昼這い

蒲公英

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昼這い

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 押入れの襖をそうっと開けると、たかちゃんの匂いがした。寝てるね、ぐっすり。ちょっとイタズラしても、起きないくらい。
 たかちゃんの足元から入り込み、四つん這いに身体の上を通り、顔を見下ろした。暗くてよく見えないけど、顔側の襖を開けると起きてしまうような気がする。顔を思いっきり近付けて、寝息を聞く。よしよし、大丈夫。

 たかちゃんは、兄貴のアパートの居候だ。同棲していた彼女に逃げられて一人暮らしになっていた兄貴は、家賃滞納でアパートから追い出された、たかちゃんを歓迎した。彼女と折半していた家賃を少しでも払って欲しかったんだと思う。あとね、やっぱり寂しかったのかな。家に帰ってくればいいのに、それもなんだかちょっとみたいで、アパート生活を続けてる。
 母が心配して、ときどき私に食品とか生活用品を届けるように言う。同棲していた短い期間はそんなことなかったから、単純に兄貴の家事能力が不安なんだろう。間違ってないけど。

 たかちゃんは、兄貴と逆転の生活をしている。昼間仕事して夜眠る兄貴と、夜仕事に行って昼間は寝ているたかちゃん。同じ場所で生活していてもバッティングしなければ、ほとんどの物は共有できる。ただし、他人と同じ布団は気持ちが悪い。同棲相手がいなくなった後に新たに購入したベッドは、寝室に一台。それまで布団の納まっていた場所にたかちゃんが納まるのは、自然の成り行きだった。

 はじめて兄貴の家でたかちゃんと顔を合わせた日、あまりの可愛さに見惚れた。背が高いくせに細身で色白で、掃除屋さんって言ってたけど、肉体労働する人には見えなかった。童顔で、笑うと片側の八重歯が見える。まるで私より年下みたい。
 家賃が払えなくなった理由がまた、情けなかった。勤め先が給与遅配になっても二ヶ月も待ち続け、まさか倒産するとは思っていなくて、ある日出社したら入り口が封鎖されて、社長が行方不明になっていたそうだ。他の従業員に連絡すると、社長はあらかじめ人材紹介会社に登録してくれていたという。ところが、たかちゃんだけリストから漏れていた。職務経歴の保証が何もないってことで、たかちゃんは系列の派遣会社に回されてしまったらしい。運のない人だ。

 そして面接を受けつつ夜のお仕事っていう、ちょっとハードな生活をしている、らしい。このご時世で希望職種の就職先がそうそうあるわけがなく、たかちゃんは兄貴の部屋の押し入れに住み続けている。
 私には超ラッキーなことで、もう少しこのままでいて欲しい。だってさ、可愛いんだもん。外で就職なんかしたら、すぐに彼女ができちゃう。

 たかちゃんから私になんて、手は出せない。家主の妹に手を出したなんて言ったら、揉めるに決まってるじゃない。でも私のことを嫌ってはいないと思うんだよね。だからってわけでもないけど、私は兄貴のアパートに行くことが多くなった。うん、兄貴がいるかいないかってギリギリの時間を狙って、ミエミエにならないように気をつけてはいたけど、目当てはもちろん決まってるから。

 ただ今日みたいに、たかちゃんが眠っている時間を狙ったのは二回目。ってか、今日のために確認しといたってとこ? 犯罪チックかなあ。
 いや、これは立派な犯罪ですよ。でも暴行と脅迫がセットになってなければ、案件としては成立しないと思う。まして力の差と肉体的な構造において、女から男への強制は難しいと……

 つまり、今日の私はやる気満々です。何のやる気かは聞くだけ野暮ってもんですよ。たかちゃんから私に手を出せないなら、私からたかちゃんに手を出しちゃえばいーのだ。

 それにしても、眠りの深い人だな。私が至近距離にいるっていうのに、目を覚まさない。無防備な寝息だけが聞こえる。
 そう考えながら、まず髪を撫でてみる。うわ、さらさら。女の子みたい。草食系男子見本だよね、パワーなさそう。
 身じろぎもせずに寝ているたかちゃんの唇は、明るい場所で見ると桜色なんだ。フルカラーで鑑賞できないのが残念です。でもどうせだから、触ってみちゃおうっと。

 ふわふわ柔らかくて気持ち良い唇を、人差し指で押してみる。ぜんっぜん起きる気配がないことに安心して、私は少し大胆になる。立てていた腕が疲れたので、肘を折って見下ろせば、たかちゃんの顔は目の前。
 これはもう、遂行しちゃえってことでしょう。女は度胸!

