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めぐる季節
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夕暮れの雑踏で懐かしい顔を見つけて、健司の足が止まった。俯き加減に歩いてきた女は、立ち止まった男に気がつき、ふと顔を上げた。
「野川さん、だよね。久しぶり」
声をかけると、探るような目つきの女の顔に、驚きの笑顔が浮かんだ。
「山上さん――健ちゃん?本当?」
「うん、俺。美弥ちゃん、変わってないな」
名前を口に出すと、記憶が波のように押し寄せてきた。学生と社会人の狭間にいた頃の、青臭く懐かしい日々の傍らに常に在ったものが、目の前にある。この笑顔が見たくて、道化た騒ぎの中に飛び込んで行ったのは、どれくらい前だろう。失くした日々を鮮やかに思い描くのは、苦い感情が懐かしい思い出に昇華しているからだ。何を言おうかと迷う時に、人差し指で唇を押さえる仕草に見覚えがある。
「本当に変わらないな、美弥ちゃん」
「健ちゃんは、少し太った?」
「もう、いい中年だからね。仕方ないさ」
長めの立ち話に別れ難くなったのは、お互いの空白時間が気になったからかも知れない。
「お茶を飲む時間はある?」
そう尋ねた健司に、美弥子は首を横に振った。
「残念だわ、まだ仕事を残してるの。でも、良かったら連絡先を教えて」
綺麗に手入れされた手が、携帯電話を操作した。左手に指輪は見えないけれども、働く女の中には既婚であることを隠している人間も多い。
「健ちゃんの奥さん、携帯電話の女名前をチェックしたりしない?」
「そんなことするほど、若くないよ」
これは、嘘だ。嘘でなければ、一種のごまかし。離れている間に美弥子が、どれほど変わったのか知らないのに、迂闊に自分の情報だけを出したりはできない。
登録したばかりのメールアドレスからの着信に、心が躍った。一息に若返るほどのときめきではなくて、たとえていうならば、通信販売で購入した品物を入れた箱が届いた時にの感覚に似ている。確かに自分宛のものか確認して、届いた品物が期待通りのものか、わくわくしながら箱を開けるのだ。
平日の夜という希望で、少なくとも小さな子供と一緒に生活しているのではないと理解できる。子育て中の女は、夜に出歩けない。ただ、あの後すぐに子供を産んだのだとしたら、もう高校を卒業する程度にはなっているのか。時が経つのは、本当に早い。不器用な指先で返信しながら、携帯電話なんて持っていなかった頃のことを思い出した。何時に電話すると約束して、固定電話の前で待っている美弥子を思い浮かべていた頃が、確かにあった。
待ち合わせたのは、六本木に古くからある洋書店だ。学生時代の待ち合わせ場所だったそこに入ったのは、何年ぶりだろう。もしかしたら二十年ぶりかも知れないと、健司は思う。美弥子と待ち合わせた以外に、そこに入った記憶はない。書棚を眺め、気になった写真集をぱらぱらめくる。かつての自分は、和むような穏やかな写真よりも、時代の先端を切り取ったような写真が好きだった。守りに入るような年回りになったのだと、つい自嘲したくなる。中年という言葉に抵抗しなくなったのは、いつ頃だったろう。
「健ちゃん、待った?」
記憶の声と現実の声が交差して振り向くと、耳に真珠をつけた美弥子が立っていた。淡い色のニットが優しい胸を包み、自分の前に息づいている。
「美弥……年齢をどこかに置いてきたみたいだな」
「お上手言っても、何も出ないわ。もうすっかり中年なんだから」
目尻にあるかなきかの皺は、確かに過ぎた年月を思う。自分の白髪の混ざりつつある髪は、美弥子にどう映っているだろうか。
学生時代に騒いだ店は、もう建物の跡形もなかった。見覚えのある店、知らない場所になった道を確認しながら、落ち着ける場所を探す。
「飲めるところがいい?食事だけ?」
「そうね。居酒屋より、ワインの飲めるところがいいかな。食事のコースじゃなくて、アンティパストだけ頼めるイタリアンがあるといいな」
「相変わらず、面倒臭いことを言うなあ。旦那さんは大変だ」
健司の言葉に、美弥子は曖昧に笑った。
「健ちゃんの奥さんは、面倒じゃないの?」
「面倒じゃない女になんて、今まで出会ったことはないな」
今度は笑い声が重なり、距離感が戻って来る気がした。
小さなレストランに入り、発泡するワインで乾杯した。再会に乾杯なんて陳腐な言葉で、会わなかった日々を探り始める。あの頃の仕事、今の仕事。住んでいる地域や、続けている趣味の話。共通の友人だった人間の近況も、話すことは尽きない。
「田辺君と会ったよ。去年の今頃かなあ、子供連れて。まだ三つだってねえ」
「ああ、あいつは結婚遅かったから。そういえば、坂口は離婚したんだよな」
「柊子?今ね、シングルマザー。頑張ってるよ」
自分たちの家庭の話は出ないのに、友人の家庭の話はポンポン出てくる不思議。健司はこっそりと、グラスに添える美弥子の指を見る。今日も、指輪はない。
――健ちゃんの知らない人。
あの時に聞いた言葉が、耳に蘇る。毎日一緒にいた学生時代が過ぎて、好景気の中で睡眠時間を削っていた頃、やっと合った時間に行くつもりだった映画を、美弥子はもう観てしまったと言った。誰と行ったのかと質問した時の、返事の言葉がおかしなニュアンスだった。
――男?女?
