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第六章 【二つの世界】

6-215 謝罪

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「……ふぅ」



軽蔑されたかのようなマーホンのため息に、ハルナは胸の奥が痛む。
ハルナは祈るような姿勢で、痛む胸の前を抑えながらマーホンの反応を待つ。



「もう…ハルナ様。もしかして、私と一緒に覚えた神々に捧げる祈りの言葉もお忘れになったのですか?」



「祈りの……ことば?」



ハルナは本気で首を傾げ、マーホンの言った言葉の意味が分からないといった態度を示した。


「どうやら……エレーナ様がおっしゃったことは本当のようですね」


マーホンは両手を腰に当てて頭を左右に振って、本当に困ったといった素振りを見せる。
ハルナは、そのマーホンの行動と先ほどの言葉から、相当苦労をして自分に何かの言葉を暗記させたのだろうと考えた。
だが、それは自分ではない別な自分だったため、申し訳ない気持ちとどうにもできない気持ちで心の中がざわついて収まらなかった。


マーホンは胸に手を当てて片膝を床に付き、忠誠を誓うポーズをとり頭を下げた。



「ハルナ様…なにひとつ問題ございません。私は、ハルナ様がいらっしゃるだけで、それ以上の幸せはございません。ハルナ様は違う世界からいらっしゃったとお聞きしております、今は私たちの目の前にいらっしゃることが現実であり全てなのです。ハルナ様と巡り合うことができた奇跡以上のことを望むことは罰が当たるというものです」



「マーホンさん……顔をあげてください」



ハルナの言葉に対し、マーホンは頭を下げたままだった。
ハルナはマーホンに近付いて、両肩に手を置いて身体を引き起こした。



「ありがとうございます……こんな私に、ここまでしていただいて。エレーナから聞いたのですが、私が”知らない”間も私に尽くしていただいてたようで……私が知らないことは本当に申し訳ないと思っています……ですけど、そこまでしていただき……本当に感謝っていう言葉だけでは……足りないくらい……」



「は……ハルナ……さま」


ハルナの目からは、湧き出る涙が留めることもできずに、頬を流れ落ちていく。
どんな時にでも自分の味方になってくれているマーホンやエレーナなどの仲間たちの気持ちと、そのことを覚えていない期間が自分にあるという申し訳ない気持ちが、涙となって流れだしていた。


マーホンは綺麗な布を取り出して、ハルナの涙を優しく拭い取る。
そのマーホンも目が真っ赤に染まり、いままさに涙が溢れて流れ落ちようとしていた。
エレーナもその姿に胸が苦しくなってしまったが、この先のことを考えると感情だけに流されてはいけないと必死にこらえていた。


この場の空気が落ち着いた頃、ソフィーネは全員をテーブルに案内し、気持ちの落ち着く香りのするお茶を用意した。



「では……王選の後のことは、全く記憶にないということですね?」


「はい、そうなんです」


「それに関しては、あの”ハルナ”が一体何だったのかっていう疑問はまだあるんだけど、ちょっとそれどころじゃないのよね」


「そうですね……ハルナ様がステイビル王との婚姻の件を理解されていないのであれば……今までのことだけでなく、今起きていることも意味がなくなってしまうというか」


「そうなのよ、マーホン。とにかくこの争いを止めないとただ傷つけあって終わるだけになるかもしれないし」


「そうですね、とにかくエレーナ様はステイビル様に同行された方がよろしいかと思います。ハルナ様は……いままで通り私と一緒にいる方が良さそうですね」




とりあえずハルナはここに残り、エレーナはステイビルと共にグラキアラムへ向かうこととなった。
ハルナのことは伏せたままにして。











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