309 / 398
第4章
早く消し去りたい甘い言葉
しおりを挟む『ガーネット!!』
目的の地へ辿り着いて僕達はククちゃんがすかさず展開してくれた氷壁の裏に着。
ホルス様とククちゃん達も氷壁の近くで、ガーネット達からは距離を取って見守るスタイル。
ガーネットは現れた旦那様にむっとして顔を背けるが、飛んで逃げる元気はないようで地面に伏したまま。
そんなガーネットを見てあわあわと心配しまくっている旦那様。
『こんなに弱って!!ガーネット、お前は誤解してる!俺は浮気などしていないぞ!!』
『ふん!私見たんだから!若い子と楽しそうに飛んでたじゃない!!』
『あれは別の火山から来た子で道に迷ったと言うから案内してただけだ!』
『それにしては随分と笑ってたわよね!?』
『お前と子の話をしてたんだ!』
旦那様が頑張ってガーネットに誤解していることを告げるが、ガーネットは頑なに誤解じゃないと言う。
ヒートアップする2体の影響で氷壁が少しずつ溶けてきているがすぐ傍に居るククちゃんが程よい冷気を送ってくれるから暑さは感じない。
ラプラス様もノヴァ達もレッドドラゴンの夫婦がどんな会話をしているのか興味津々の様子だけれど、あの痴話喧嘩の内容を口にするのは嫌だ。
『…例えばどんな話?』
『凄く情熱的な妻がいて、最近子を産んでくれたことと生まれる子がどんな子になるかとかそう言ったことだ!な?誤解だろ?俺にはお前だけなんだ!!』
『へー…それ、ほんとなの?』
『本当だ!』
『龍神様に誓って?』
『誓う!』
売れないラブコメみたいな会話をずっと耳にして砂吐きそう。
僕もノヴァと周りを気にせずイチャイチャすることがあるけれど…今度からは気をつけよ。
「何か…解決したっぽいよ。」
へへっと笑って告げた僕に、ノヴァ達は詳しく聞きたそうにしながらも僕の微妙な表情にその気持ちを抑えてくれた。
だけどラプラス様にはそんな僕を気遣う必要も義理もないのでぐいぐいくる。
「ドラゴン夫婦の仲直りの会話とは!?」
「…帰ったら紙に書いて提出します。」
「??分かりました。楽しみにしております!」
何とか口からあの会話を再現することは免れたけれど、この後紙に書き起こさなくてはいけないと思うと憂鬱。
でもでも…口にするよりは断然マシだしたぶんその報告書はノヴァも見たいだろうし。
未来の自分の精神が心配だけれど、もう未来の自分に頑張ってもらうしかない。
そんなこんなでまだ少しツーンとしたままのガーネットだったけれど、旦那様に力を分けてもらって夫婦と卵の子揃って元の住処へとやっと帰って行った。
その夜
ラプラス様の沼地の屋敷にて
疲労困憊のホルス様は小さなドラゴンの姿で僕の腕に抱かれて微睡んでいる。
どうやら僕から神力やら魔力やらを吸収しつつ眠っているらしく体から魔力が抜けていく感じがするが、未だに魔力量が多くそれが原因で体調を崩す時もあるくらいなので僕としては全く問題ないどころか貴重な小さきホルス様を抱っこできるし一石二鳥な感じである。
ノヴァもホルス様の今回の心労を思ってか僕がホルス様を抱いて連れ歩いていることに特に何も言ってはこなかった。
人の姿だと嫉妬するけど、ドラゴンの姿だったら対象外なのかもしれない。
緊急の用事が終わって、忘れていた食を摂取してから僕達はそれぞれ与えられた部屋に戻り休息をとることになったのだが…僕は今、机に向かい心を無にして報告書を書いている。
膝の上で安らかな寝息をたてるホルス様だけが僕の心を癒してくれている。
「…ルナイス、もう寝よう。報告書は明日にでも…」
「いや…もうあの他人の甘ったるい会話を記憶していたくない。早く消去したいから仕上げさせて。」
「あ…あぁ。」
あまりの僕の虚無顔にノヴァが声をかけてくれるけれど、僕は今夜報告書を仕上げてしまいたかった。
あんな使い古されたような少女漫画のセリフみたいな会話を早く僕の海馬から追い出したい。
無心であの時のレッドドラゴン夫婦のやり取りを字におこしていき、やっと報告書が終わったという時には既に夜も深い時間だった。
膝の上で寝ていたホルス様は何時の間にか居なくなっていて、ぐぅーっと真上に上げて伸ばした掌にすっと別の手が絡まってきて驚きすぎて「わっ!」と大きな声を出してしまった。
「お疲れルナイス。」
「ノヴァ…あ…もしかして部屋をあっためてくれてたの?」
「あぁ。ホルス様はあそこに。」
僕の手に絡まってきた掌はノヴァのもので、声を掛けられてやっと部屋が暖かい事に気が付いた。
ノヴァが指さす方にはふかふかの布が詰められた籠があり、そこに小さいドラゴンの姿のホルス様が気持ち良さそうに眠っていた。
「寝るか?」
「うん。」
僕が報告書を書き終えるのを待ってくれていたらしいノヴァの問いかけに申し訳ないと思いつつも嬉しくて、僕の掌から離れていった手が再び僕に差し伸べられたので、今度はその手に僕が手を絡ませる。
一緒にベッドの中に入り毛布をしっかり被って二人隙間が無いくらいくっつく。
僕より体の大きなノヴァが僕を隠すように包み込んで寝るので、それが凄く心地良くて僕はいっつもすぐに眠りについてしまう。
でも今日は…
「ノヴァ…ありがとぉ。」
「っふ…おやすみ。」
「ん。」
報告が終わるまで待っててくれたこととか、僕の行動の手助けをしてくれたりとか…いつも甘えちゃうけど、それは当たり前のことじゃないって分かっているからお礼はちゃんと伝えたい。
ノヴァに頭を優しく撫でられて、僕は今度こそ睡魔に抗うことなく夢の世界に飛び込んだ。
312
【お知らせ】登場人物を更新しました。世界観など設定を公開しました。(R6.1.30)
お気に入りに追加
3,259
あなたにおすすめの小説


美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です


金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる