眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

ぽぽ

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【番外編】2

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「ごめんね。僕のせいで。猫宮くんはパンを悩んでいただけなのに」
「ああ全然、大丈夫だよ。こっちこそムキになって断ってたから……」
「じゃあお詫びとして僕に何か頼ってくれないかな?犬山くんにはいつも頼ってるのに、僕じゃ駄目?」
 
 夜鳥は常に低姿勢で本当に優しい心を持つ男だ、と感心していたが、まさかの交換条件を出されてしまった。結構コイツも諦めが悪いな。
 夜鳥に頼む事なんてない……いや、思い出せば元はと言えばこうなったのは熊野の合コン作戦が原因だ。夜鳥はこの通りモテ男だし合コンに参加する女の子も集めてくれそうだ。
 よし、図々しいが夜鳥も望んでいる事だし、頼んでみよう。
 
「じゃあ、合コンってセッティング出来る?」
「……合コン?」
 
 頷くと夜鳥まで体が固まった。そして、恐る恐るというように聞いてきた。
 
「それって他の子が?それとも猫宮くんが合コンに?」
「うん。可愛い女の子と合コンしたいんだ」
 
 すると、夜鳥は今までに見た事がない程目を見張った。もはや眼球が飛び出ている。
 つい図太く可愛い女の子と、なんて言ったから癪に障ったか?確かに夜鳥から見ればお前みたいなもやしが何を言って、と怒りたくなって当然だ。
 
「ご、ごめんな!図々しくて嫌だったよな?」
「…………」
「や、夜鳥?」
 
 名前を呼びかけても掌を夜鳥の目の前で振っても反応が無い。さっきの犬山のと同じように硬直してしまった。
 ど、どうしよう。今度は夜鳥の地雷まで踏んでしまったようだ。可愛い女の子の話はNGだったのか。
 
 ていうか、これどうしたら戻るんだ?
 犬山も置いてきたままだ。さっきから人を振り回しておいて放置するのは良くないよな。でも、犬山の様子も見ないといけないし夜鳥とずっといる場合じゃ無い。
 一人で悩んでいる時、助けになる男が現れた。
 
「何をしているんだ?」
「熊野!良い所に!ちょっと夜鳥を寮まで運んでくれない?」
「そこに置いておけば良いだろう」
「いや、固まったのは俺にも責任があるというか」
 
 相変わらず他人には塩対応な熊野。一応夜鳥もお前の同室相手だぞ。
 
 だが、正直なところ、俺は割と同室の相手とはそこそこ良い関係を築いていると思っているけど(最近は熊野との関係が変わってきているが)他の三人の仲は余り良いとは言えない。熊野は性格的にまあ察せるが、犬山と夜鳥も余り話さない。普通に二人とも笑顔で話しているが寮以外で会っている様子は見掛けた事が無いのだ。以前、犬山にも「寮の皆と出掛けてみようよ」と提案してみたが微妙な顔をしていた。
 
 実は俺達、不仲寮かも……?
 
 犬山や夜鳥、熊野が普通に良い奴だということも三人は気付いてない。もしかしたら、熊野のこの恋心は今まで友達が居なかったから友情を勘違いしている説も有り得る。いつか、皆が仲良くなって遊びに行ったり出来たら良いんだけど。
 
「猫宮、責任とは?」
 
 熊野が俺の顔を疑問の目で覗く。
 うっかり脳内で脱線してしまったが、今は熊野の合コンが課題だった。あと同時に犬山と夜鳥の気を取り戻す事。
 
「合コンのセッティングを聞いたらこんな事になっちゃったんだよ」
「合コン?それは何だ?」

 きょとんと首を傾げる熊野。
 まさか合コンの意味も知らないなんて。コイツの中学時代の話の信憑性が更に増した。
 そして俺は合コンについて簡単に説明すると、熊野は納得した様子で再びきょとんとした顔で問う。

「合コンについては理解したが何故そこに猫宮が行きたいんだ」
「その、可愛い彼女が欲しいから」
「成程……俺じゃ代わりにならないのか?」
 
 無理に決まってるだろうが!
 熊野の見た目はお世辞でも可愛いとは言えない。確かに美形だが熊野は夜鳥とは違い線の細い王子様系のイケメンではなく逞しい男前な美形だ。可愛いには程遠い容姿である。彼の女装姿を想像すると、思わず鳥肌が立ってしまうほどだ。
 
「ごめん、それはマジでちょっと厳しいと思う。てかさ、熊野もかわいい女の子に出会いたいと思わない?」
「思わない」
「何で?もっと世界が広がるかもしれないよ?」
「俺の世界の中心は常に猫宮だ」
 
 うわまたナチュラルに口説いてくる!
 その後も熊野は動揺する俺を気にせず真っ直ぐ顔を見詰め懇願してきた。
 
「頼む。合コンには行かないでくれ。俺には猫宮だけなんだ」
「いや、熊野にはもっとお似合いの相手がいるだろうし、俺なんかよりもずっと良い子がいると思うし……」
「そんな事ない。例えどんなに良い女がいたとしても、あの日体調が悪い俺を心配してくれたのもいつも可愛らしく笑うのも猫宮だけだ。だから頼む。合コンは行かないでくれ。猫宮に他の女が出来たら俺は……」
「あーあーあー!!分かった!分かりました!分かったからちょっと落ち着いて!」
 
 突然語り出した熊野の声を俺の大声で遮る。すると、俺の声を聞いた熊野は肩の荷が降りたかのように吊り上げていた眉も元に戻った。
 コイツ、せめて寮の部屋の中ならまだしも、誰が見ているか分からないような廊下で急に熱くなるなよ。誰かに見られたらどうするんだ。もしバレたら熊野は今後B専ホモっていじられる事になるんだぞ。
 そして俺は警戒しながらも彼に頼んだ。

「と、兎に角、夜鳥を部屋に連れて行ってくれないか?」
「……気が乗らないが猫宮の頼みなら引き受けよう」

 そして熊野は軽々と夜鳥を持ち上げた。
 細身とはいえかなりの長身だがそんな夜鳥をここまで簡単に抱えることが出来るとは、流石だ。
 純粋に尊敬した俺は思わず嬉々として熊野に礼を告げた。

「すげー!助かった。ありがと!」
「……猫宮が喜んでくれて何よりだ。それよりもキスしていいか」
「何でだよ!」
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