良い子【短編】

薄明 喰

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ぴちょんと水上に跳ねた魚に目を奪われる。


透明度の高い水に足をつけてみたい気持ちになった。




「あーくん。あの…」


「ん?あぁ…そうだな。休憩にしようか。」


少し前を歩いていたあーくんの服の裾をくいくいっと引っ張って休憩をしませんかと提案したかったのだが上手く言葉が紡げなくて…


でも、あーくんは僕が言いたいことが分かってくれて、笑って近くの安全そうな場所に荷物を下ろしてくれた。

僕もあの大きな荷物を少しでも持てたらいいのだけど…


非力すぎて逆に足手まとい。





テキパキと野営の準備をするあーくんに洗濯をしてくるねっと告げて川へ近づく。

後ろでクスクスと笑うあーくんの声が聞こえてきてちょっと恥ずかしい。









安全そうな浅瀬の所でまずは川の観察。

濁りのない綺麗な水で、気持ち良さそうに泳ぐ川魚達が沢山いる。






服に石鹸液をつけて川から水を汲み取り服にかけて、ごしごしと擦るとたちまち服が泡まみれになる。

ぐちゅぐちゅと揉み込んで、汚れがしっかり泡に浮かんできたところで川に簡単な魔法陣がついた籠をつけてそこに泡まみれの服を入れると泡が取れお洗濯完了。


流れた泡は籠の中で綺麗な水になって川に戻る。



水をぎゅーっと絞って、パンパンっと皺を伸ばしあーくんの所へ持って行く。






「あーくん。お願いします。」


「はい。洗濯ありがとう。」


「ふふ…どういたしまして!」




服を乾かすのはいつもあーくんにお願いする。

あーくんは魔法が使えて、濡れた服も直ぐに乾かせちゃう。


出来ることが少ない役立たずの僕だけど、何かをするといつもあーくんは「ありがとう」って言ってくれる。




その言葉がいつも嬉しくてニマニマと笑ってしまうんだけど

そんな僕を見て、あーくんもニコニコ笑ってくれるからわー!って叫びたい気持ちになる。










あーくんが乾かしてくれた服を綺麗に畳んで、鞄の中に仕舞い、次に料理をするあーくんに変わって火の番をする。


あーくんが作った火を絶やさないように落ちてる木の枝を拾って継ぎ足す。



少し離れた茂みの所から小動物達が匂いにつられてやって来るけど、彼等が僕達に近づいたことは何故か一度もない。
興味はあるけど、警戒しまくってます!って感じだ。





「お待たせ。ヤト。」


今回も近づいて来ない動物達をぼーっと見ていると、料理を終えたあーくんが僕の前の前に料理を並べてからすぐ横に腰を下ろす。

僕もあーくんもお尻の下にふわふわのクッションを地面に敷いているから痛くない。





「いただきます。」

食べる前の挨拶をしてあーくんが作ってくれた最高に美味しいご飯を口へ運ぶ。


あーくんは野営食だから街の飲食店で食べるご飯の方が美味しいって言うけれど
僕はあーくんが作ってくれるご飯が大好きだ。




昔はあんまり食べることもできなかったし

役に立っていないのに、こうしてご飯を与えて貰えるだけで僕はお腹も心もいっぱい。





「ん?…あ…あーくん。僕のお米の中にお肉入ってます!!」


「ふはっ!気づいたか?ヤトが洗濯してくれてる間に獲物が獲れたんだ。」


「すごい!もったいない!飲み込めない!」


「ゆっくり噛んで食べなさい。」


「ん!」




丸い形にしたお米の塊の中にお肉を見つけ、興奮のあまりちょっと大きな声であーくんにお肉が入っていることをお知らせする。


干し肉はよく食べるけど、こんなに焼きたての柔らかいお肉は久しぶりだ!





あーくんに言われた通り、ゆっくり沢山噛んで食べて、ごちそうさまをしたらふわっと僕の体が浮いて
気づいたらあーくんの胡坐をかいた足の中に居た。


ちょっと汗ばんでいた体がすっきりしているから浄化魔法で綺麗にしてくれたのだと思う。



あーくんはやっぱり凄い人だ。








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