良い子【短編】

薄明 喰

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(アレク父side)



ボロボロの姿で突如目の前に現れた我が子の瞳は怒りの炎で揺れていた。


無理に転移陣を描いたのだろう

人差し指は削れ爪が剥げれ、血にまみれたそこに土や砂が付着している。








アレクは当主教育を本格的に行っていく前に司書として領地の隅も隅にある村がどんな所であるのかを見てもらうために新しく作り上げた図書館の司書として向かわせた。


そこで何があったのかは詳しく分からないが、恐らく報告で聞いていたあまり良い扱いを受けていない子に何かあったのだろう。





鬼気迫る顔で騎士を向かわせろと声を荒らげるアレクに急いで動ける騎士を集め、魔法士達の力で村へと転移をするが、緊急事態であっても国からの許可はどうしても必要で

村へ向かうまでに3日かかった。



その間、アレクは何度も1人で村へと向かおうとするのをまずは体を治せと半ば力づくで止めて

そして辿り着いた村で見たのは




無惨にも火に焼かれている子供の姿であった。












アレクが叫び

止めようとする私の手を考えられないほどの力で振り払い

村人たちをなぎ払い

苦手な水魔法を使い炎を消し縛られた木から離すが、子供はぐったりと力なく、とても生きているようには見えない。





体の大部分が焼かれ、爛れ、焦げ付いた肉の臭いと血の臭いは戦場でよく嗅ぐものと同じ…

騎士たちに指示を出しアレクの傍に寄るが、アレクは地面に横たえた子供に手を伸ばそうとして

しかし焼け爛れ、痛々しい体のどこに触れればよいのか分からずその手は空を彷徨う。





近くで見て

子供は既に死んでいると理解した。




辛うじて見える顔はけして穏やかとは言えず、長い間苦しんで死に至ったことが分かる。









間に合わなかった









誰もがそう思った















「早くそいつを殺せー!」


騎士たちに押さえつけられながらも村人の誰かが残酷な声をあげた瞬間、息子の、アレクの顔から表情が抜け落ちた。


それは親である私が見ても底知れぬ恐怖を感じるものであった。






「やめろアレク!」


そしてアレクがぶつぶつと呟きながら地面に子供の血で描く魔法陣を視界に捉え、理解した瞬間に止めようと声を荒らげたが

既に遅く










「ふはははははは!!!なーんて陰気で穢れた空気なんだ!最高だなぁ!」


アレク達のすぐそばに現れたのは恐ろしいほどの魔力を溢れさせた


悪魔





息子は禁忌を犯した。

悪魔召喚は非人道的で、代価が大きい。


故に禁忌とされた。




リスクのでかさをアレクはよく理解していたはずだ。

それでも悪魔召喚を行った。



それほどにアレクはこの目の前の現実が許せなかったのだ。









「それで?望みと代価は?」


「この子の蘇生を望む。代価はこの村の人間全て。それでも足りないならば俺の好きなところをもっていけ。」





悪魔から尋ねられた望みと代価に迷うことなく答えたアレクに唖然とする。

本来アレクは簡単に人の命を奪うような子ではない。



そんな子が、1人の子供を生き返らせるのに村人全員の命を対価とするだなんて…


「アレク!撤回しろ!」

「あはははははは!召喚の撤回はできないんだよ!…なるほど…これはなかなか惨たらしい殺し方をされたなぁ。魂さえも壊れかけてるなー。やっぱり人間てのは愚かで醜悪な生き物だなぁ。いいよ、いいよ!対価は村人全員の命!出血大サービスでお前からは対価を取らない。その子を蘇生したところでお前がいないんじゃあ意味がなさそうだしなぁ。」



私の叫びに悪魔がニヤリと厭らしく笑い


そして





バタ バタバタ バタ     バタ   バタバタ   



次々と何の前触れもなく倒れ、事切れていく村人たち。



私も騎士たちも

誰もそんな状況を止めることはできず



そしてあっけなく死にゆく村人たちを見て尚、冷えきった目をした息子アレクを止めることもできない。


「苦しまずに死ぬのか………」

「ぎゃはははは!!安心しろ。悪魔に喰われた魂は100年は苦痛に悶えるし転生することもできない。」



ぽつりと聞こえてきた息子の声にぞっとした。




死んでいく人達に罪悪感を覚えるどころか、アレクはバタバタと倒れていく様子に苦しまず死を迎えていることを不満に思っているのだと分かり言葉を失う。

そして、あんなアレクの言葉に笑い、答える悪魔に満足のいったように頷く様を見て、もう後戻りはできないのだと知る。







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