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26.俺様吸血鬼の愛し方
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ゆっくりと重なっていた唇が離れていく。
千夏は立ち尽くしたまま動けないでいた。
「ほん、とに…………?」
目を瞠ったまま呆然と呟いた。涙はもう止まっていて、飲み下せない戸惑いが取り残されている。
「何が?」
「告白って、だって今までそんなこと一度も………」
「わざわざ言わなくてもわかるだろ」
「っかるわけ、ないでしょ……!」
言わなくても伝わるなんて、そんなの作り物の世界でだけだ。本当は言ってもらえないとわからない。
せっかく泣き止んだと思ったらまた、今度はより勢いを増して泣き出した千夏に晃輝はぎょっとして挙動不審に陥った。普段の俺様っぷりなど見る影もない。
「なっ何でまた泣くんだよ! そんなに俺が嫌なのか!?」
「うっさい! 嫌じゃなかったから泣いてんの! 嫌じゃ、なかったからぁ……っ」
わんわんと火のついたように泣く千夏にどうしていいものか判断がつかず、やけくそのように晃輝は千夏の頭を抱き寄せた。千夏は晃輝にしがみついて泣き続ける。
「なぁ。俺、お前のこと好きなんだけど」
「さっきも、聞いたけどぉ?」
それが何、と聞き返す千夏に晃輝は心底弱った。なるほど、こういう心境なのか。
「返事くれねぇの?」
「言わなくっても……わかるんでしょ?」
自分でそう言ったじゃん。と言われては二の句が継げない。痛いところを突かれて晃輝は必死に言葉を模索した。
会議や交渉ではすらすらと話せるのに、上手い言葉が浮かばない。あー、だの、うー、だのと言葉にならない言葉ばかりが口から出ていく。
それが千夏にはなんだかおかしくて、堪えることもできずに吹き出した。あはは、と腹を抱えてまで笑う千夏に晃輝の顔が赤く染まる。それにまた千夏は大きく笑った。
「てっめ……返事は!?」
キッときつく睨まれて凄まれても、真っ赤な顔では迫力なんてあったものではない。ひぃひぃと目尻に浮かんだ涙を指先で掬って背を伸ばす。
「もう一回」
「は?」
何がだ、と首を傾げる晃輝に、千夏はゆっくり繰り返す。
「もう一回。もう一回言ってくれたら、お返事します」
いいでしょ? と言葉はあくまで疑問形だが、異議は認めないという意思を感じ取った晃輝は顔を引きつらせた。
こいつ、確信犯か……っ!
気づいたところで晃輝に否やを唱えることはできない。だから、覚悟を決めた。やけくそとも言える。
「一回と言わず、これから先、何度でも言ってやるよ。千夏、好きだ。愛してる。だから、俺の傍にいてくれ」
そう言って、晃輝は気障にも跪き、千夏の手を取って見せつけるように口付けを落とした。
求めた以上のものを与えられて、してやられたと千夏が悔しそうな拗ねた目で晃輝を見る。対して晃輝はしたり顔で、早く早くと返事を待っている。
覆されてしまった形勢に千夏は歯噛みするが、しかしそれもすぐに掻き消えて、閃いたと笑顔で打って出た。
「千夏?」
ぎゅうう! と正面から抱きつかれた晃輝が驚いて声を上げる。それにしめしめと腹を癒して、千夏はそのまま晃輝の耳元で囁いた。
「好きよ、大好き。だから、一緒にいさせてね」
幼さを感じさせる言葉は、しかし晃輝の心をこれ以上無く強く揺さぶった。
晃輝の腕が背中に回されて、抱きしめられる。
やっとだ、と晃輝は零した。
「やっと手に入れた……千夏、これから覚悟しとけよ。俺は執念深いし嫉妬もするからな。絶対離してなんかやらねぇぞ」
「えー? それはちょっとなぁ…」
おふざけ半分の言葉でも、その裏の意思は伝わっているのだろう。その証拠に、晃輝は言ってろとただ一言で受け入れてしまった。
「……これから。よろしく頼むぜ、“花嫁”サン?」
「こちらこそ、末長くよろしくね、吸血鬼さん」
あ、でも。
「結婚はまた別の話だから」
「は!? 何でだよ!!」
「だって私まだ二十一だよ、決めるには早過ぎでしょ」
「そ、れは……そうかも知れねぇけどよぉ………」
そうは言っても頷けない。あげて落とされるとは思わなかった。
ぐずる晃輝に、千夏はちょっぴり強気に、目に力を込める。
「遊びじゃないんだから当然でしょ。それとも晃輝さん……自信、無いの?」
「まさか」
挑発した途端勝気になり即答する。スイッチの入ったらしい彼は絶対頷かせるとやる気に満ちている。
「愛してる。俺にはお前だけだ」
忘れるなよと耳元で囁かれて、それから、どちらからともなくキスをする。
