上 下
3 / 20

03.異世界との遭遇

しおりを挟む
 
「……ナンデスカ、コレハ」
「大蛇……いえ、土大蛇ワームでしょうか。ゲームなら私の知る限りでは魔法等は使いませんが、毒のブレスを吐きます」
「毒っ⁉」
 
 悠介の叫びに呼応するように、土大蛇ワームが禍々しい息を吐きだした。
 触れる前に飛び退き、距離を置いて銃を構える。
 土大蛇ワームが吐き出したのは、まつりの知識通り毒のブレスだったようだ。どす黒い紫の靄に触れた途端、瑞々しく生い茂っていた草木が腐り枯れ果てた。
 
「ゲームの序盤って普通スライムとかじゃないの⁉ いきなり土大蛇ワームってあるあるなんですか⁉」
「そんなわけないでしょう、どんな鬼畜ゲーですか」
「そんな冷静な突っ込みはいらないから! 弱点! 弱点何かないんですか⁉」
 
 言い合っている間にも、土大蛇ワームが悠介たちに襲い掛かる。
 巨大な体躯の割に俊敏な動きを見せ、人の頭よりも長い牙を剥き出しに飛びかかってきた。
 何とか避けたはいいものの、土大蛇ワームの追撃は止まない。太い尾が鞭のようにしなり、辺りを薙ぎ払った。
 咄嗟に腕でガードの姿勢はとれたものの、強すぎる衝撃に悠介は茂みの奥に吹っ飛ばされる。
 
「ってぇ……!」
 
 腕は痺れているが、骨が折れた感じはしない。痺れた腕をさすりつつ、悠介は息を潜めて土大蛇ワームの位置を確認した。
 土大蛇ワームは、おそらく何も考えず力任せに行動したのだろう。獲物を探している辺り、知能は高くないとわかる。

(佐々木さん……も、よかった、無事だな)
 
 まつりは少し離れてはいるが、同じく茂みの中にいた。彼女も吹っ飛ばされたのだろう。
 それにホッと安堵の息を吐いた時、視界の下端に異物が入り込んだ。
 悠介の視線が下りる。
 
「っ⁉」
 
 ざっ、と血の気の引く音がした。
 茂みにあったのは、人間の腕だった。けれど、もう二度と動くことはない。
 服に袖を通したままのその腕は、肘から先がなかった。あるのはただ、獣に食いちぎられたかのような切断面だけ。
 
土大蛇ワームに……!!)
 
 食いしばる歯がぎちりと音を鳴らした。
 この腕は、土大蛇ワームの食い残しだ。
 この辺りが静かだったのは、生物が姿を見せなかったのは、人間を警戒していたわけじゃない。
 土大蛇ワームに食われたか、食われないように隠れていたからなのだ。
 
(冗談じゃない……)
 
 そうだ。冗談じゃない。
 これは紛れもない現実なのだ。
 今、自分たちは捕食されようとしている。
 諦めれば、死あるのみ。
 
(諦めてたまるか……この土大蛇ワームは、敵だ!)
 悠介は拳銃を構えた。
 
「っこんの……でかい図体してるからって調子に乗るなよ!」
 
 一発。二発。立て続けの発砲とともに響く大きな破裂音。
 土大蛇ワームの生白い下腹部に鮮血が舞った。
 見た目より素早いとはいえこの巨大な体躯で銃撃から逃れることは不可能だ。
 怯んだ土大蛇ワームが動きを止める。
 続けざま、まつりも銃を構え発砲した。銃弾が、土大蛇ワームの左目に当たる。声無くのたうつ土大蛇ワームは尾を暴れさせ、柵を巻き込んで道を陥没させた。
 凶暴性は上がったが、片目を失った分動きに隙が増えている。
 
「二階堂くん、頭! 頭を狙って!」
 
 叫ぶまつりの声を聞きながら、悠介は引き抜かれた木杭を掴む。
 右手に銃を構え、距離を取りつつタイミングを計った。
 下腹部の皮は比較的柔らかいようだが、表皮は鉄色の鱗が隙間なく覆っている。金属に近い音を響かせて跳ね返された銃弾に、まつりが慌てて土大蛇ワームから距離を取った。
 彼女がいたところに土大蛇ワームの尾が落とされる。目だけではない、音でも獲物の位置を捉えているようだった。
 
(でも……)
 
 まつりは奴の視界にいない。
 土大蛇ワームは、都合よく悠介に狙いを定めていた。
 
(タイミングさえ間違えなければ、何とかなる……!)
 
 悠介はもう一度発砲した。
 銃弾を眉間の鱗で跳ね返した土大蛇ワームが飛びかかり噛みつこうとする。
 その口に悠介は木杭を突き立てた。口を閉じれなくなった土大蛇ワームの牙の隙間を、立て続けにまた発砲する。
 下腹より柔らかい口内に銃弾を食らった土大蛇ワームが、巨大な体躯を痙攣させる。上顎から頭めがけてもう一発お見舞いすれば、土大蛇ワームは今度こそ永久にその動きを止めた。
 
「っ二階堂くん!」
 
 動かなくなった土大蛇ワームの横を過ぎ、まつりが悠介に駆け寄る。
 怪我はないかとしきりに心配する彼女を大丈夫だからと宥め賺して、悠介は改めて息絶えた土大蛇ワームに目を向けた。
 巨大な蛇の体躯は道をはみ出し、路傍の草花を押しつぶしている。
 
「一回しかブレスを使ってこなかったのは幸いだったね」
「本当に。スキルとかと同じで、チャージタイムがあるのかしら。……でも、これでこの世界は安全ではないってことはわかったわね」
 
 決して喜ばしいことではないが、危険性を認識しているのとしていないとでは対応にも差が出る。前以って警戒できるのは不幸中の幸いだろう。
 二階堂はもう一本木杭を手に、先ほど自分が吹っ飛ばされた茂みに踏み入った。
 持ち主を失い、腐食した腕。実際対峙したからこそ、この腕の持ち主が生き延びられているとは考え難かった。
 木杭で地面を穿ち、穴を掘る。
 追ってきたまつりが腕に息を飲んでいたが、すぐに気を落ち着けて手伝ってくれた。
 土を被せ、せめてもの墓標にと拳大の石を置く。
 それだけしか、二人にできることはなかった。
 
「……この土大蛇ワームの死体、どうしようか?」
 
 もし本当にゲームのような世界なら勝手に消えてくれるのだろうが、ここは現実世界。そんな気配は一向にない。このまま放置してしまっては交通の妨げになることは明らかだった。
 
「売れるかもしれませんし、鱗と皮は採集しておきましょう。売れなくても、加工すれば何か装備が作れるでしょうし」
「なるほど。この鱗とか、かなり頑丈なものが作れそうだもんね」
 
 銃弾を跳ね返すほどの強度を持った鱗だ。きっと何かの役に立つ。
 悠介とまつりは頷き合い、苦戦しながらも持てるだけの素材を採集すると、亡骸はひとまず道の脇に退けて先へ進むことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...