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第六章 【二つの世界】
6-333 二人の未来
しおりを挟む「……お前ら、いいかげんにしろ」
サヤは静かにそう告げるも、その言葉の感情は決して二人を責めている声色ではなかった。
「「はぁい!」」
そう言われた二人も、サヤがやさしい人物であると察したのか、いたずらを叱られた子供の用に二人で見つめ合って肩をすくめて笑っていた。
「ったく…もう。じゃあ、お前たちはアタシを満足させられないと……試験に受からないってことか?」
「はい。でも、もうそれもどうでもいい気がしてきました……ね?」
「え?やっぱりヴァスティーユも!?」
「ん?……なんでよ?」
「うーん……なんと言いましょうか……そうですね、一言でいうなら”満足した”と言ったところでしょうか」
「満足?なんでアンタたちが満足してんの?」
「実は、私たちのどちらかを”引き取り”希望者がいるんです。母と一緒という条件で……」
その相手は、二人が育った町に物資を卸している商人だという。
その主は母親のことを狙っていたが、ずっと断り続けられていた。
そこで、我が子の嫁にヴァスティーユとヴェスティーユのいずれかを引き入れたいとのことだった。
その相手は、既に二人が王都でメイド食に入っていることを知っており、それに見合うだけの金額を王国に支払うとも言っているらしい。
「ふーん、母親に断わられてたからアンタたちにってことかねぇ?……で、そいつ信用できるの?」
「え?えぇ……多分大きな商人の方ですし、奥様はすでにいらっしゃるようですが……」
「ほーん、じゃあそいつはアンタたちを権妻にって考えてんの?」
「ごん……さい?ですか?」
「そう、妾ってことだね。アンタたちはそれでもいいの?」
「はい……」
「特に問題はないですけど……」
サヤはその言葉で悟ったのは、この世界では当たり前のことなのだということ。
それについてはこれ以上追及しても仕方がないので、サヤは他のことを尋ねることにした。
「で、アンタたちの気持ちはどうなのよ?」
その言葉に二人は顔を見合わせて、頷いて言い辛そうに答える。
サヤは、気に入っていた先ほどまでの明るい笑顔の方が消えることに心が苦しくなった。
「どうせこのままだと、合格できないでしょうし……」
「私たちなんて、こんな場所だと排除されるだけだし」
サヤは、その言葉からなんとか二人の役に立てないか考え、ある考えを思い付く。
「ってことは、アンタたちがこの場にいれる状況になれば、妾になんてならなくてもいいってこと?」
「はい、できればこの仕事を続けたいですし」
「この仕事の方が自分たちのお金も使えるので、お母様にも仕送りができていいのです」
「……ふん。なら、決まりだね。アタシがアンタたちの仕事を続けさせてやるよ!?」
「え!?」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、もちろんよ。何ならこれからすぐにステイビルのところに言ってそう言ってこようか?」
「い、いえ!?ま、まだ今日”初めてお会いしたばかり”なのに、そこまでしていただくなんて……」
「そうですよ、サヤ様……でも、どうしてそこまで私たちのことを?」
「あ……うん。少し、知ってるやつに似てるんだ。だから、ちょっと……その……そう、親近感が!?」
「そうでしたか。サヤ様のお知り合いの方に似ているなんて光栄です!」
「そう?ま、まぁ……よろしく頼むよ」
「「はい!お任せください!!」」
二人は元気よく、サヤの言葉に応える。
しかし、サヤ頭の中に”初めて会った”という言葉がいつまでも繰り返されていた。
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