上 下
195 / 351
第3章

欲望は美学

しおりを挟む


3時間後


「そろそろ教えられることもなくなりましたし、ノヴァの訓練は一旦終了しましょう。ルナイス殿、対価をいただけますか?」


スパルタなマルコシアスさんの指導の下、ノヴァは空間魔法を展開できるようにはなったけれどまだ裂けめも小さく、中に入れた物を自由自在に出し入れすることはできないままマルコシアスさんの言葉によって訓練は強制終了。


と言っても、3時間ほとんど休憩なしでやって、もう教えられることもなくなったってことは後はコツを掴んで自分に合わせて改良していくだけの状態になったのだからやっぱりノヴァは凄い。









メルナを呼んで、汗だくになったノヴァを浴室に連れて行ってもらい僕はお話をする為にマルコシアスさんを談話室へお招きした。



「早速ですが、僕は自分の魂が歪だって自覚もないので…これかなぁって心当たりくらいしかお話できませんけど。」


「それで良いのです。大体の予測は立てているので。」




後から言うのはちょっとずるかったかなっと思ったけどマルコシアスさんは全然気にした様子もなく、寧ろ楽しそうに笑った。


僕の話で盛り上がる上位悪魔達に何だか複雑な気持ちだ。







「僕が思い当たる大きな原因は前世の記憶…というか、人格、というか…そういうのが僕の中にあるから魂の形が他の人とは違うのかなっと思います。」



「ほぅ。やはりそうでしたか。前世の記憶を持って転生をする者は稀に居るのでその可能性は高いと予測しておりました。…只…そうですね…前世の貴方はどういう人間だったのですか?」




マルコシアスさんの反応から前世の記憶持ちってわりと珍しいことでもないのかもっと思う。




マルコシアスさんの問いにんーっと腕を組んで今は少しずつ薄れてきている前世の記憶を思い起こす。





「…今とあまり変わらないと思います。愛されることに貪欲な人間なのだと思います。昔と違うのは、そんな僕の求める愛を与えてくれる人が居るかいないか……前世の僕の近くにはいなかった。」



「愛…ですか。」



「痛い奴って自覚は前世からありますよ?…でもずっと寂しいって気持ちがなくならなかった。ずっとずっと寂しくて…早く僕を終わりにしたいって思ってました。」




「なるほど…あなたの魂が歪な理由は転生者だからという理由だけではやはりないようですね。人間は欲を公にすることを嫌いますが、欲望はどの生物も持っているものです。生きる為に欲望は必要なものですし、強い欲があるということは生きている証拠です。我等のような悪魔そんざいは寧ろ欲望に忠実であることが美学ですし。前世の貴方も今の貴方も痛い奴とは思いません。それが生き物として当たり前です。」





マルコシアスさんの言葉にぱっと内心感じていた恥ずかしさから俯けていた顔を上げ、マルコシアスさんに視線を向ければ、彼は凄く綺麗に微笑んでいた。

先ほどのマルコシアスさんの言葉に前世から感じていた自分の自分に対する羞恥心が少し消えたような気がした。







「ふふ、私が今まで見て来た人間で死ぬまで何の欲も持たず死んだ者などいません。」


笑って言うマルコシアスさんは、決して僕を慰めようと思って言っているわけじゃないのだと本当に可笑しそうに笑う姿から分かる。

彼にとっては常識であって、それを恥ずかしがって必死に隠そうとする姿が唯々面白いのだろう。









「マルコシアスさんとお話できてよかったです。」



「こちらこそ。ぜひ来世は魔界で生まれ変わってくださいね。」




しばらく前世のことをお話して、帰るマルコシアスさんを見送る際にそんなことを言われて声を上げて笑った。



話の最後にマルコシアスさんは

「貴方は悪魔の方が向いているかもしれませんね。」と言っていて、冗談だと思っていたのだけど、どうやら彼にとってあの言葉は本気だったようだ。






一瞬にして談話室から消えたマルコシアスさんを見送って悪魔になった自分を想像してまた笑えてきた。






「ルナイス?マルコシアス殿は帰ったか?」


お風呂にしては長かったので、気を遣ったのだろうノヴァが顔を覗かせて、笑っている僕を不思議そうに見ている。



「うん。マルコシアスさんがね、来世は悪魔になるといいよって。」


「それは…あまりおすすめはしない。」


「あはは!」




何だか心がヘドロが少し取れたような爽快感を感じている僕は何時もより笑った。


そんな僕にノヴァは不思議そうに首を傾げたけど、僕が楽しいならいいって笑ってくれて、やっぱりノヴァが好きだなっと自分がノヴァに向ける感情を再確認した。




しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

泣かないで、悪魔の子

はなげ
BL
悪魔の子と厭われ婚約破棄までされた俺が、久しぶりに再会した元婚約者(皇太子殿下)に何故か執着されています!? みたいな話です。 雪のように白い肌、血のように紅い目。 悪魔と同じ特徴を持つファーシルは、家族から「悪魔の子」と呼ばれ厭われていた。 婚約者であるアルヴァだけが普通に接してくれていたが、アルヴァと距離を詰めていく少女マリッサに嫉妬し、ファーシルは嫌がらせをするように。 ある日、マリッサが聖女だと判明すると、とある事件をきっかけにアルヴァと婚約破棄することになり――。 第1章はBL要素とても薄いです。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

婚約破棄された王子は地の果てに眠る

白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。 そして彼を取り巻く人々の想いのお話。 ■□■ R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。 ■□■ ※タイトルの通り死にネタです。 ※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

ギャルゲー主人公に狙われてます

白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

処理中です...