そう訊いて良かったのかどうかは、知らない。浮気を疑ったわけじゃない、ただの質問だ。
――どっちでもいいじゃない。健ちゃんの知り合いじゃないんだから。
答えないことへの不信感と得体の知れない不安を抱えたまま、また日常に埋没していく。帰宅すると光っている留守番電話のランプに、コールバックする気力がない。そして健司からかける電話に答えるのは、美弥子の留守番電話のメッセージだ。会いたいと思いながら、優先するのは自分の睡眠と、片付けても片付けても湧いてくる、目先の仕事になる。
――ごめんね、せっかく休みを空けてくれたのに。都合が悪いの。
一ヶ月の空白で、無理矢理空けた休みだった。
――仕事か?待つよ。
――ううん、仕事じゃないの。ちょっと。
――仕事じゃないんなら、なんだよ。
――先約があるの。急に明日休みだって言われても、先の約束は断れないでしょ。
――俺よりも大事な約束かよ。
――そんなこと、言ってない。順番ってものが……
答えを聞かずに、電話をがちゃんと切った。そして咄嗟に、男だと思った。健司と会わない間に、美弥子は他に男を作ったのだと。
荒れた気持ちのまま仕事をして、留守番電話のランプは無視した。自分との休日よりも楽しいことを見つけた美弥子が、許せなかった。ある晩、夜半過ぎにかかってきた電話をひどく冷たくあしらった。多分、あれが決定打だったのだ。
――健ちゃん、この頃電話くれないね。
――俺は、忙しいの。誰かさんみたいに、何人もデートの相手作るほど、ヒマじゃないの。
――何を言ってるの?私、そんなことしてないよ?
――俺より優先したい約束があるんだろ?いいよ、そいつと遊んでなよ。
――この前のこと?あれは……
言い訳は聞きたくないとばかりに電話を切って、電話線を抜いた。疲れているのに、余計なことを考えたくなかっただけだ。学生時代もお互いに、そんな喧嘩をしたことはあった。誤解だったり、いつの間にか関係が戻ったり、そんなことを繰り返していたのだ。
学生時代とは、違った。登校すればなし崩しに顔を合わせ、仲間たちと笑いあっているうちに原因が有耶無耶になる距離なんて、終わっていたのだ。それに気がつかないまま過ぎた数週間後に、美弥子が他の男と歩いていたという噂を聞いた。やはりそうだったのかという思いと、まさか美弥子がという感情が混ざって訪れた美弥子のアパートは、引き払われていた。何日もチェックしていなかった自分の郵便受けの中に、美弥子からの葉書を見つけたのは、その夜のことだ。
引っ越しました、新しい住所はこちら、と素っ気無い印刷だけの葉書に、肩を落とした。何も知らされずに終わってしまったのだと、気がついたときには遅かった。何度も残っていた留守番電話は、別れの言葉だったのだろうか。そんなものは聞きたくない、聞かなくて良かったのだ。
「無茶苦茶忙しかったな、あの頃」
「そうね。今ならもうちょっと、上手く立ち回れるかな。恋愛にも、不器用すぎたね」
微笑んだ美也子は、もう一度小さく乾杯の仕草をした。
「ちょっと不安がって欲しかっただけで、わざと誤解させてみたりして、それっきりになったりね」
「誤解?引っ越した時?」
「電話番号、変えないで待ってたのに。まさかあれっきりになるなんてね」
あの時まだ終わっていなかったのかと、健司は美弥子の顔を見返した。
「古いけど広めのアパート借りて、驚かせようと思ってた。健ちゃんがロフトつきの部屋は泊まりにくいって言ったから。電話に、出てくれなかったね」
「新しい男ができて、別れの電話だと思ってた」
「そう思わせれば、少しは私を気にしてくれるかと思ってた。子供だったね」
子供だったのは、健司も同じだ。美弥子が寂しがっているのは、わかっていたのに。
場所を移そうかと、小さなバーに入った。カウンターに並んで座ると、美弥子のやわらかい気配に昔が戻る。
「遅くなって、家は大丈夫?」
「他に誰か、いるわけじゃないもの。いろいろあってね、結婚するタイミングを逃したの」
薄い水割を舐めながら、美弥子が言う。
「健ちゃん、子供は?」
美弥子が手の内を明かしたのだから、隠しておくのは反則だ。
