流星

蒲公英

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流星

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 僕は今度こそ細心の注意を払い、知った顔に合わないように待ち合わせた場所へ出かけた。三月の六時半はもう暗くなっており、晴れた星空に刷毛を一筋いれたような雲が浮かんでいた。田中はまだ到着しておらず、堤防に腰掛けた僕はひとりで川を眺める。
 少しだけ早く打つ脈を持て余し、いっそのこと田中が来なければ良いのにと思った頃、足音を忍ばせるように歩いてきた彼女が、間をあけた隣に腰を掛けた。
「家がならんでる所よりは、星がきれいに見えるね。」
 どう返事したら良いのか困り、ぼくは無言で双眼鏡を差し出した。
 田中は口数が多いとはとても言えないし、僕は言葉に詰まって会話ができずに、ただ、並んでしばらく空を見上げていた。
「流れ星の見つけ方、知ってる?」
 知らない、と言うと、田中は僕と空を等分に見ながら言った。
「空をね、いくつかに分けて、決めたところだけを見続けるの。そうすれば、ひとつくらいは流れるから。」 
 
「高校生になったら、天文部に入るの。」
 田中は空に目を向けたまま言った。
 K高校に天文部はあるのか、と聞くとこくりと頷いた。
「屋上に小さい天文台があってね、そこにお父さんの名前がある。高校生の頃、部長だったんだって。」
 田中が追いかけていたものは、それだったのか。父も母も健在である僕にはわからない感情。
「私は、高校生のお父さんと同じ場所で星を見るの。」
 だから今、そのためにできることをする、と力強い口調で続けた。教室で、K高校への進路希望を教師に決然と提出した時と同じように。
「次の流星群の時は、一緒に観測に連れてってもらう約束してたの。」
 約束を破られて、もう新しい約束なんかできなくて、と続ける彼女の声は潤んでいた。
 泣いてもいいと言ってやれる大人ならば、どんなにか良かっただろう。黙って一緒に空を見上げることしかできない僕は、やはり子供でしかないのだ。

 瞬間、東の空に小さな光が尾をひいて流れた。生まれて初めて見たそれに目を奪われ、僕は小さく息をのんだ。
「見た?」
「うん、見た。」
 3度の願い事どころか、願い事を思い出す暇もないほどの一瞬に、ただ光って消える。そのあまりの儚さを、もう一度確認するかのように空を見続ける田中は、本当に綺麗だった。

 黙ったままの時間は思ったよりも早く過ぎ、どちらからともなく立ち上がって帰途に着いた。母に言われたとおり、人通りの多い道まで田中を送る。
「今日は、ありがとう。暖かくなったら、今度はみんなで行こうね。」
 みんなで、という言葉に少し落胆しながら、次の約束ができたようで嬉しかった。少し、星座のことや星のことも覚えようと思ったことも、覚えている。
 一緒に星を見上げる機会は、もう訪れることは無かった。
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