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修行……出来るかな?

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「クロス、居るか?」





彩美とアルフォレッドが帰った後、シェイルが訓練室の中に入る。

シェイルは部屋の中の光景を見ればピシリと固まった。



うっとりとし乙女の様に頬を赤らめて何かを考えてるクロス、クロスが相手してくれないのでロイドに八つ当たりしてるアリスとフィナ、八つ当たりされているはずなのに何故かにやけてるロイド。

シェイルは部屋に入りたくなくなった。







「(あの子は太ってたし魅力なかったと思うけど……)」





乙女化しているクロスを見ればいつもと様子が違うので不思議そうにしながらもクロスに近付いて行く。







「クロス?」





何度か声をかけてやればやっとクロスはシェイルの方を向いた。

シェイルが居るのに気付いたのか不機嫌そうに眉をひそめる。







「……何だ?」



「アヤミ・ファレスはどうだった?」







聞き方を間違えた、シェイルはクロスの様子を見てそう思う。

彩美の名前を聞いた途端に不機嫌そうだった顔に赤みが増し、乙女の様に瞳をうっとりとさせていた。







「初めて守られた……」





昔は貴族だったクロス。

貴族の子供は魔力が高いと言われ、貴族たちは子供の魔力量で己の子供の優秀さを競い合っていた。



クロスもそんな貴族の子供であった。



だが、幼い頃は魔力がなかったクロス。

クロスの父親は魔力のないクロスを実の子とは認めなかった。

母親は必死にクロスを庇っていたが、心身共に疲れ果てていたのかクロスが5歳の頃に病死した。



そして、父親は母親が死んだと同時にクロスを魔境の森に捨てたのだ。



魔境の森はSランクでも適わないとされる魔物がたくさん居る。

5歳のクロスが生きていけるわけがなかった。





―――普通ならば。





クロスはポイズンタイガーの群れに襲われていた時にその力が発揮された。



当時3Sランクだった『爆炎の覇者』ジル・クーラーが見つけた時には既にポイズンタイガーが息を引き取っていた。

ポイズンタイガーの死骸の側に居たクロスは体中がポイズンタイガーの血で汚れ、毒に犯されていたので急いでギルドに運ぶ。



ポイズンタイガーの毒は綺麗に取り除かれ身体を清めてクロスが起きるのを待った。

クロスが目覚めるまでジルはずっとクロスの側に居た。



ジルの心にあったのはクロスの心配とクロスを魔境の森に置き去りにしたであろう親への憎しみ。

年の離れた兄弟が居たジルには子供を捨てる親が居るなんて考えれなかった。

ぐっすりと眠るクロスを見つめながらジルはクロスの親になることを決意する。





そして、ジルが見つけてから1週間後にクロスは目覚めた。



ジルがクロスを見た時に感じたのは悲しみ、絶望、諦め、負の感情ばかりが幼いクロスの瞳から感じた。

幼い子供から感じ取れる感情が負の感情ばかりなのに愕然がくぜんとするジル。



ジルはクロスをぎゅっと抱き締めた。

それは、幼いクロスへの同情だったのかもしれない。





クロスが元気になった頃からジルはクロスを鍛えた。

魔力が封印されていた事に気付き、封印を解く。

クロスの魔力は5歳でありながらSランクぐらいの魔力があった。

魔力のコントロールの仕方を教え、全ての魔法を教え、様々な武器の使い方を教え、才能があったクロスはいつの間にかジルよりも強くなっていた。



そして、10歳の時に世界最強とまで呼ばれるようになったクロス。



守られていた時は約5年。

それから現在までは守られる側から守る側に変わった。





クロスにとって守られる事なんて幼い時しかなかった。

だから、彩美がクロスを守った時クロスはビックリしたのだ。

強い自分が女の子である彩美に守られた。



クロスにとっては信じられない出来事。

だが、現実にあった出来事。

クロスは一気に彩美に惹かれた。

強い自分を守れる女の子。



それは、少女が夢を見ているような王子様。

外見なんて関係ない、クロスは彩美の優しさと人を庇い守れる強さに恋をしたのだ。





「(失敗したなぁ……)」





クロスを見てシェイルの企みは失敗したのがわかった。

シェイルは彩美がクロスに惚れるように仕向けたかったのだ。

惚れてしまえばクロスと一緒に居たくなり戦闘ギルドに入ると思っていた。



しかし、実際に惚れてしまったのは彩美ではなくクロス。

どんな美女や美少女にアプローチされても靡かなかったクロスが彩美に惚れるとは思って居なかったシェイルは失敗した作戦にため息をつく。







「アヤミの居場所はどこだ?」





彩美の事をもっと知りたいと思っているクロスはシェイルに聞くが、シェイルも彩美に会ったのは二度目なのでよく知らない。

嘘をついてもクロスにはバレてしまうのでシェイルは嘘をつくことが出来なかった。







「僕には商業ギルドに登録してる事しかわからないよ」



「そうか……」





先ほど別れたばかりだがクロスは彩美に会いたくて仕方なかった。

もっと彩美を知りたい、どんな物が好きで何が嫌いか、どこに住んでいるのか、どんな人がタイプか。

クロスは初めて感じた気持ちが抑えられなかった。







「出掛けてくる。 後は頼んだ」





シェイルに声をかけるとクロスはすぐに彩美を調べる為に訓練室から出て行った。







「はぁ……」





シェイルはボロボロになった訓練室、取り残された3人を見てため息をつく。

そして、思った。







――クロス、ストーカーにはならないでね。



 
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