「ひとり。何年も会ってない、金を送るだけの父親だけどな。向こうが再婚して、子供が混乱するから会わないで欲しいって言われたら、親権持ってないこっちは、言いなり」
ふうっと溜息が漏れた。長い間に、本当にいろいろなことがあったのだ。
「お互いに独身なんだな。気兼ねするものがないのは、良いことなんだか悪いことなんだか」
「良いことってことにしておきましょうよ。少なくとも、会うことが後ろめたくはないわ」
少々酔った頭で次の約束をして、ふたりは別々の場所に帰った。
待ち合わせて会うことも三度目を数えた頃、健司は美弥子を少し遠出に誘った。夜の短い時間に思い出話をするよりも、もっと時間を共有してみたくなった。泊り掛けでという言葉を、美弥子は微笑みで承諾した。美弥子もまた、健司と同じ気持ちだったのだと、嬉しい。
最寄り駅まで車で拾いに行くと、小さなバッグを抱えた美弥子が乗り込んだ。後ろの座席に置いたガーメントバッグは新品じゃない。それなりに使い込んだ跡の見えるもので、つまりそれが美弥子の社会生活の長さなのだ。学生時代みたいにバックパックひとつで旅行するわけじゃない。
鎌倉の古い街並みを、一緒に歩いた。若い頃よりも格段に増えた知識は、そぞろ歩きの中の会話を豊かにする。長い距離を歩き回って疲れるよりも、ひとつの場所をじっくり見て佇まいを楽しむほうが、今の自分たちに合っている。年齢を重ねるごとに、楽しみも感情も深くじっくりと変化していくのなら、悪くないものだと健司は思う。傍らの美弥子が、木の上に走る栗鼠を見つけて歓声を上げた。少女めいた仕草が愛しいものに思えて、健司は確信を深める。
感謝しよう、と思う。再びめぐり会えた今、お互いに独身であることに感謝したい。
横浜に泊まろうと車を向け、みなとみらいの観覧車を横目で見た。
「あ、あのホテル」
「そう。覚えてる?」
三日月形のホテルの上階は、若者には高価で敷居も高くて、その分だけ憧れだった。もう少し良いスーツが着られるようになったら、必ず行こうと約束していた。頑張ってお金を貯めて来ましたなんて感じじゃなくて、サービスを受け慣れているように振舞うことができるようになったら、と。
「あのホテルを見るたびに、美弥のことを思い出してなあ。だから、泊まるのははじめてだ」
「私は使ったことがあるわ……ずいぶん前」
誰とどんな風に使ったのかは、問わないで置く。果たせなかった約束を、今果たしに行くのだ。もうクラスに怯むような若造じゃない。ビアガーデン付きのプランを選んでいるのは、気兼ねなくゆっくり酒を楽しみたいからだ。一緒にゆっくりと、夜の時間を楽しみたい。黄昏ははじまったばかりだ。
食事の前にシャワーを使いたいと、バスルームに消えた美弥を待つ間、どうも落ち着かない。女の身体にがつがつするほど、もう好奇心が揺り動かされるわけじゃない。ひとりがけのソファに座って、港を見下ろした。手持ち無沙汰だったが、煙草は以前に止めている――子供が生まれた時に。二十年の間に、本当にいろいろなことがあった。健司と同じように、美弥子もまた同じだけの時間を、どこかで過ごしているのである。
「お待たせ」
バスルームのドアが開き、着替えた美弥子が現れた。夜の食事に相応しい服装に改めることも、若い頃には気がつかなかったかも知れない。健司もシャツだけ変えて、ネクタイを締めた。これでドレスコードに問われることはない。
ほろ酔いで戻った部屋で、美弥子はもう一度バスルームに向かった。持ち込んだ文庫本を片手にミニバーからワインの小さなボトルを取り出した健司は、本に目を落とすこともなく窓の外を眺めた。夢を見ているような気がする。それとも、今までの生活が長い夢だったのだろうか。健司と美弥子の間に空白は存在しなかったような、そんな気さえする。愛や運命なんて気障な言葉以外に、何か表現はないだろうか。
バスローブ姿で戻った美弥子と交代して、濡れたバスルームに足を踏み入れ、今晩これからのことを思う。大人同士のことだから、何かが変わったとしても、どちらかの責任じゃない。頭の天辺から湯を滴らせ、情けなく筋肉の緩んだ身体を見下ろした。増えた体重の分だけ、人生の重みは身についているのだろうか。もう駆け引きの必要な恋愛はしたくないし、ひどく消耗する家庭生活も御免だ。だからこそ、今美弥子に再び会えたことの意味を考えたい――
