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第4章
悲しき店主、最高の店
しおりを挟む「…あの…干し肉あるだけ下さい。」
「…種類があるが…全てか?」
「あっはい。全種類全部。」
しばらく見つめ合った後に勇気を出しておじ様に声を掛けた僕に返されたひっくい声は怒っているわけでも不愛想なわけでもなく只々静かだ。
無口な人なんだなっと察し普通に喋り出す僕におじ様は準備ができるまでこれでも食ってなとお肉が刺さった串を僕とノヴァにくれた。
食べ終えてからしばらくして、おじ様がわざわざお店から出てきて丁寧に包んでくれた干し肉達を渡してくれる。
「重たいが…大丈夫か。」
「はい。彼は魔法がとっても得意なので。」
心配そうにしてくれたおじ様にノヴァが空間魔法を施した鞄を見せて大丈夫アピールをすると、安心した様子で逞しい腕にぶら下がった干し肉がいっぱい詰まった袋を僕達に渡してくれた。
バックに次々と仕舞いながらも中身をきちんと確認していたノヴァがピタリと動きを止めおじ様をじっと見るので、どうしたのかなっと僕も黙って見守る。
「干し肉以外も入っているように思うが。」
「…おまけだ。」
「なぜ。」
「…沢山買ってくれた奴にはおまけをつけることに…してる。」
「…あ、ありがとうございます。あの代金はどれくらいですか?」
どうやら干し肉以外のお肉をおまけでくれたらしいおじ様だけど、ノヴァがじっと怪しむ目で見てて何だか見てられなくなった僕はおじ様の助け舟を出す事にした。
すぐにノヴァが攻撃したりもしないし、おじ様から嫌な人な感じはしないからおじ様が嘘をついているってことはないと思うけれど立場的に警戒をしなくちゃいけないから申し訳ない。
屈強な男の人が親切心でしたことを疑われて少し潤んでいる瞳を見て、手を差し伸ばさずにおれるものか。
「100000キンだ。」
僕の助け舟にほっとした顔でしっかりと乗り込んでくれたおじ様から告げられた値段は予想よりも安くて首を傾げる。
大きなお店ではなかったけれど、店の干し肉を全て買い占めたのだ…そんなに安いわけがない。
「もしかしてはずれが入ってるから?」
「…俺は、はずれが作れない。食欲の悪魔、だから…食への冒涜は、できん」
つい失礼な言葉がぽろっと出た僕に怒るでもなく、おじ様ははずれはないと断言し、そして安い理由の悲しい理由を教えてくれた。
「俺…顔怖くて、人があまり来ない…ので、こんなに買ってもらえて…嬉しいんだ。」
「あー…んー、じゃあこれ。僕達の気持ち分上乗せさせてもらうね。僕達も良いお土産が買えて嬉しいから。」
悲しく健気なおじ様に心がじんわりした僕はそう言っておじ様の掌に120000キンを置いた。
たぶん定価と割値の間位の金額のはず…
掌にのった金額を見ておじ様は初めて少し困った表情を見せて、そしてひとつ頷いて受け取ってくれた。
うん。
よいお店に来れたことで僕の気分が一気に跳ね上がった。
おじ様にまたねーっと手を振って、次のお店へ。
ちなみにお店から離れる前にノヴァがしっかりとおじ様に疑って悪かったって謝ってた。
素直に謝罪ができる人って良いよね。
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