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プロローグ。

幽暗を切り裂く、それは歓喜の鶏鳴(こくずくな)。

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「……あ、しろうさぎさん、見えました。松明の灯りです」
「さすがリリパットちゃん、目が良くて助かります。では、スライムさん。ピクシーさんと一緒に練習してるゴブリンさん達にこの事を伝えて来てもらって良いですか?」
「う、うん……じゃなくて、はい、です!!」

「──でも、この作戦で本当に大丈夫なんでしょうか? ゴブリンさん達もピクシーさんと一緒に練習しているとはいえ…… 私、なんだか緊張して来ました……」

「リリパットちゃん。それならきっと大丈夫です。ゴブリンさん達は悩みがないのが悩みって私は言ったけれど、その悩みがないっていう弱点は、時に凄い力を生み出す強みにもなるんです」
「へ?」

「そう。悩みのないゴブリンさん達には不安もなければ迷いもない。だからきっとこの作戦は上手く行く──」

「うゔぁーーーーーー!!」

 暗い夜の森の中に響き渡る大きな咆哮。

「あ、しろうさぎさん、ゴブリンさん凄い勢いで走ってます」
「はい、そうですね」

「おい、こら、待て、逃げるなこのゴブリン野郎ーー!!」

「駆け出し冒険者さんも予定通り追いかけて来てますね」
「ですね。ここまでは順調です。では、リリパットちゃん、私達も行きましょう」
「はい」

 それからしろうさぎさんとリリパットちゃんは先回りすると森の中でぽっかりと丸く開けた空間、ピクシーさんの居る最終地点へと到着します。

「あ、うさぎ。リリパット。幸先はどんな感じだった?」
「はい。もう凄い勢いで走ってました。だから、予定通りです!」

 ……ちょん……ぷるんぷるん……

「そ。スライムからも一応は聞いていたけどリリパットもそう言うなら先ずは大丈夫そうね。じゃあ、あとは上手く此処へ駆け出し冒険者を誘導出来ればだけど……」

「あの、ところでピクシーさん、練習の方は……」
「ふ。うさぎそれは愚問ね、誰がコーチしたと思ってんのよ、完璧よ。な、お前達!」
「おおおーー!!」
「す、凄い一体感……」

「ゔぁゔぁゔぁゔぁゔぁーーーーーー!!」

「お、噂をすればなんとやら、ね……じゃあ、お前達、あとは練習の成果を存分に発揮してアイツらに目にモノ見せてやりなさい!!」
「おおおーー!!」

 そうしていつのまにかピクシーさんに手懐けられたゴブリンさん達は彼女の一声を皮切りにそれぞれ別方向に散りながら森の中へと消えて行ったのでした──

【ゴブリンさんvs駆け出し冒険者さん】

 ゴブリンさんの作戦①
 1箇所に集まらない。逆に相手を1箇所に集める。

「うゔぁゔぁ……ゔぁ……ゔぁ……(目的地、着いた、作戦通り)」

「……やっと大人しくなったか、あんまり面倒かけるなよ、ゴブリンのくせに」

 ゴブリンさんの作戦②
 真っ直ぐ立ち向かわない。みんなで囲む。

「……うゔぁ……(お疲れ)」
「……うゔぁゔぁ……(お疲れさま)」
「……うゔぁゔぁゔぁゔぁ……(あとはみんなで、ヤル)」

「……ま、まさか、これは、罠!? コイツら……クソっ、囲まれたっ!!」

 ゴブリンさんの作戦③
 夢中にならない。前に仲間がいる時は後ろで待つ。

「うゔぁーー(行くぞーー)」
「うゔぁ、うゔぁゔぁ。(前、いる、待つ)」

「だとしても、所詮ザコはザコ、まとめて片付けてやる!!」

 ゴブリンさんの作戦④
 無理もしない。ダメージを追ったら倒れる前に逃げる。(後ろのゴブリンさんと交代する)

「……うゔぁっ……ゔぁゔぁゔぁゔぁ……(傷、危ない、逃げる)」
「うゔぁゔぁゔぁゔぁーー!!(前、いない、叩く!!)」
 
「な、なんだよコイツら、この統率の取れた動き……だ、ダメだ、体力がもた……な、い」

 そして──

 ──パタン。

「ぎ、ぎぶあっぷ~……」

 そう言い残すと駆け出し冒険者さんはその場にうつ伏せになって倒れると気を失ってしまいます。その瞬間、ゴブリンさんvs駆け出し冒険者さんの戦いに終止符が打たれると、幽暗を切り裂く一際大きな、それは新たな鶏鳴けいめいを告げる歓喜の咆哮が響き渡ったのでした。

「ゔぁーーーー!!(やった、勝ったーー!! ボク達の進歩に怖さありーー!!)」

 そうしてそれから倒れた駆け出し冒険者さんをみんなで森の入り口まで運び送り届けると、その日は朝まで奇妙な『ゔぁゔぁゔぁ』という叫び声が森中に響き渡っていたのでした。
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