バスルームを出ると、部屋の中はフットライトだけになっていた。薄暗がりの窓際で、美弥子は窓外の港を眺めていた。
「どうしたんだ、こんなに暗くして」
振り向いた美弥子が、薄く微笑む。
「明るくなんて、できないわよ。もうね、二十年前の身体じゃないもの。胸にハリはないし、余計な肉は蓄えてるし」
健司から見た美弥子は、まったく変わっていないように見えるのに。美弥子もまたバスルームで、自分の変化を考えていたのだろうか。
背中から美弥子を抱きしめた。昔の自分ではなく、今の自分が美弥子を欲しい。今の健司が欲しいのだと、美弥子にも言わせたい。身体を振り向かせて抱きしめなおし、どちらからともなく唇を合わせた。抱き寄せた感触が記憶にある。角度を変えて合わせていく唇の中の奥で、舌が相手を探り始める。女の吐息が甘いことを思い出し、健司の中で何かがかちゃりと外れた。
バスローブを外しあいながら、ベッドにもつれ込む。
「あんまり見ないで。恥ずかしいわ」
「綺麗だよ。あの頃より、ずっと綺麗だ」
若い身体は確かに造形的に美しいのかも知れない。しかし、指が沈み込んでいくようにやわらかな下腹や丸みを帯びた肩は、しっとりと男を受け止める柔軟さを持っている。薄暗がりに白く映えたその身体は、情欲をそそる。強く抱きしめると、二十年ぶりの溜息が聞こえた。
「新しくはじめるんだよ、これから」
そう、昔の続きじゃない。いくつもの季節が終わって再びめぐりあい、またふたりの季節をはじめるのだ。
「嬉しい。健ちゃんのことが、また好きになれて」
返事の変わりに、胸の上に印をつけた。これをはじまりの合図にするように。
掴んだ指が溶けてしまいそうな柔らかい乳房の先端は、娘のように淡い色だ。愛らしくそそり立つそこを、ぱくりと口に含んで舌で転がす。
「ん……健ちゃん……」
「旨いよ、ここ……なんだか、いい匂いがする」
健司の下腹に伸びてきた指が、健司自身の先端を撫でて刺激する。美弥子の白い肌が、僅かな灯りの中で揺れた。身体の隅々まで舌を這わせたい衝動に耐え、脇腹に唇を寄せた。美弥子がもじもじと揺する腰で、彼女の要求が理解できてしまう。指をそっと派遣すると、待っていたかのような高い溜息が聞こえた。
待ち望んでいるらしい尖りに指をあわせ、軽く揺すってやる。
「あ……そこ、だめ……」
「指よりも、こっちのほうがいいだろう」
舌の先端で掃くと、悲鳴めいた声が聞こえた。
「やぁ……っん……んっ……健ちゃ……」
高くなる声に興奮して、美弥子の中を指で探った。子供を産んでいない女の中は、娘のように狭く頑なだ。
「やっ……そんなこと、しな……い、で……」
押し退けようとする手を払い、健司はその行為に没頭する。降ってくる声は哀願のようでもあり、音楽のようでもある。ぎくんと身体を硬直させた美弥子が、達したことを知った。
身体を重ねて、ひとつになる。
「あ……」
健司は驚いたように声を出した。これを探していたのだという感覚が、身体の中にある。まさか、覚えていたとは。忘れていなかったとは。そしてまた、美弥子も満足気な呼吸をした。
「ああ、覚えていたんだわ。こんな……」
同じ感覚を共有しているのだと、健司の背に強い歓びが走った。抱きしめて唇を吸うと、美弥子の舌が健司の舌を迎える。腕の中のすべてが愛しく、懐かしい。
あの時はおたがい、はじめて同士だった。がむしゃらに身体を合わせた日々、ふたりで作り上げた行為がまだ、身体の中に生きていた。どんな相手にも感じなかった感覚が、ここにある。まるで失くしたと思っていた大切なものを、押入れの隅から見つけたような。それは感情なのか身体の繋がりなのか、それとも両方だろうか。古いものを捨てなくても、新しいものは得ることができる。上に積み重ねていく日々は、どこからでもスタートさせることができるのだ。
腋の下に美弥子の頭を抱え込み、再び見つけた愛しいものを見失わないように、健司は目を閉じて、寄り添った身体の柔らかさを全身に記憶させる。もう、別々に過ごす季節は見送らない。これからめぐる季節を、美弥子と共に追うのだと、深く決意しながら。
fin.
