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「幸せそうだな」
翌日、教室に入ると久東に言われた。昨日は色々あったが、今日は普通に登校している。腰はまだ痛いが何とか歩けるレベルまで回復した。
「おはよう。昨日は迷惑かけてごめんね」
「全くだ。まあその顔を見る限り仲直りしたようだが」
「うん」
「俺のお陰でもあるから感謝しろ」
「久東様、ありがとうございます」
礼を言うと鼻で笑われた。ムカつくが言い返す元気もない。
すると、背後に気配を感じ振り向くと颯汰くんが立っていた。相変わらず顔面国宝級のイケメンだ。颯汰くんがわざわざ教室を訪れて俺に話しかけてくるとは珍しい。一体どんな用事なんだろうと思っていると、久東は先に自分の席に戻ってしまった。
「えっと、何かあった?」
「昨日話してたお菓子のことなんだけど」
「あっ、持ってきてたのに渡すの忘れてた。はい、どうぞ」
鞄の中から紙袋を取り出し手渡した。颯汰くんはそれを受け取ると目を細めた。すると、周囲から「おぉ……」「はわわ……」などの感嘆の声が聞こえた。
きっと颯汰くんのビューティースマイルに感動しているんだろう。俺の仲間がクラスにいたなんて誰だろう、ときょろきょろ見渡すが皆目を逸らして無言になった。
「大切に食べる」
「大袈裟だよ。頼まれたらいつでも作るし」
そう言うと、颯汰くんはまた微笑みを浮かべる。周りからは黄色い悲鳴が上がった。
そして、平和な日々が戻った。と言いたいところだが、正直まだ心残りがあった。
あの王道学園の漫画である。所詮フィクションという颯汰くんの通り現実に起こるわけがないと分かっているが、続々と生徒会が攻略されているのを見て少し不安に思う。
更に風紀委員としても桜羽くんの扱いについて困っていた。
桜羽くんの存在が気に入らない親衛隊が最近頻繁に彼に対して嫌がらせを行っているのだ。親衛隊が怒る気持ちも理解出来るが、桜羽くん自身に問題は今のところ無いし、どう対処すべきか現在風紀委員室で会議を行っている。
三谷情報では、王道学園だけでなく、非王道というものがあり、その場合は転校生に惚れた生徒会が仕事を放棄し学園も荒れる、という最悪な展開があるらしい。
「なんとしても、それだけは回避しなければ!僕、王道は大好きですけど非王道は地雷なんで!」
「三谷、落ち着け。生徒会はまだ仕事を放棄してない」
「でもなった後じゃ遅いんですよ。早めに忠告しなければ」
だが、忠告と言ってもどう言えば良いのか。
桜羽くんに嫌がらせをした親衛隊にはその都度注意をしているが、その親衛隊が嫌がらせをしなくなったと思ったら今度は他の生徒会役員の親衛隊が嫌がらせをするから切りが無い。
それに生徒会に忠告するとしても、生徒会は恋愛禁止なんてルールは無いし、人前では控えろと言っても彼等が素直に従うとは思えない。
特に生徒会長は所謂俺様ドSで自分の要求は意地でも通すタイプだ。彼を説得するのは難しい。
「やっぱりここは転校生本人に直接言うしかないんじゃ……」
「そうだな。じゃあ琴森。明日説得してこい」
「えっ俺?」
突然の指名に目を見開く。
ど、どうして俺なんだ。一度も話したことないし颯汰くんの件もあって気まずい。それに桜羽くん側から見ても、急に知らない先輩から「生徒会のみんなから離れてくれないかな?」なんて言われても怖いだろう。
「俺が話しかけたら下手に周りが騒ぎそうだからな。お前は後輩とも仲良いし穏便に解決出来るんじゃないか?」
「いや、俺よりもっと適任が」
「そうそうっ!琴森くんなら大丈夫大丈夫!それに一度話してみたらモヤモヤも晴れるんじゃない?まだなんか悩み事あるんでしょ?」
三谷はどうしてそれを知っているんだろう。更に三谷は何故かニヤニヤと目を細めこちらを見ている。どういう感情?
