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第1章
母の愛
しおりを挟むあれから指切りについて覚えている限りの情報を話し、とーさまと指切りげんまんした。
最後にぽそりと「使えるかもな」ととーさまが呟いた不穏なお言葉は聞かなかったことにする。
指切りの話にひとまず満足したらしいとーさまを見てにぃ様が僕に話をかけてきた。
「話を戻すけど、昔のルナイスについてもう少し詳しくにいてもいいか?」
そう言われて
家族構成は母、父、弟がいたこと。
弟とは仲は悪くなかったけど、僕が両親と相性が悪かったせいもあってなんとなく気まずかったこと
18歳まで生きてて、特別仲のいい友人や恋人は居らず淡々と代わり映えのない生活を送り最後は一人暮らしを初めてすぐに事故によって死亡しただろうこと。
そして言うか言うまいか悩んだけど、死ぬ間際に僕は安堵したことを話した。
夢中で話し、そしてとーさまとにぃ様の反応が怖くて俯けていた顔を話し終えて数秒後、あげた時に驚いて怖い気持ちが吹っ飛んだ。
なんと
なんと、とーさまもにぃ様も涙を流していた。
驚き固まる僕を見てとーさまはそっと僕を抱き寄せ、にぃ様は頭を優しく撫ぜてくれた。
「ルナイス、今度はこの世でうまれてからの気持ちを聞かせてくれないか。」
にぃ様の言葉に頷いて、今度はとーさまの暖かい体に包まれてルナイスとして産まれてきた時のことから話す。
ただ、前世の記憶よりも新しいはずの小さい頃の記憶はぼやっとしてて、全部をお話することは出来なかった。
産まれた時には昔の記憶があったこと
昔の僕の記憶とルナイスとしての僕のちぐはぐな気持ち。
そして前世の記憶があったからこそ、母が僕が生まれてしまったことで帰らぬ人となってしまったことを理解していたこと。
「とーさま、にぃ様…ごめんなさぃ。」
話してるうちに、昔よりも堪らなく悲しくそして申し訳なくて2人に頭を下げて謝罪をする。
前にとーさまが母が亡くなったのは僕のせいなんかでは決してないのだと言ってくれたことはきちんと覚えている。
でも、やっぱり僕が生まれてきたことで2人から母を、愛する人を奪ってしまった事実は真実だ。
僕が生まれてこなければ…母も2人にも違った未来…もっと素敵で幸せな未来があったのではないかと考えると胸が苦しくて、消えてしまいたくなる。
「ルナイス…そんな小さな時から母を失った悲しみを抱えていたんだな。」
とーさまは悲しそうなお顔で再び僕を強く抱き締めた。
母を失った悲しみと言えるのか分からないけど、僕を強く抱きしめるとーさまの温もりにじわりと目が熱くなる。
「父上も僕もルナイスを産むことを反対してた。」
にぃ様は申し訳なさそうな、悲しそうなお顔でそう言った。
とーさまも顔を顰めているけど、当たり前のことだと思う。
だって僕みたいに魔力が膨大でない子供だったら母は死なずに済んだはずだ。
僕を産まなくても、また頑張れば魔力の多くない子供ができたかもしれない。
無理に僕を産む必要はなかったんだ。
「でも母上は必ず産むと悩むことなく最後まで言っていた。この子はこの世に生まれてきて生きて幸せだと思わないといけないんだって……どーしてそこまでって思っていたけど、ルナイスの話を聞いて分かった。母上はこの世界でルナイスに生きていたいって思わせたかったんだと思う。」
話しながらにぃ様は母を思い出したのか目を潤ませて、声も震えていた。
ガチャ
「アリア様はルナイス様を産んだ後、ルナイス様を胸に抱き息を引き取った。」
突然部屋に入ってきたウーは僕を見ながら話し出した。
恐らく部屋の外で話が聞こえていたのだろう。
「ルナイス様、アリア様は息を引き取る前に貴方にこう声をかけられた。『産まれてよかったっていつか私に言いに来なさい』と。」
目を逸らされることなく教えられた母の最初で最後の僕への言葉。
涙を堪えることもできず、次から次へと涙がこぼれ落ちてくる。
漏れ出す声も我慢できないくらい胸が熱くて、悲しくて、苦しくて、堪らないほどに感じた母からの愛に…母が傍に居ないことを初めて心から悲しく思った。
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