主が生き延びられているとは考え難かった。
木杭で地面を穿ち、穴を掘る。
追ってきたまつりが腕に息を飲んでいたが、すぐに気を落ち着けて手伝ってくれた。
土を被せ、せめてもの墓標にと拳大の石を置く。
それだけしか、二人にできることはなかった。
「……この土大蛇の死体、どうしようか?」
もし本当にゲームのような世界なら勝手に消えてくれるのだろうが、ここは現実世界。そんな気配は一向にない。このまま放置してしまっては交通の妨げになることは明らかだった。
「売れるかもしれませんし、鱗と皮は採集しておきましょう。売れなくても、加工すれば何か装備が作れるでしょうし」
「なるほど。この鱗とか、かなり頑丈なものが作れそうだもんね」
銃弾を跳ね返すほどの強度を持った鱗だ。きっと何かの役に立つ。
悠介とまつりは頷き合い、苦戦しながらも持てるだけの素材を採集すると、亡骸はひとまず道の脇に退けて先へ進むことにした。
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