……そういえば、王道学園について聞いてショックを受けていた時に何故か三谷は俺を慰めていた。もしかして、俺と颯汰くんの関係を知っているのか?
三谷に近づき小さな声で問い掛けた。
「……あの、三谷ってもしかして俺の恋人が誰か知ってるの?」
「えっ葉桐様でしょ。え?ていうか知らない人いなくない?」
「え?俺、誰にも言ってないよ!?」
思わず大声で言うと、何故か風紀委員室は静まり返った。
「…………ん?」
「え、待ってください。まさか自覚なしですか?」
「嘘でしょ。あれだけイチャついておいて」
みんなが顔を引き攣らせながら言う。
久東は遠い目をしているし三谷は未確認生物を発見したような顔をしている。
な、何その反応。俺、また何か勘違いをしていたのか。
久東は遠い目のまま俺に告げた。
「琴森。多分この学園の九割はとっくに知ってるぞ」
「情弱な新入生以外はみーんな知ってるよ」
「ええっなんで!?」
「あんなに葉桐が懐いている様子を見たら流石に分かる。というかお前らが中々付き合わないから親衛隊の奴らが手伝ってたくらいだ」
「そうそう。わざわざ琴森くんにお菓子貰って葉桐様に譲ってたくらいだよ?それで喜ぶ葉桐様もどうかとおもうけど」
衝撃の事実に俺は唖然とした。
やけに颯汰くんの親衛隊の子がお菓子を欲しがるのもそんな理由があったのか。颯汰くんの親衛隊って可愛い子ばっかりだなぁ、と呑気に思っていたあの時の俺を殴ってやりたい。
「ていうか琴森くんに話しかけたらめっちゃ葉桐様睨んでるのも気付いてないの?」
「睨む……?いつも穏やかな颯汰くんがそんなことするの想像できないけど」
「うわっ惚気られたよ委員長ー!こっちはあんなに牽制されてるのに!」
「アイツ琴森の前では猫かぶってるからな」
翌日、教室に入ると久東に言われた。昨日は色々あったが、今日は普通に登校している。腰はまだ痛いが何とか歩けるレベルまで回復した。
「おはよう。昨日は迷惑かけてごめんね」
「全くだ。まあその顔を見る限り仲直りしたようだが」
「うん」
「俺のお陰でもあるから感謝しろ」
「久東様、ありがとうございます」
礼を言うと鼻で笑われた。ムカつくが言い返す元気もない。
すると、背後に気配を感じ振り向くと颯汰くんが立っていた。相変わらず顔面国宝級のイケメンだ。颯汰くんがわざわざ教室を訪れて俺に話しかけてくるとは珍しい。一体どんな用事なんだろうと思っていると、久東は先に自分の席に戻ってしまった。
「えっと、何かあった?」
「昨日話してたお菓子のことなんだけど」
「あっ、持ってきてたのに渡すの忘れてた。はい、どうぞ」
鞄の中から紙袋を取り出し手渡した。颯汰くんはそれを受け取ると目を細めた。すると、周囲から「おぉ……」「はわわ……」などの感嘆の声が聞こえた。
きっと颯汰くんのビューティースマイルに感動しているんだろう。俺の仲間がクラスにいたなんて誰だろう、ときょろきょろ見渡すが皆目を逸らして無言になった。
「大切に食べる」
「大袈裟だよ。頼まれたらいつでも作るし」
そう言うと、颯汰くんはまた微笑みを浮かべる。周りからは黄色い悲鳴が上がった。
そして、平和な日々が戻った。と言いたいところだが、正直まだ心残りがあった。
あの王道学園の漫画である。所詮フィクションという颯汰くんの通り現実に起こるわけがないと分かっているが、続々と生徒会が攻略されているのを見て少し不安に思う。
更に風紀委員としても桜羽くんの扱いについて困っていた。
桜羽くんの存在が気に入らない親衛隊が最近頻繁に彼に対して嫌がらせを行っているのだ。親衛隊が怒る気持ちも理解出来るが、桜羽くん自身に問題は今のところ無いし、どう対処すべきか現在風紀委員室で会議を行っている。
