王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰

文字の大きさ
上 下
54 / 398
第1章

過去の僕の小話

しおりを挟む

僕は泣きながらノヴァに抱えられ、そんな体制で昔の僕のことを話した。


_____



僕は他人が自分へ向ける感情に敏感だったと思う。


だから僕は両親が僕を好いていないことも分かっていたし、友人達の中で僕という存在がそんな大きなものでないことも分かっていた。

周りと考え方が合わないことが多くて、「変な子」とよく言われて育った。




実家から離れて一人暮らしをすることになった時、やっと両親から離れられると安堵した。

もう鬱陶しそうな顔で見られたくなかった。
容赦のない言葉に胸を抉られたくなかった。
無視をされて自分が生きているのか疑いたくなかった。



でも、一人暮らしをすると両親に告げた時…出て行ってくれるなら金を出すと言われて悲しんでいる自分がいることに絶望した。




別に引き留めて欲しかった訳じゃない。

分かっていた。
「変な子」な僕を育てることを両親が悩んでいたこと…。

僕と一緒に外を歩くことを恥じていたこと。



だって両親は覚えていなかったけど、両親は僕に言った。



「死んでくれたらいいのに。」




って。










確かに言ったんだ。












両親だけじゃない。
生きていた中でクラスメイトにも言われたことが何度かある。

ふざけて出た言葉じゃない。


まるで汚物を見るような目で僕を見て、心の底から思って出た言葉だった。




僕は僕が死んで悲しむ人は知らないけど…僕が死んで笑う人間は知っている。

悲しいとか、そういうんじゃない。



只々…惨めだった。

僕という人生に疲れ切っていた。

早く終わればいいと思ってた。




あの日…


僕は向かってくる車に「あぁ、やっとか」って思った。


やっと…



やっと愛されない僕が終わることに安堵した。




____________






つまらない僕の話をノヴァは最後まで僕の頭を撫でながら黙って聞いてくれた。


僕が僕の話をしたから、人によっては悲劇のヒロインぶった話だと思う人もいるだろう。
被害妄想が激しいだとか、そんなことでって鼻で笑う人もいるだろう。

自分でも訳の分からない変な期待をノヴァにしてしまっていたことに自嘲した。



「ルナイス。お前に私はどんな人間に見えてる?」


「え?」



ノヴァは苦笑いのような、悲しそうな…なんとも言えない表情をしている。




「私はルナイスを蔑んだ目で見るような人間か?ルナイスの死を笑う人間か?」


「…ううん。」


ノヴァはルナイスの死を笑うような人間じゃない。
ルナイスを汚物を見るような目で見下した事は1度もない。

いつも優しい目で見守ってくれて、魔法を丁寧に教えてくれる。



でも…


でもそれはルナイスだから。



でもルナイスは僕だから。

だから余計な事は言わないでおこう。

ノヴァは僕の事を大切に思ってくれているんだって教えようとしてるんだと思う。


だから…




「昔の君と今の君の違いはなんだ?」


「違い?」



「考え方が大きく違うか?性格が真逆か?」



言われてみて、自分が昔の自分と今のルナイスを切り離して考えていたけれど、根本的な自分は同じものだと気がつく。

別の人生で生きる世界も違うけど、僕は相変わらず他者が自分に向ける感情に敏感だし、面倒臭がりで生きる気力が湧かないでいる。



「ルナイスとしてこの世界に生まれてくる前のお前のことはどう足掻いてもどうすることもできない。だが、今私の前にいる君に私は一緒に生きていて欲しいと思っている。それに外見は違えど昔の君とルナイスが別人には思えん。つまりだ…私は昔の君も好きだということだ。」


ちょっと照れくさそうにしながらも一生懸命僕に伝えてくれるノヴァに瞼と喉がカーッと熱くなる。

ノヴァはそんな僕を頬を赤くしながらもそっと、でも力強く抱きしめてくれて…何だか昔の僕と今の僕がやっとひとつになれた気がした。




しおりを挟む
【お知らせ】登場人物を更新しました。世界観など設定を公開しました。(R6.1.30)
感想 42

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません

りまり
BL
 公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。  自由とは名ばかりの放置子だ。  兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。  色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。  それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。  隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

処理中です...