「野川さん、だよね。久しぶり」
声をかけると、探るような目つきの女の顔に、驚きの笑顔が浮かんだ。
「山上さん――健ちゃん?本当?」
「うん、俺。美弥ちゃん、変わってないな」
名前を口に出すと、記憶が波のように押し寄せてきた。学生と社会人の狭間にいた頃の、青臭く懐かしい日々の傍らに常に在ったものが、目の前にある。この笑顔が見たくて、道化た騒ぎの中に飛び込んで行ったのは、どれくらい前だろう。失くした日々を鮮やかに思い描くのは、苦い感情が懐かしい思い出に昇華しているからだ。何を言おうかと迷う時に、人差し指で唇を押さえる仕草に見覚えがある。
「本当に変わらないな、美弥ちゃん」
「健ちゃんは、少し太った?」
「もう、いい中年だからね。仕方ないさ」
長めの立ち話に別れ難くなったのは、お互いの空白時間が気になったからかも知れない。
「お茶を飲む時間はある?」
そう尋ねた健司に、美弥子は首を横に振った。
「残念だわ、まだ仕事を残してるの。でも、良かったら連絡先を教えて」
綺麗に手入れされた手が、携帯電話を操作した。左手に指輪は見えないけれども、働く女の中には既婚であることを隠している人間も多い。
「健ちゃんの奥さん、携帯電話の女名前をチェックしたりしない?」
「そんなことするほど、若くないよ」
これは、嘘だ。嘘でなければ、一種のごまかし。離れている間に美弥子が、どれほど変わったのか知らないのに、迂闊に自分の情報だけを出したりはできない。
登録したばかりのメールアドレスからの着信に、心が躍った。一息に若返るほどのときめきではなくて、たとえていうならば、通信販売で購入した品物を入れた箱が届いた時にの感覚に似ている。確かに自分宛のものか確認して、届いた品物が期待通りのものか、わくわくしながら箱を開けるのだ。
平日の夜という希望で、少なくとも小さな子供と一緒に生活しているのではないと理解できる。子育て中の女は、夜に出歩けない。ただ、あの後すぐに子供を産んだのだとしたら、もう高校を卒業する程度にはなっているのか。時が経つのは、本当に早い。不器用な指先で返信しながら、携帯電話なんて持っていなかった頃のことを思い出した。何時に電話すると約束して、固定電話の前で待っている美弥子を思い浮かべていた頃が、確かにあった。
待ち合わせたのは、六本木に古くからある洋書店だ。学生時代の待ち合わせ場所だったそこに入ったのは、何年ぶりだろう。もしかしたら二十年ぶりかも知れないと、健司は思う。美弥子と待ち合わせた以外に、そこに入った記憶はない。書棚を眺め、気になった写真集をぱらぱらめくる。かつての自分は、和むような穏やかな写真よりも、時代の先端を切り取ったような写真が好きだった。守りに入るような年回りになったのだと、つい自嘲したくなる。中年という言葉に抵抗しなくなったのは、いつ頃だったろう。
「健ちゃん、待った?」
記憶の声と現実の声が交差して振り向くと、耳に真珠をつけた美弥子が立っていた。淡い色のニットが優しい胸を包み、自分の前に息づいている。
「美弥……年齢をどこかに置いてきたみたいだな」
「お上手言っても、何も出ないわ。もうすっかり中年なんだから」
目尻にあるかなきかの皺は、確かに過ぎた年月を思う。自分の白髪の混ざりつつある髪は、美弥子にどう映っているだろうか。
学生時代に騒いだ店は、もう建物の跡形もなかった。見覚えのある店、知らない場所になった道を確認しながら、落ち着ける場所を探す。
「飲めるところがいい?食事だけ?」
「そうね。居酒屋より、ワインの飲めるところがいいかな。食事のコースじゃなくて、アンティパストだけ頼めるイタリアンがあるといいな」
「相変わらず、面倒臭いことを言うなあ。旦那さんは大変だ」
健司の言葉に、美弥子は曖昧に笑った。
「健ちゃんの奥さんは、面倒じゃないの?」
「面倒じゃない女になんて、今まで出会ったことはないな」
今度は笑い声が重なり、距離感が戻って来る気がした。
小さなレストランに入り、発泡するワインで乾杯した。再会に乾杯なんて陳腐な言葉で、会わなかった日々を探り始める。あの頃の仕事、今の仕事。住んでいる地域や、続けている趣味の話。共通の友人だった人間の近況も、話すことは尽きない。
「田辺君と会ったよ。去年の今頃かなあ、子供連れて。まだ三つだってねえ」
「ああ、あいつは結婚遅かったから。そういえば、坂口は離婚したんだよな」
「柊子?今ね、シングルマザー。頑張ってるよ」
自分たちの家庭の話は出ないのに、友人の家庭の話はポンポン出てくる不思議。健司はこっそりと、グラスに添える美弥子の指を見る。今日も、指輪はない。
――健ちゃんの知らない人。
あの時に聞いた言葉が、耳に蘇る。毎日一緒にいた学生時代が過ぎて、好景気の中で睡眠時間を削っていた頃、やっと合った時間に行くつもりだった映画を、美弥子はもう観てしまったと言った。誰と行ったのかと質問した時の、返事の言葉がおかしなニュアンスだった。
――男?女?