甘く温かなそれは幸せを感じさせた。
愛し合う二人のことを見ていたのは、夜空に浮かぶ月と星だけだった。
千夏は立ち尽くしたまま動けないでいた。
「ほん、とに…………?」
目を瞠ったまま呆然と呟いた。涙はもう止まっていて、飲み下せない戸惑いが取り残されている。
「何が?」
「告白って、だって今までそんなこと一度も………」
「わざわざ言わなくてもわかるだろ」
「っかるわけ、ないでしょ……!」
言わなくても伝わるなんて、そんなの作り物の世界でだけだ。本当は言ってもらえないとわからない。
せっかく泣き止んだと思ったらまた、今度はより勢いを増して泣き出した千夏に晃輝はぎょっとして挙動不審に陥った。普段の俺様っぷりなど見る影もない。
「なっ何でまた泣くんだよ! そんなに俺が嫌なのか!?」
「うっさい! 嫌じゃなかったから泣いてんの! 嫌じゃ、なかったからぁ……っ」
わんわんと火のついたように泣く千夏にどうしていいものか判断がつかず、やけくそのように晃輝は千夏の頭を抱き寄せた。千夏は晃輝にしがみついて泣き続ける。
「なぁ。俺、お前のこと好きなんだけど」
「さっきも、聞いたけどぉ?」
それが何、と聞き返す千夏に晃輝は心底弱った。なるほど、こういう心境なのか。
「返事くれねぇの?」
「言わなくっても……わかるんでしょ?」
自分でそう言ったじゃん。と言われては二の句が継げない。痛いところを突かれて晃輝は必死に言葉を模索した。
会議や交渉ではすらすらと話せるのに、上手い言葉が浮かばない。あー、だの、うー、だのと言葉にならない言葉ばかりが口から出ていく。
それが千夏にはなんだかおかしくて、堪えることもできずに吹き出した。あはは、と腹を抱えてまで笑う千夏に晃輝の顔が赤く染まる。それにまた千夏は大きく笑った。
「てっめ……返事は!?」
キッときつく睨まれて凄まれても、真っ赤な顔では迫力なんてあったものではない。ひぃひぃと目尻に浮かんだ涙を指先で掬って背を伸ばす。
「もう一回」
「は?」
何がだ、と首を傾げる晃輝に、千夏はゆっくり繰り返す。
「もう一回。もう一回言ってくれたら、お返事します」
いいでしょ? と言葉はあくまで疑問形だが、異議は認めないという意思を感じ取った晃輝は顔を引きつらせた。
こいつ、確信犯か……っ!
気づいたところで晃輝に否やを唱えることはできない。だから、覚悟を決めた。やけくそとも言える。
「一回と言わず、これから先、何度でも言ってやるよ。千夏、好きだ。愛してる。だから、俺の傍にいてくれ」
そう言って、晃輝は気障にも跪き、千夏の手を取って見せつけるように口付けを落とした。
求めた以上のものを与えられて、してやられたと千夏が悔しそうな拗ねた目で晃輝を見る。対して晃輝はしたり顔で、早く早くと返事を待っている。
覆されてしまった形勢に千夏は歯噛みするが、しかしそれもすぐに掻き消えて、閃いたと笑顔で打って出た。
「千夏?」
ぎゅうう! と正面から抱きつかれた晃輝が驚いて声を上げる。それにしめしめと腹を癒して、千夏はそのまま晃輝の耳元で囁いた。
「好きよ、大好き。だから、一緒にいさせてね」
幼さを感じさせる言葉は、しかし晃輝の心をこれ以上無く強く揺さぶった。
晃輝の腕が背中に回されて、抱きしめられる。
やっとだ、と晃輝は零した。
「やっと手に入れた……千夏、これから覚悟しとけよ。俺は執念深いし嫉妬もするからな。絶対離してなんかやらねぇぞ」
「えー? それはちょっとなぁ…」
おふざけ半分の言葉でも、その裏の意思は伝わっているのだろう。その証拠に、晃輝は言ってろとただ一言で受け入れてしまった。
「……これから。よろしく頼むぜ、“花嫁”サン?」
「こちらこそ、末長くよろしくね、吸血鬼さん」
あ、でも。
「結婚はまた別の話だから」
「は!? 何でだよ!!」
「だって私まだ二十一だよ、決めるには早過ぎでしょ」
「そ、れは……そうかも知れねぇけどよぉ………」
そうは言っても頷けない。あげて落とされるとは思わなかった。
ぐずる晃輝に、千夏はちょっぴり強気に、目に力を込める。
「遊びじゃないんだから当然でしょ。それとも晃輝さん……自信、無いの?」
「まさか」
挑発した途端勝気になり即答する。スイッチの入ったらしい彼は絶対頷かせるとやる気に満ちている。
「愛してる。俺にはお前だけだ」
忘れるなよと耳元で囁かれて、それから、どちらからともなくキスをする。
甘く温かなそれは幸せを感じさせた。
愛し合う二人のことを見ていたのは、夜空に浮かぶ月と星だけだった。
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