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第4章
ノルデン領の名産品
しおりを挟む準備が整い、僕達は使用人の案内の元ノルデン邸から出た広い草原地に来ている。
ホルス様がふわっと浮いてピカっと光った次の瞬間に大きな黒いドラゴンの姿へと変わった。
『では、何かあれば我の名を呼ぶといい。』
ホルス様はそう言うとビュンっと力強く羽ばたき瞬く間に空の彼方へと飛んで行った。
漆黒の大きなドラゴンは何度見ても恰好良く、惚れ惚れする。
ホルス様を見送ってノルデン邸へ戻った所でオスカル君の準備が整ったようなので、そのまま出発することにした。
半日では見て回れないので今日は食に関する場所へ案内をしてくれるとのこと。
よかった。
何かぶつぶつと言っている場所が訓練員体験みたいになりそうって心配だったのだけど、想像していたよりずっとましな観光になりそう。
「先程黒く輝くドラゴンが飛び立つのが見えました。」
馬車に揺られながらテトラ君が少し興奮気味に言う。
「ホルス様はドラゴンの姿も人の姿もどちらも最高に恰好良い。」
「はい。とっても格好良くて見惚れていました。」
二人でホルス様の恰好良さについてわかるわかると話していると最初の目的地にたどり着いたみたいで、ノヴァにエスコートされて降りた先には白い建物があり、出入り口の辺りで緊張した面持ちの人数名が立っていた。
「本日は急な依頼を快く引き受けてくれてありがとうございます。」
先に下りていたオスカル君がその人達にそう言うと代表者らしき人が一歩前に出て、深く頭を下げた。
お店の人達に促されてお店の中に入ると色とりどりのお花が天井から吊るされていて、沢山の種類の花があるのに匂いが全然喧嘩してなくて、用意された席は白い艶やかな生地に紫と紅と碧色の花が刺繍されたクロスが机に掛けられていた。
僕達の瞳の色の刺繍がされたクロス何て偶々あるわけもないので、大至急で用意してくれたものだろう。
「とても素敵なクロスですね。」
この素晴らしいおもてなしについて触れないわけにはいかないと、傍で緊張しながらも給仕についてくれているお店の方に声をかけると「ひぇ!」と奇声を発しながらも「身に余るお言葉でございます!」と勢いよく頭を下げながら答えてくれた。
緊張しているのは分かるのだけど、ちょっと貴族相手には危ない反応をする人でこっちがドキドキする。
幸いにも顔を顰めるのは僕達の使用人や護衛の一部だけで、酷く咎めるような人はいなかったけれど場の微妙な雰囲気を感じ取った責任者だろう人が慌てた様子でやって来て僕達に礼を取った後、彼を引きずって見えない所に引っ込んでいった。
苦笑いをする僕達の元へ、先ほどの彼を引きずって行った責任者ぽい人が料理を持って再び現れた。
「ノルデン領名産のフワーラの前菜でございます。」
机の上に並べられた綺麗な食に思わず「きれぇ」という声が口からこぼれた。
フワーラは綿毛のような植物で、甘味のあるお花だ。
ノルデン領は花の名産地で、綺麗なお花が数多く育てられていて、その中の半分ほどは食べられるお花なのだ。
友好国からもよく観光で足を運ぶ地で、美しいと評判。
なので、良く治安を乱す輩が現れるのだけどノルデン家はオスカル君のように好戦的な人が多いお家で、治安を乱す輩が居ると嬉々として駆け付けて縛り上げるのでも有名だ。
お皿の上にある白いフワーラには青や紫色のソースがかけられていて、一種の作品のよう。
壊すのがもったいないが、心を決めて一口。
「おいしぃ。」
「ふふ、よかった。このお店は見た目はもちろん、味にもしっかりと拘っているので何時かルナイス様には食べてもらいたいと思っていたのです。」
あまりの美味しさについにんまりとしてしまった僕にオスカル君が満足そうに笑う。
「ノヴァ様はいかがですか?」
「…正直今までに食べたことのない食感で戸惑いの方が大きいです。」
「ふふ、ですよね。フワーラはあまり領地外には出さないようにしているのでこの食感は此処でしか味わえないですから。」
ノヴァの正直な感想にも嬉しそうに笑うオスカル君。
価値を高めるために領地外に出さない名産品は多くある。
領地の外で食べようと思ったらそれなりのお金を用意しないといけない。
王族は偶に献上品としてその名産品が入ってくるようだけど。
その後も食べられるお花を使った料理が3品ほど出て、全て美味しく頂いた。
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