そう訊いて良かったのかどうかは、知らない。浮気を疑ったわけじゃない、ただの質問だ。
――どっちでもいいじゃない。健ちゃんの知り合いじゃないんだから。
答えないことへの不信感と得体の知れない不安を抱えたまま、また日常に埋没していく。帰宅すると光っている留守番電話のランプに、コールバックする気力がない。そして健司からかける電話に答えるのは、美弥子の留守番電話のメッセージだ。会いたいと思いながら、優先するのは自分の睡眠と、片付けても片付けても湧いてくる、目先の仕事になる。
――ごめんね、せっかく休みを空けてくれたのに。都合が悪いの。
一ヶ月の空白で、無理矢理空けた休みだった。
――仕事か?待つよ。
――ううん、仕事じゃないの。ちょっと。
――仕事じゃないんなら、なんだよ。
――先約があるの。急に明日休みだって言われても、先の約束は断れないでしょ。
――俺よりも大事な約束かよ。
――そんなこと、言ってない。順番ってものが……
答えを聞かずに、電話をがちゃんと切った。そして咄嗟に、男だと思った。健司と会わない間に、美弥子は他に男を作ったのだと。
荒れた気持ちのまま仕事をして、留守番電話のランプは無視した。自分との休日よりも楽しいことを見つけた美弥子が、許せなかった。ある晩、夜半過ぎにかかってきた電話をひどく冷たくあしらった。多分、あれが決定打だったのだ。
――健ちゃん、この頃電話くれないね。
――俺は、忙しいの。誰かさんみたいに、何人もデートの相手作るほど、ヒマじゃないの。
――何を言ってるの?私、そんなことしてないよ?
――俺より優先したい約束があるんだろ?いいよ、そいつと遊んでなよ。
――この前のこと?あれは……
言い訳は聞きたくないとばかりに電話を切って、電話線を抜いた。疲れているのに、余計なことを考えたくなかっただけだ。学生時代もお互いに、そんな喧嘩をしたことはあった。誤解だったり、いつの間にか関係が戻ったり、そんなことを繰り返していたのだ。
学生時代とは、違った。登校すればなし崩しに顔を合わせ、仲間たちと笑いあっているうちに原因が有耶無耶になる距離なんて、終わっていたのだ。それに気がつかないまま過ぎた数週間後に、美弥子が他の男と歩いていたという噂を聞いた。やはりそうだったのかという思いと、まさか美弥子がという感情が混ざって訪れた美弥子のアパートは、引き払われていた。何日もチェックしていなかった自分の郵便受けの中に、美弥子からの葉書を見つけたのは、その夜のことだ。
引っ越しました、新しい住所はこちら、と素っ気無い印刷だけの葉書に、肩を落とした。何も知らされずに終わってしまったのだと、気がついたときには遅かった。何度も残っていた留守番電話は、別れの言葉だったのだろうか。そんなものは聞きたくない、聞かなくて良かったのだ。
「無茶苦茶忙しかったな、あの頃」
「そうね。今ならもうちょっと、上手く立ち回れるかな。恋愛にも、不器用すぎたね」
微笑んだ美也子は、もう一度小さく乾杯の仕草をした。
「ちょっと不安がって欲しかっただけで、わざと誤解させてみたりして、それっきりになったりね」
「誤解?引っ越した時?」
「電話番号、変えないで待ってたのに。まさかあれっきりになるなんてね」
あの時まだ終わっていなかったのかと、健司は美弥子の顔を見返した。
「古いけど広めのアパート借りて、驚かせようと思ってた。健ちゃんがロフトつきの部屋は泊まりにくいって言ったから。電話に、出てくれなかったね」
「新しい男ができて、別れの電話だと思ってた」
「そう思わせれば、少しは私を気にしてくれるかと思ってた。子供だったね」
子供だったのは、健司も同じだ。美弥子が寂しがっているのは、わかっていたのに。
場所を移そうかと、小さなバーに入った。カウンターに並んで座ると、美弥子のやわらかい気配に昔が戻る。
「遅くなって、家は大丈夫?」
「他に誰か、いるわけじゃないもの。いろいろあってね、結婚するタイミングを逃したの」
薄い水割を舐めながら、美弥子が言う。
「健ちゃん、子供は?」
美弥子が手の内を明かしたのだから、隠しておくのは反則だ。
「ひとり。何年も会ってない、金を送るだけの父親だけどな。向こうが再婚して、子供が混乱するから会わないで欲しいって言われたら、親権持ってないこっちは、言いなり」
