暮井慈の事件簿

藤野

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file.2 資産家の死

15.翌朝

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 通報してからどれくらいか、赤いランプとけたたましいサイレンとともに、パトカーが数台上条邸のロータリーに到着した。
 叔父も叔母もすっかり消沈した様子で、厳しい顔をして引き立てる警察官たちに従順についていった。

 屋敷にいた面々は、当事者として事情聴取され、その頃には極一部の例外を除いて心身ともに疲労困憊ここに極まれり、というほどで、特に紡はわずか数時間の間にやつれて見えるほどだった。

 全員が解放され、とにかく休もうと誰が言い出すでもなく決まり、それぞれの部屋に入ったのが日付が変わる間近のこと。

 そして一夜が明けた現在、慈たちはまた食堂に集まり、朝食を食べていた。
 フレッシュジュースとフルーツサラダ、焼きたてのパンに、チーズとハムの盛り合わせ。食後にはさらにコーヒーなり紅茶なりが付くらしい。
 少し懐かしい雰囲気の喫茶店に出てきそうなラインナップを、朝から豪勢なものだと思いながら雄は大口を開けてパンにかぶりついた。

 昨日の疲労はまだ抜けきってはいないが、普通に仕事している日よりはよっぽどマシだ。
 ちろりと横目に家主の様子を盗み見れば、紡はまだ顔色こそかんばしくなかったが、昨夜よりははるかに見れた風になっていた。
 慈だけかと思っていたが、その友人もなかなかに肝が据わっていたらしい。
 一般市民の身空でありながらと雄の胸中に一瞬の憐れみが浮かんだが、しかしすぐに掻き消えた。

 成人したばかりの若い娘でしかない彼女は、これから己の手一組で名家を切り盛りしていかなければならない。
 豪胆であることは、かえって良い事だろう。
 それに、親身になってくれる家人や少し……いや、かなり異常ではあるが味方となれば心強いはずの慈もいる。
きっと、彼女はなんとかやっていけるだろう。

 ーーーーそして、そのために。

 開けずじまいだった宝の箱を、開けに行かなければならない。
 執務室の模型図、慈が見出した宝箱は、パンドラのはこというにふさわしい。二人もの人間の人生を狂わせてしまったのだから。

 見ないという選択肢はもちろんあった。
 紡本人が望むのであればそうしようと、昨夜雄と慈は話し合っていた。

 けれど、紡は選ばなかった。

「……今日、朝ご飯を食べ終わったら。あの『鍵』を、開けてほしいの」

 食堂に来て早々、開口一番に言い出した時の彼女の瞳。
 辛苦を覚悟しながら逃げることを良しとしない心根の映るそれに、慈は誇らしげな笑みを湛えていた。

 あの中に何があるか、そもそも入っているのかすらわからない。
 けれどどうか、彼女を傷つける物でなければいいと、会って間もない雄さえ思っていた。
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