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しおりを挟む「兄さん、動物園の事なんだけどさ」
「妹よ、少しそこのソファーで座ってくれてもいいかい?」
「はぁ、また何か茶番が始まるの。早く終わらせてよ」
妹がソファーに腰を下ろして足を組む。俺は床に跪いて両手を着いて深く頭を下げた。
「ごめんなさい!」
妹は状況が理解出来てないようで口を開いたままぽかんとしている。そして俺は湊の仲を説明した。バレンタインチョコを渡さず誤解されたこと。付き合ったこと。そして日曜日の計画。
全てを話し終えると妹は両手で頭を抑えた。これは大分ショックを受けてる様子だ。そりゃそうだ。自分の好きな相手がこんな冴えない兄貴と付き合ってたなんて俺が妹の立場ならば卒倒する。
罵倒される心の準備も出来ている。好きなだけ俺を罵ってくれ。蹴っても踏んでも構わない。
しかし、彼女はただ小さく呟いただけだった。
「……私、実は騙してたの」
「えっ。何を」
「本当は真野先輩のこと、好きだと思ったことない」
えっ、えっ、ええええええ!!?
そんなことあるのか?嘘っ、え、どういう事?なんでそんな嘘を付いたんだ?
驚きの余り、今度は俺がム○クの叫びのような顔をしたまま固まる。彼女は懺悔のようにぽつぽつと語った。
「兄さんのシスコンは別に嫌じゃなかったけど私がいつか結婚した時壊れるんじゃないかと思ったの。じゃあ今のうちに慣れさせようと思って適当に真野先輩を好きって言っただけ」
「な、何で湊を」
「だから本当に適当よ。うちの中学でもちょっと有名人だったから言っただけ。それなのに兄さんがなんか勘違いしてワーワー言うし、まあ面白くてチョコまで渡した私も悪かったんだけど……」
妹は顔を少し赤らめて話す。可愛い。好き。だけど今は萌えてる場合じゃない。
俺達はとんでもない勘違いに湊を巻き込んでしまったようだ。何から片付ければ良いのか、うぅ、気が遠くなる……。
「そんなぁ、じゃあ俺の今までは全部無駄に……」
「ごめん。でもそれより問題は兄さんが真野先輩が好きってことでしょ!」
「す、すすす、好きなんて」
「いや、ここまで言われて誤魔化しても無駄だから。どこまでしたの?」
妹がソファーから降りて俺に言い寄る。妹に弱い俺は圧にあっさり負け、キスした事を告げると妹はきゃーきゃー可愛い声をあげた。でも俺はその可愛さに悶えるよりも恥ずかしさで顔が沸騰しそうになった。
「それで?今はどんな感じ?」
「……いや、実は」
湊の質問に答えられなかったことを話すと妹は無言で俺の頭にチョップをした。地味に痛い。
「兄さん、好きなんでしょ?なのになんで答えなかったわけ」
「その場でパッとどこが好きとか出てこなかったんだよ。あと俺はお前も湊もどっちも好きで、どっちが好きとか決められない」
「……優柔不断。でも何も言わないよりそれを伝えた方が良いよ。真野先輩はちゃんと兄さんに答えてくれたんだから」
胸に槍を刺されたような一撃を食らう。妹の言葉は正論だ。俺も、ちゃんと彼の思いに答えないといけない。日曜日、彼にちゃんと想いを伝えよう。
決めてから行動は早かった。まず、俺はチョコレートを作る事にした。あの日は偽物だったが今度はちゃんと俺が作ったものを渡したい。
そしてチョコの型を買いに出かけた。色々な形の型が置いてあったが、俺はハートの形を選んだ。店員さんに渡すのは少々恥ずかしかったが「好き」が真っ先に伝わりそうで良いな、と思ったのだ。
チョコを型に流し込んで固めるだけの簡単な作業に思えるが、今まで料理もまともにした事の無い俺はかなり緊張した。水が少しでもチョコに入っただけで綺麗にならないしチョコって案外繊細なんだな。チョコペンで字を書く時は緊張で手が震え、文字は歪になってしまった。何度もチョコを作り直してやっと成功したものの、なんか格好悪い。妹が作ったチョコの方が百倍美味しそうに見えた。
「……まあ、形は変だけど味は悪くないだろうし。ウンウン」
俺は自分に言い聞かせるように呟く。そして当日を迎えた。
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