ふうっと溜息が漏れた。長い間に、本当にいろいろなことがあったのだ。
「お互いに独身なんだな。気兼ねするものがないのは、良いことなんだか悪いことなんだか」
「良いことってことにしておきましょうよ。少なくとも、会うことが後ろめたくはないわ」
少々酔った頭で次の約束をして、ふたりは別々の場所に帰った。
待ち合わせて会うことも三度目を数えた頃、健司は美弥子を少し遠出に誘った。夜の短い時間に思い出話をするよりも、もっと時間を共有してみたくなった。泊り掛けでという言葉を、美弥子は微笑みで承諾した。美弥子もまた、健司と同じ気持ちだったのだと、嬉しい。
最寄り駅まで車で拾いに行くと、小さなバッグを抱えた美弥子が乗り込んだ。後ろの座席に置いたガーメントバッグは新品じゃない。それなりに使い込んだ跡の見えるもので、つまりそれが美弥子の社会生活の長さなのだ。学生時代みたいにバックパックひとつで旅行するわけじゃない。
鎌倉の古い街並みを、一緒に歩いた。若い頃よりも格段に増えた知識は、そぞろ歩きの中の会話を豊かにする。長い距離を歩き回って疲れるよりも、ひとつの場所をじっくり見て佇まいを楽しむほうが、今の自分たちに合っている。年齢を重ねるごとに、楽しみも感情も深くじっくりと変化していくのなら、悪くないものだと健司は思う。傍らの美弥子が、木の上に走る栗鼠を見つけて歓声を上げた。少女めいた仕草が愛しいものに思えて、健司は確信を深める。
感謝しよう、と思う。再びめぐり会えた今、お互いに独身であることに感謝したい。
横浜に泊まろうと車を向け、みなとみらいの観覧車を横目で見た。
「あ、あのホテル」
「そう。覚えてる?」
三日月形のホテルの上階は、若者には高価で敷居も高くて、その分だけ憧れだった。もう少し良いスーツが着られるようになったら、必ず行こうと約束していた。頑張ってお金を貯めて来ましたなんて感じじゃなくて、サービスを受け慣れているように振舞うことができるようになったら、と。
「あのホテルを見るたびに、美弥のことを思い出してなあ。だから、泊まるのははじめてだ」
「私は使ったことがあるわ……ずいぶん前」
誰とどんな風に使ったのかは、問わないで置く。果たせなかった約束を、今果たしに行くのだ。もうクラスに怯むような若造じゃない。ビアガーデン付きのプランを選んでいるのは、気兼ねなくゆっくり酒を楽しみたいからだ。一緒にゆっくりと、夜の時間を楽しみたい。黄昏ははじまったばかりだ。
食事の前にシャワーを使いたいと、バスルームに消えた美弥を待つ間、どうも落ち着かない。女の身体にがつがつするほど、もう好奇心が揺り動かされるわけじゃない。ひとりがけのソファに座って、港を見下ろした。手持ち無沙汰だったが、煙草は以前に止めている――子供が生まれた時に。二十年の間に、本当にいろいろなことがあった。健司と同じように、美弥子もまた同じだけの時間を、どこかで過ごしているのである。
「お待たせ」
バスルームのドアが開き、着替えた美弥子が現れた。夜の食事に相応しい服装に改めることも、若い頃には気がつかなかったかも知れない。健司もシャツだけ変えて、ネクタイを締めた。これでドレスコードに問われることはない。
ほろ酔いで戻った部屋で、美弥子はもう一度バスルームに向かった。持ち込んだ文庫本を片手にミニバーからワインの小さなボトルを取り出した健司は、本に目を落とすこともなく窓の外を眺めた。夢を見ているような気がする。それとも、今までの生活が長い夢だったのだろうか。健司と美弥子の間に空白は存在しなかったような、そんな気さえする。愛や運命なんて気障な言葉以外に、何か表現はないだろうか。
バスローブ姿で戻った美弥子と交代して、濡れたバスルームに足を踏み入れ、今晩これからのことを思う。大人同士のことだから、何かが変わったとしても、どちらかの責任じゃない。頭の天辺から湯を滴らせ、情けなく筋肉の緩んだ身体を見下ろした。増えた体重の分だけ、人生の重みは身についているのだろうか。もう駆け引きの必要な恋愛はしたくないし、ひどく消耗する家庭生活も御免だ。だからこそ、今美弥子に再び会えたことの意味を考えたい――
