王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰

文字の大きさ
上 下
306 / 398
第4章

怒るホルス様

しおりを挟む
突如ガーネットを包み込んだ黒い炎と苦しむレッドドラゴンの姿。


救助しようにも黒い炎とガーネット自身から放たれる熱波で近づけないどころか、ノヴァに抱えられて僕達はククちゃんが再び造ってくれた氷壁の後ろに下がることしかできない。



「一体何が…」

「あの黒い炎…あれは…」


『ノワールが怒ったのよ。』



戸惑う僕達と黒い炎を冷静に分析するラプラス様にククちゃんが黒い炎の正体を教えてくれた。

ぱっと遥か上にあるククちゃんの顔を見上げると鼻からプスーっと深いため息を吐き出していてあきれ果てた様子。



『ノワール様が怒った!怖い怖い!!』


パタパタと半泣きで飛んできたパンがククちゃんのお腹の内側に隠れる。





改めてガーネットが居る所へ視線を向けると丁度ホルス様が人型からドラゴンの姿へと変わったところで、ドラゴンの姿となったホルス様からは強い怒りの圧を感じる。

耐性のなかった数名の護衛が立っていられなくて地面に片膝をつくくらいの強い圧だ。


こんなに怒っているホルス様を始めて見たけれど、僕は不思議とホルス様から放たれる圧に恐怖は抱かず、むしろ珍しく怒っているホルス様の姿に見惚れている。




だって黒い鱗が爛々と輝き、低く唸る素敵な鳴き声、それからホルス様から放たれる黒い色の炎はユラユラと揺れていて格好いい!の一言につきる!






「ルナイス、見惚れているところ悪いがこのままではあのレッドドラゴンと子供が消し炭になるどころか此処ら一体が火の海と化しそうだ。」


「っは!」



見惚れてうっとりとしていた僕は、ノヴァに両頬を掌で挟まれて現状のやばさを理解した。

しかし何がきっかけでホルス様があのように激怒されているのか分からない為、ホルス様を宥める言葉が見つからない。


ホルス様の言葉を聞こうにも怒っているホルス様からは皆と同じような唸り声しか聞こない。





『恐らくルナイスに怪我を負わせたうえに、ルナイスに怒鳴ったことで堪忍袋の緒が切れたのだろう。危ないからそこから出ない方がいいわ。』


ククちゃんの言葉になるほどっと頷く僕の心は舞い上がっている。

龍神の愛子であることを覗いてもホルス様は僕をすごく大切に思ってくれていると感じていたけれど、こうして僕の為に怒っている姿を見ると胸がきゅんっとするのと同時に凄く安心する。



性格悪いなって自分でも思うけれど、嬉しいって思う気持ちがどうしても湧いてくるんだから仕方ない。

僕はそういう人間なのだ。




それにそういう人間であっても、そんな僕の感情を美しいと言ってくれた方だっている。

そういう人間って分かっていても僕を愛してくれる夫がいる。






僕の為に怒るホルス様を見ていたい気持ちはあるのだけど、そろそろ止めないと本当にやばい。

ククちゃんはどうでもいいって感じですけど僕達はそうはいかない。

ラプラス様はドラゴン同士の争いに夢中で土地への被害に目がいってないようだけど…




『ホルス様…ホルス様…ホルス様?』


『………どうしたルナイス。』



いつもなら直ぐに呼びかけに答えてくれるんだけど、今は中々答えてくれなくて不安になってきた3回目の呼びかけでやっとホルス様から言葉が返ってきてほっとする。




『怒ってくれてるのはすごく嬉しいんです。けど、このままだとここら辺の地が炭になっちゃってちょっと困ったことになりそうです。』


『……少し冷静になって来よう。』




僕の呼びかけにホルス様はそう言って、空高く飛んで行ってしまった。


地にはペタリと横たわる弱った紅いドラゴンと無傷な卵が見えて、怒っていて理性が少し飛んでいても子供を傷つけなかったホルス様の優しさにほっこりとする。






「ホルス様、大丈夫かなぁ?」


「ホルス様よりレッドドラゴンが弱り切っているが…ルナイス、ホルス様はどこへ?」


「なんか冷静になって来るって。」


「なら大丈夫だろう。落ち着いた頃に戻ってきてくれる。」




心配でホルス様が飛んで行った方をじっと見つめる僕の頭を励ますようにぽんぽんとノヴァが撫でてくれて、ククちゃんも心配はいらないと言ってくれたので、気持ちを現場に戻します。



弱ったガーネットをこのままにはしておけないし、卵もこのままではいけない。

どうにか火山付近へ戻ってもらわないと。






しおりを挟む
【お知らせ】登場人物を更新しました。世界観など設定を公開しました。(R6.1.30)
感想 42

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません

りまり
BL
 公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。  自由とは名ばかりの放置子だ。  兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。  色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。  それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。  隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

処理中です...