 顔を近づけて、唇で唇を掠った。起きませんね、大丈夫。舌先で唇を舐めてみる。思った通り柔らかいなあと、嬉しく味わっちゃう。眠り姫のお目覚めはまだのようだから、今度は手が大胆に動きたがる。
 本能煩悩野生、どれでもいいです。指の先が我慢できませんので、ちょこっと探索させていただきます。

 シャツの上からなぞる大胸筋は、私が思っていたより硬い。もしかして細マッチョさんですか嬉しいな。確認してもいいですか。そう思うよりも早く、薄手のカットソーの下に手が潜りこんでしまった。色白に相応しい肌理の細かさで、つるつると手触りが良いです。なんて至福なんでしょう。
 大胸筋を楽しんでいたら、ぽちっと出っ張っているものに当たった。これは弄ってみなくてはなりますまい。
 そのとき、たかちゃんが軽く身じろぎをした。まだ、もうちょっと待ってて欲しい……あ、男の人も乳首勃起するのか。舐めちゃっていいかな。

 そーっとシャツをめくり、舌を這わせてみる。うん、楽しくなってきたぞ。ここが勃起してるんなら、下も少しは反応してるんじゃない? 握ってみて大丈夫ですかね、舐めても起きないんだから。
 スウェットの上から、撫でた。覚醒しつつあるよね、これ。大きいような気がするけど、着衣越しじゃわかりません。撫でるだけじゃわからないから、手を椀の形にして包んでみる。ん?覚醒が進んで来てるじゃないの。顔を近付けて凝視する。暗いって不便だね。普段いかに目に頼って生活してるか、自覚しちゃう。おお、また育った!

 嬉しくなっちゃってスウェットの中に手を入れようとしたとき、ストップがかかった。いっくら眠りの深い人でも、起きるよねえ。さすがに生命に関わるような場所オンパレードだし。
 掠れた声の誰何には、ちゃんと答えた。私だって理解してもらわないと、意味がない。ってか鍵はかかっていたんだから、鍵の場所を知っている人以外の誰かじゃ困るでしょ。
 私の名前を復唱した声が笑いに変わって、寝たふりされていたことに気がついた。いつから? 上半身を起こしたたかちゃんに、逆にくるんと押し倒されたのは、すぐだった。

 悪戯を責める口調で塞がれる唇。キス、上手。別の生き物みたいにするんって入ってきた舌が、私の口の中を探ってる。あったかくて気持ちいい、もう声が出そう。ぬるぬると動く舌が私の上顎を舐めて歯列を確認してる。口の中のあっちこっちを味わうみたいに、ゆっくり。
 一度息継ぎに離された唇に、今度は私から舌を忍び込ませる。たかちゃんの味を、私も楽しみたい。

 好きだよなんて言葉が欲しいわけじゃない。たかちゃんの可愛い顔を、どうにか私に向けたくて。その細い身体の中に、何が入っているのか知りたくて。そう思っているうちに、私はたかちゃんに欲情した。でも本人に、あなたとセックスしたいなんて言えるはずもなく、寝こみを襲うことにしたのだ。

 たかちゃんの細い指が、いつの間にか私のカットソーの中に侵入してる。遠慮がちに探っていた手は胸のふくらみに辿り着くと急に大胆になり、ブラの上から緩く揉まれた。
 先に進むか否かの問いに、ためらわずに答える。捲り上げられたシャツは首の下、たかちゃんの頭が胸に沈む。指、細いのに長いんだな。だって私の胸がすっぽり。

 右の胸の先端は、舌と歯でで嬲られている。舐め上げては吸い、搦めては噛んで、充血して膨れているのを喜んでるみたい。左の胸に添えられた手は、指の股にそこを挟んで、小刻みに揺する。
 自分の口を塞ぎ、声を噛み殺した。見た目は草食系でパワーのなさそうなたかちゃん、慣れてて上手。胸だけで私、もう準備完了だよ。もう先に進んで。

 ミニスカートは正解だったんだ。たかちゃんの足が割り込んできても、何の抵抗もない。ショーツの上から膝で刺激されて、思わず押しつける。膝じゃなくて指がいいです、指。
 暗い押入れの中ではたかちゃんの表情が見えなくて、次の行為の予測がつき難い。身体の上を這い戻ってきたたかちゃんが、小さく私に許可を求めた。

