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第六章 【二つの世界】
6-324 もうひとつの世界へ
しおりを挟むその日、東の王国の城内に大きな影が警備兵たちを驚かせた。
大きな影を作ったその存在は城内の大きな広場に、ゆっくりと羽を羽ばたかせながら降り立った。
大きな竜は、背中に乗る主が下りる邪魔にならないように頭と羽を下げた。
集まってきた慌てた様子の警備兵たちの間を掻きわけ、一人の情勢が降り立った人物に声をかける。
「――あ、サヤ様!」
「……久しぶりだね、変わりない?」
「はい!おかげさまで、私は元気です!!……あれ?もう一人のお方は?」
「……そのことで話があるんだ。ステイビルを呼んでくれない?」
「え?……あ、はい!畏まりました!!!」
ミカベリーは嬉しそうに急いで城の奥へと入り、サヤが到着したことをステイビルへ取り次ぎにいく。
その間、エレーナとアルベルトがサヤの元に姿を見せ、挨拶をした後に城内へと案内する。
過去に問題の起きた大きなエントランスの先を抜け、脇にある通路に通されていく。
そして、装飾の施された豪華な通路を通り抜け、奥にある大広間へとサヤは通された。
広い空間の中に、サヤは上座の席へと案内される。
その後ろには、身体を小さくさせたモイスを自分の肩に乗せていた。
部屋の周囲は正装した警備兵たちが数名ほど壁に沿って立ち、その反対側の壁に立っていたメイドたちはサヤのために飲み物などを用意していた。
テーブルの上には、ステイビルを待つ間に用意された飲み物とお菓子が並べられている。
その品々は、サヤがこれまでこの世界で生きて来た中で、高品質のものであることは香りや味、見た目などでわかった。
(ハルナはこういうもの食べてたのかねぇ……)
同じ世界に飛ばされてきておきながら、サヤは自分とハルナとの状況の違いを頭の中で比較する。
きっとハルナは、この世界に来てからこのような食事をずっと口にしていたのだろうとサヤは考えた。
(その反対にアタシと言えば……)
サヤはこの世界に飛ばされた時、爆発の影響で身体はボロボロになっていた。
その傷の痛みや、見知らぬ場所に一人で投げ出された不安な状況から、いっそこの息を止めて楽になってしまいたいという思いさえもあった。
しかし、サヤは何とか”一命を取り留めてしまった”ために、そこから長い間の時を渡り歩くことになった。
元の世界では、いつも気にせず欲しいときに手に入っていた食料は、あの状況ではそこにある物はなんでも口にしなければ生きていけない状況となっていた。
しかし、その状況は運よくオスロガルムと出会ったことによって変わっていった。
様々な生物を取り込むことによって、サヤの空腹は感じられることがなくなっていった。
その生き物の情報と周囲の魔素を吸収することにより、サヤの身体に食事がそれほどまで必要ではなくなっていた。
そんなことを思い出しながら、サヤは目の前に綺麗並べられたクッキーのような焼き菓子をつまみ口に運び入れようとした。
「お待たせしました……サヤ様」
背後から大きな声で呼びかけられたサヤは、口の中にいれた指を離す直前の動作を止める。
そのお菓子を紅茶のカップの皿の上に置き、舌打ちをしながら声を掛けられた後ろへと身体を振り向かせた。
「っとに、タイミング悪いね……ステイビル」
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