三谷情報では、王道学園だけでなく、非王道というものがあり、その場合は転校生に惚れた生徒会が仕事を放棄し学園も荒れる、という最悪な展開があるらしい。
「なんとしても、それだけは回避しなければ!僕、王道は大好きですけど非王道は地雷なんで!」
「三谷、落ち着け。生徒会はまだ仕事を放棄してない」
「でもなった後じゃ遅いんですよ。早めに忠告しなければ」
だが、忠告と言ってもどう言えば良いのか。
桜羽くんに嫌がらせをした親衛隊にはその都度注意をしているが、その親衛隊が嫌がらせをしなくなったと思ったら今度は他の生徒会役員の親衛隊が嫌がらせをするから切りが無い。
それに生徒会に忠告するとしても、生徒会は恋愛禁止なんてルールは無いし、人前では控えろと言っても彼等が素直に従うとは思えない。
特に生徒会長は所謂俺様ドSで自分の要求は意地でも通すタイプだ。彼を説得するのは難しい。
「やっぱりここは転校生本人に直接言うしかないんじゃ……」
「そうだな。じゃあ琴森。明日説得してこい」
「えっ俺?」
突然の指名に目を見開く。
ど、どうして俺なんだ。一度も話したことないし颯汰くんの件もあって気まずい。それに桜羽くん側から見ても、急に知らない先輩から「生徒会のみんなから離れてくれないかな?」なんて言われても怖いだろう。
「俺が話しかけたら下手に周りが騒ぎそうだからな。お前は後輩とも仲良いし穏便に解決出来るんじゃないか?」
「いや、俺よりもっと適任が」
「そうそうっ!琴森くんなら大丈夫大丈夫!それに一度話してみたらモヤモヤも晴れるんじゃない?まだなんか悩み事あるんでしょ?」
三谷はどうしてそれを知っているんだろう。更に三谷は何故かニヤニヤと目を細めこちらを見ている。どういう感情?
……そういえば、王道学園について聞いてショックを受けていた時に何故か三谷は俺を慰めていた。もしかして、俺と颯汰くんの関係を知っているのか?
三谷に近づき小さな声で問い掛けた。
「……あの、三谷ってもしかして俺の恋人が誰か知ってるの?」
「えっ葉桐様でしょ。え?ていうか知らない人いなくない?」
「え?俺、誰にも言ってないよ!?」
思わず大声で言うと、何故か風紀委員室は静まり返った。
「…………ん?」
「え、待ってください。まさか自覚なしですか?」
「嘘でしょ。あれだけイチャついておいて」
みんなが顔を引き攣らせながら言う。
久東は遠い目をしているし三谷は未確認生物を発見したような顔をしている。
な、何その反応。俺、また何か勘違いをしていたのか。
久東は遠い目のまま俺に告げた。
「琴森。多分この学園の九割はとっくに知ってるぞ」
「情弱な新入生以外はみーんな知ってるよ」
「ええっなんで!?」
「あんなに葉桐が懐いている様子を見たら流石に分かる。というかお前らが中々付き合わないから親衛隊の奴らが手伝ってたくらいだ」
「そうそう。わざわざ琴森くんにお菓子貰って葉桐様に譲ってたくらいだよ?それで喜ぶ葉桐様もどうかとおもうけど」
衝撃の事実に俺は唖然とした。
やけに颯汰くんの親衛隊の子がお菓子を欲しがるのもそんな理由があったのか。颯汰くんの親衛隊って可愛い子ばっかりだなぁ、と呑気に思っていたあの時の俺を殴ってやりたい。
「ていうか琴森くんに話しかけたらめっちゃ葉桐様睨んでるのも気付いてないの?」
「睨む……?いつも穏やかな颯汰くんがそんなことするの想像できないけど」
「うわっ惚気られたよ委員長ー!こっちはあんなに牽制されてるのに!」
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