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第3章
欲望は美学
しおりを挟む3時間後
「そろそろ教えられることもなくなりましたし、ノヴァの訓練は一旦終了しましょう。ルナイス殿、対価をいただけますか?」
スパルタなマルコシアスさんの指導の下、ノヴァは空間魔法を展開できるようにはなったけれどまだ裂けめも小さく、中に入れた物を自由自在に出し入れすることはできないままマルコシアスさんの言葉によって訓練は強制終了。
と言っても、3時間ほとんど休憩なしでやって、もう教えられることもなくなったってことは後はコツを掴んで自分に合わせて改良していくだけの状態になったのだからやっぱりノヴァは凄い。
メルナを呼んで、汗だくになったノヴァを浴室に連れて行ってもらい僕はお話をする為にマルコシアスさんを談話室へお招きした。
「早速ですが、僕は自分の魂が歪だって自覚もないので…これかなぁって心当たりくらいしかお話できませんけど。」
「それで良いのです。大体の予測は立てているので。」
後から言うのはちょっとずるかったかなっと思ったけどマルコシアスさんは全然気にした様子もなく、寧ろ楽しそうに笑った。
僕の話で盛り上がる上位悪魔達に何だか複雑な気持ちだ。
「僕が思い当たる大きな原因は前世の記憶…というか、人格、というか…そういうのが僕の中にあるから魂の形が他の人とは違うのかなっと思います。」
「ほぅ。やはりそうでしたか。前世の記憶を持って転生をする者は稀に居るのでその可能性は高いと予測しておりました。…只…そうですね…前世の貴方はどういう人間だったのですか?」
マルコシアスさんの反応から前世の記憶持ちってわりと珍しいことでもないのかもっと思う。
マルコシアスさんの問いにんーっと腕を組んで今は少しずつ薄れてきている前世の記憶を思い起こす。
「…今とあまり変わらないと思います。愛されることに貪欲な人間なのだと思います。昔と違うのは、そんな僕の求める愛を与えてくれる人が居るかいないか……前世の僕の近くにはいなかった。」
「愛…ですか。」
「痛い奴って自覚は前世からありますよ?…でもずっと寂しいって気持ちがなくならなかった。ずっとずっと寂しくて…早く僕を終わりにしたいって思ってました。」
「なるほど…あなたの魂が歪な理由は転生者だからという理由だけではやはりないようですね。人間は欲を公にすることを嫌いますが、欲望はどの生物も持っているものです。生きる為に欲望は必要なものですし、強い欲があるということは生きている証拠です。我等のような悪魔は寧ろ欲望に忠実であることが美学ですし。前世の貴方も今の貴方も痛い奴とは思いません。それが生き物として当たり前です。」
マルコシアスさんの言葉にぱっと内心感じていた恥ずかしさから俯けていた顔を上げ、マルコシアスさんに視線を向ければ、彼は凄く綺麗に微笑んでいた。
先ほどのマルコシアスさんの言葉に前世から感じていた自分の自分に対する羞恥心が少し消えたような気がした。
「ふふ、私が今まで見て来た人間で死ぬまで何の欲も持たず死んだ者などいません。」
笑って言うマルコシアスさんは、決して僕を慰めようと思って言っているわけじゃないのだと本当に可笑しそうに笑う姿から分かる。
彼にとっては常識であって、それを恥ずかしがって必死に隠そうとする姿が唯々面白いのだろう。
「マルコシアスさんとお話できてよかったです。」
「こちらこそ。ぜひ来世は魔界で生まれ変わってくださいね。」
しばらく前世のことをお話して、帰るマルコシアスさんを見送る際にそんなことを言われて声を上げて笑った。
話の最後にマルコシアスさんは
「貴方は悪魔の方が向いているかもしれませんね。」と言っていて、冗談だと思っていたのだけど、どうやら彼にとってあの言葉は本気だったようだ。
一瞬にして談話室から消えたマルコシアスさんを見送って悪魔になった自分を想像してまた笑えてきた。
「ルナイス?マルコシアス殿は帰ったか?」
お風呂にしては長かったので、気を遣ったのだろうノヴァが顔を覗かせて、笑っている僕を不思議そうに見ている。
「うん。マルコシアスさんがね、来世は悪魔になるといいよって。」
「それは…あまりおすすめはしない。」
「あはは!」
何だか心がヘドロが少し取れたような爽快感を感じている僕は何時もより笑った。
そんな僕にノヴァは不思議そうに首を傾げたけど、僕が楽しいならいいって笑ってくれて、やっぱりノヴァが好きだなっと自分がノヴァに向ける感情を再確認した。
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