俺様吸血鬼の愛し方

藤野

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12.ドライブ

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 幸か不幸か交通の流れは穏やかで、二人を乗せた車はすんなりと道路に入り、他と同じく流れていく。
 車内にはうるさくない程度の音量でジャズが響いていて、ところどころどこか聞き覚えのあるフレーズに差し掛かっては記憶を辿る。
 少しして、流れている曲がクラシックをジャズ風にアレンジしたものだと気付いた。大分印象の変わった曲は、初めて聴く曲のようで新鮮だった。

「気に入ったならやろうか」

 他の曲も聴いてみたいと、ちょうどそう思っていた時に言われて千夏は大仰なほど驚いた。
 晃輝は見るからに嬉しそうな顔で前を見ている。

「え、……いや、それは……」
「遠慮はいらん。自分の好きなものを他の奴にも好きになってほしいと思うのは変なことでもないだろ。まして、それが自分の“花嫁”なら尚更だ」

 さらりと当たり前のように言われて咄嗟の言葉に詰まる。自分も絡めて言われたからか、聞いている方が恥ずかしくなってしまった。
 ぶっきらぼうになってしまったがよろしく頼み、他に何を言えばいいのかわからずまた黙り込む。
 音楽を話題にすれば自然だっただろうし盛り上がれただろうとも思うが、奇妙な恥ずかしさに負けたのだ。
 先程までは軽快だった音楽が、今は気まずく聞こえる。

「ねぇ……どこに向かってるの?」

 自分で招いた沈黙が苦しくなって気になっていた問いを口に出す。
 車は千夏が足を運んだことの無い場所を走行している。大学からあまりにも離れているからなのだが、目新しい風景に興味をそそられた。
 窓の外に目を輝かせる千夏を晃輝は微笑ましそうに見た。

「とりあえずは昼飯だな。まだ食ってないんだ」

 そういって左手を腹部に添えた晃輝に千夏は思わず笑ってしまったが、その反面、社会人は大変なんだなと感心した。

 今はもう昼食には遅い時間だ。晃輝が一般より高い地位にいるからかもしれないが、嫌々後回しにしたという風には感じられない。
 となると、自らそう選択したということになる。世の中に、そこまで心から会社のために尽くせる人は、果たしてどれだけいるのだろうか。

(そういうところは、かっこいかも………)

 何かに一生懸命になれる人は、それだけで素直に好感が持てる。

(今日一日くらい、付き合ってあげてもいいかな)

 どうせもう講義も始まっているし、今から行ったところで手遅れだ。幸いテストもまだ先だから、一日分くらいなら十分取り返しも聞くだろう。
 ここまできたらと観念して、千夏は背もたれに体を預けた。 

 不意に千夏の携帯端末が震えて着信を伝えた。すぐに途切れたことからメールだろうと見当がつく。取り出して見てみれば律からだった。
 メールには千夏を案じる言葉と、教授には体調不良で早退したと伝えた旨が書かれていた。日頃から必死になっていたからか教授もすんなり納得したそうだ。後日特別課題が出され、それを提出すればいくらか点数をくれるらしい。
 律には本当に助けられる。手早くお礼と無事であることを返信して、千夏は端末をしまった。

「いいのか?」
「何が?」

 唐突に聞かれて、しかも主語が無いから意図も察せられず問い返す。晃輝はスマホ、と端的に返した。

「お前、暇だろ。ゲームなり何なり、してていいんだぞ」
「そうでもないよ? 音楽聴いてるだけでも結構紛れるし、外を眺めるのも楽しいし。それに人の運転中に弄るって失礼でしょ」

 依存症でもあるまいし、と見栄を張るでもなくそう言えば、晃輝はそうかとなぜか笑った。
 何かおかしなことでも言っただろうか。
 晃輝に目を遣るが彼は気付いていないのか、あるいはそう見えるように振る舞っているのか目を合わせない。
 気になるというほどでもないから千夏は視線の先を外に戻した。
 移り変わりは速いけれど、これはこれでいいかもしれない。千夏は頬杖をついてそれを眺めていた。
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