バスルームを出ると、部屋の中はフットライトだけになっていた。薄暗がりの窓際で、美弥子は窓外の港を眺めていた。
「どうしたんだ、こんなに暗くして」
振り向いた美弥子が、薄く微笑む。
「明るくなんて、できないわよ。もうね、二十年前の身体じゃないもの。胸にハリはないし、余計な肉は蓄えてるし」
健司から見た美弥子は、まったく変わっていないように見えるのに。美弥子もまたバスルームで、自分の変化を考えていたのだろうか。
背中から美弥子を抱きしめた。昔の自分ではなく、今の自分が美弥子を欲しい。今の健司が欲しいのだと、美弥子にも言わせたい。身体を振り向かせて抱きしめなおし、どちらからともなく唇を合わせた。抱き寄せた感触が記憶にある。角度を変えて合わせていく唇の中の奥で、舌が相手を探り始める。女の吐息が甘いことを思い出し、健司の中で何かがかちゃりと外れた。
バスローブを外しあいながら、ベッドにもつれ込む。
「あんまり見ないで。恥ずかしいわ」
「綺麗だよ。あの頃より、ずっと綺麗だ」
若い身体は確かに造形的に美しいのかも知れない。しかし、指が沈み込んでいくようにやわらかな下腹や丸みを帯びた肩は、しっとりと男を受け止める柔軟さを持っている。薄暗がりに白く映えたその身体は、情欲をそそる。強く抱きしめると、二十年ぶりの溜息が聞こえた。
「新しくはじめるんだよ、これから」
そう、昔の続きじゃない。いくつもの季節が終わって再びめぐりあい、またふたりの季節をはじめるのだ。
「嬉しい。健ちゃんのことが、また好きになれて」
返事の変わりに、胸の上に印をつけた。これをはじまりの合図にするように。
掴んだ指が溶けてしまいそうな柔らかい乳房の先端は、娘のように淡い色だ。愛らしくそそり立つそこを、ぱくりと口に含んで舌で転がす。
「ん……健ちゃん……」
「旨いよ、ここ……なんだか、いい匂いがする」
健司の下腹に伸びてきた指が、健司自身の先端を撫でて刺激する。美弥子の白い肌が、僅かな灯りの中で揺れた。身体の隅々まで舌を這わせたい衝動に耐え、脇腹に唇を寄せた。美弥子がもじもじと揺する腰で、彼女の要求が理解できてしまう。指をそっと派遣すると、待っていたかのような高い溜息が聞こえた。
待ち望んでいるらしい尖りに指をあわせ、軽く揺すってやる。
「あ……そこ、だめ……」
「指よりも、こっちのほうがいいだろう」
舌の先端で掃くと、悲鳴めいた声が聞こえた。
「やぁ……っん……んっ……健ちゃ……」
高くなる声に興奮して、美弥子の中を指で探った。子供を産んでいない女の中は、娘のように狭く頑なだ。
「やっ……そんなこと、しな……い、で……」
押し退けようとする手を払い、健司はその行為に没頭する。降ってくる声は哀願のようでもあり、音楽のようでもある。ぎくんと身体を硬直させた美弥子が、達したことを知った。
身体を重ねて、ひとつになる。
「あ……」
健司は驚いたように声を出した。これを探していたのだという感覚が、身体の中にある。まさか、覚えていたとは。忘れていなかったとは。そしてまた、美弥子も満足気な呼吸をした。
「ああ、覚えていたんだわ。こんな……」
同じ感覚を共有しているのだと、健司の背に強い歓びが走った。抱きしめて唇を吸うと、美弥子の舌が健司の舌を迎える。腕の中のすべてが愛しく、懐かしい。
あの時はおたがい、はじめて同士だった。がむしゃらに身体を合わせた日々、ふたりで作り上げた行為がまだ、身体の中に生きていた。どんな相手にも感じなかった感覚が、ここにある。まるで失くしたと思っていた大切なものを、押入れの隅から見つけたような。それは感情なのか身体の繋がりなのか、それとも両方だろうか。古いものを捨てなくても、新しいものは得ることができる。上に積み重ねていく日々は、どこからでもスタートさせることができるのだ。
腋の下に美弥子の頭を抱え込み、再び見つけた愛しいものを見失わないように、健司は目を閉じて、寄り添った身体の柔らかさを全身に記憶させる。もう、別々に過ごす季節は見送らない。これからめぐる季節を、美弥子と共に追うのだと、深く決意しながら。
fin.
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