 浮かせた腰からショーツが抜き取られ、肩が入ったなと思ったら、予告なく生暖かい感触が核を包んだ。声、出ちゃう。もう抑えきれない。
 膝が押入れの奥に当たり、自分が大きく足を開いていることを知る。押入れって奥行90センチだよね? そんなに柔らかいのか、私の股関節。
 猫が牛乳を飲んでいるみたいな音が、自分の下腹から聞こえる。その音と共にもたらされる快感に腰を捩ろうとすると、太腿に食い込んだ指が押し留めた。
 唇が離れたと同時に、今度は指に責め立てられた。膝の上に私の腰を乗せて、指の数は一本から二本に増やされ、核に当てられた親指と一緒に私を追い詰めに来る。

 私の口から洩れるのは、喘ぎじゃなくて悲鳴だ。早くたかちゃんをちょうだい。指じゃなくて、もっと大きな質感で私を圧迫して欲しい。
 たかちゃんが低い声で私に到達を命じ、貪欲な私のそこは、ひくひくと波打った。たかちゃんが洩らしたのは、勝利の溜息だと思う。

 そのまま服を脱ぎもしないたかちゃんは、それで終わりにしようとした。やだ、これで終わりだなんて不完全燃焼もいいとこじゃない。表情の見えない暗闇の中、半泣きになりながら抗議する。たかちゃんの腰に取り付けば、そこには彼が満足してない証拠のように、隆々と漲る質感がある。
 理由は至って簡単で、彼は男のタシナミを持ち合わせていないと言う。大丈夫、私が持ってます。

 口でつけるほどのテクニックはない。そっと指を滑らせると、もう先走ったそこがぴくんと動いた。私の中に入ろうと期待しているたかちゃん自身と、たかちゃんが入ってくるのを待ってる私自身。暗い中で私が装着してあげるのは難しくて、たかちゃん本人にお任せすることになる。

 横たわったたかちゃんの腰を跨いで、手を添えながら自分を誘導した。すっかり解けているそこは、何の苦労もなくたかちゃんを飲み込む。奥までぐんっとたかちゃんが当たって、蕩けそう。頭のてっぺんぎりぎりに天井があって、私の動きを妨げる。だから身体を前に傾げると、胸をたかちゃんに提供したみたいになった。
 ゆっくりと核が擦れるように動く。たかちゃんは頭を持ち上げて、果実の味比べをするみたいに胸を味わってる。手を後ろに持ってって、もう張ってるたかちゃんの根元を揺すると、荒い息の中で声が漏れた。
 たかちゃんの感じてる声、なんて可愛いの。もっと聞かせて。勝手に動く腰をそのままに、たかちゃんの唇を求める。合わせた唇から洩れるのは、お互いの喘ぎ。

 肩を突かれて、たかちゃんと私の態勢が入れ替わった。足を持ち上げて激しく突かれて、目が眩みそう。身体中がたかちゃんを欲しがって、痙攣をはじめてるのがわかる。たかちゃんの息遣いも、もう余裕がない。もう、このまま走り続けて。

 目を閉じて余韻に浸っていると、隣のたかちゃんがガバッと起き上がって、やおら天井に頭をぶつけた。頭を押さえる気配がして、次は襖を蹴った鈍い音。そして何故か私の顔を撫ではじめた。
 暗闇に目が慣れたとは言え、細かな表情までは見えない。ただ細いとだけ思っていた身体は固くて、寄り添った形は思った通りやさしくて。

 え、そんなの初耳です。前回から気がついていたなんて。そして今日も私が襖を開けたときから知ってたなんて、ひどいじゃないの。全部私任せにして、責任回避する算段したのね。
 でもね、今のキスはたかちゃんから。何度もキスして、たかちゃんはまた元気になる。もう一回したいけど、そろそろ仕事の準備をしなくちゃいけない時間らしい。

 ちゃんとした仕事が決まって、兄貴の部屋の居候から抜け出したら、改めて私に声をかけるつもりだったらしい。だけどその前に、発情した私がたかちゃんを押し倒しちゃって。
 こうなれば、たかちゃんのスペースに私が侵入する権利を得たようなもの。薄暗い押入の上段で、私とたかちゃんはぎゅっと抱き合った。

 次はいつ、ここに来るかなんて言わない。予告なしに押入の上段に這いこむから、眠りながら待っていて。
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