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第1章

僕のしるし

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僕は部屋に置かれた小さな血桜をとても気に入って、庭師にアドバイスをもらいながら大切に育てている。


僕の持ち物に一目見て僕の!って分かるマークを付けるのもいいかもしれない、と思って紙にドラゴンと血桜の絵を描いてばぁやに見せた。

ばぁやはすぐに僕の小さな鞄にドラゴンと血桜の僕がデザインしたマークを刺繍してくれた。


嬉しくてどこにも出かける用事もないのに鞄をかけてユエ(ドラゴンのぬいぐるみ)も抱えて家中をうろちょろ歩いてしまう。
使用人達は微笑ましそうに僕を見守ってくれている。




ウロウロ ウロウロしているととーさまの書斎近くでワイアットに出会った。


「ワイアット、みて!」

ちょっと自慢するようにワイアットに刺繍をしてもらった鞄を見せる。


「ドラゴンと血桜ですか、とてもよい刺繍ですね。」

褒められてついつい胸をはっちゃう。




「当主様にもぜひ見せてあげてください。」

ワイアットに言われてとーさまが今日はお家でお仕事の日だと知る。

書斎の中に誘われてちょっと忍び足で中に足を踏み入れる。


とーさまは休憩中なのかソファの背凭れにのけぞって重たい溜息を吐き出していた。

この頃僕のこともあって忙しくしているとーさまの顔色は悪い日が多い。







罪悪感。






「ルナイス?」


とーさまのお疲れの原因になっている自分を改めて自覚して俯いていると優しい声に名前を呼ばれた。


「…とーさま。」


「どうした。」



小さい声でついとーさまを呼ぶととーさまはソファから立ち上がって僕の所まで来て、すっと僕を抱き上げた。





「…ルナイス、その鞄は?」

とーさまが僕が肩から斜めに下げている鞄に気が付いて聞いてきて、そう言えばワイアットにとーさまに見せてあげてっと言われていたのだったと思い出す。


「これ…ばぁやにぬってもらいました。」

何だか勝手に気まずい僕はそう言って控えめにとーさまに鞄に縫ってもらった刺繍を見せる。





「僕のってしるし、です。」


「なるほど。ドラゴンと血桜か。良い印を考えたな。」



とーさまはうむって大きく頷いて僕の考えたマークを褒めてくれた。

今まではニコニコ笑って微笑ましそうに褒められていたけど、とーさまは違う。
お顔が真剣だ。

とーさまは真剣にしるしを良いと褒めてくれている。

そのことが思いのほか嬉しくてとーさまにぎゅっと抱き着いてしまった。






「とーさま…ごめんなさい。」


「なにがだ。」



「僕のせい…忙しくさせて、ごめんなさい。」




僕の突然の謝罪にとーさまは困惑顔。

何でごめんなさいなのかを伝えるととーさまは「あぁ」とため息に似た声を漏らした。





「ルナイスのせいではない。私が疲れているのは害虫共のせいだ。」


「がいちゅー?」


僕が首を傾げると、とーさまは突然僕の首のところに顔を埋めてぐりぐりっとしてきた。

くすぐったくてついクスクスと笑い声が零れちゃう。




「もうすぐ休みがとれる予定だ。アドルファスとも一緒に少し出かけるか。」

ふぅっと僕の首元から顔を離したとーさまの言葉に強く頷いて見せた。


とーさまとにぃ様お二人一緒には滅多にない。
この機会を逃してしまえば、次があるかも分からない。

何度も頷く僕にとーさまは笑って「もういい、分かったから」と額にキスを送ってくれた。



その後は部屋で愛でている血桜のお話や僕のドラゴン、ユエがばぁやの手によって洗われてしまった悲劇のお話をした。

ある時、お昼寝から目が覚めた僕の腕の中にユエがいなくて探し回って部屋に入ってきたばぁやに半泣きでユエがいないと伝えると汚れが目立ってきたから洗ったと言われた衝撃たるや。


慌ててユエを返してと言う僕にばぁやは手洗いをしたから大丈夫だなんて見当違いなことを言うから、部屋を飛び出していつも使用人達が洗濯物をしている場所に走り、そして見つけたのは紐と紐の間の網の上に干されたユエの姿。




急いでユエを救出しようとしたけれど、悲しいことに身長が足りなくてぴょんぴょん跳ねて手を伸ばす僕をどこからか現れたコルダが抱き上げた。
ユエを救出するのを手伝ってくれるのだと思ったけど、コルダはユエと僕を引き離しユエは濡れているから日光浴をさせてあげないと、っと説得された。



冷静になった頭で考えればどんなに大切に扱っていてもユエは確かに汚れていたし、きちんと網の上に寝かされていて、吊るされていないのだから安心だし、手洗いをしてくれたばぁやにはきちんとお礼を言わないといけない。



寝起きに突然ユエがいなくなっていたことがショックで、つい取り乱してしまったけど僕は部屋に戻ってばぁやにユエが日光浴を終えたらすぐに僕のところに連れて帰ってきてねっと伝えて仲直りのぎゅっをした。



とーさまはそんな話をきちんと聞いてくれて、ワイアットがそろそろ仕事を再開しますよっと言いに来るまでとーさまと色んなお話をした。







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