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第六章 【二つの世界】
6-186 質問
しおりを挟む「いま、好きな人っているの?」
「……はぁ?」
「え?サヤちゃん……いま好きな人っているのか……って」
「アンタの声は聞こえてるんだよ!アタシがアンタに聞きたいの、アンタの頭の中が大丈夫かってことよ!?」
「ご、ごめん……」
「ったく、アンタは気楽でいいね」
「何か……あったの?」
「!?……いや、なんでもないんだけどさ。それよりもハルナ、アンタ元の世界に帰りたい?」
「元の世界……んーどっちの?東京?それともこの世界の前の方?」
自分でそう言っておきながら、ハルナの中でサヤからの質問の答えは、昔ほど迷わなかった。
だけど、少しでも自分が知らない可能性とその方法があるのなら、聞いておきたいと思いハルナはサヤに質問で返した。
「ここがどこだか判らないのに、そんなことできると思ってんの!?後者よ、後者」
「あ、やっぱり……」
「で、どうなの?戻りたい?このままこの世界に残る?」
「んー……わからない。でも、どうして急にそんなことを?」
「別に……ちょっと思っただけ。でも、もし”そうなった時にどうするか?”ってのは、考えておくのは必要だろ?」
「ま、まぁね。だったら、いまは”本当”のエレーナの元へ帰りたいかな」
「ま、そうだよね。アタシだって、もしあの町に戻れたとして……生きているかわからないし」
ハルナの頭に、あることを思い出した。
サヤはハルナよりもずっと、気が遠くなるほどの時間をずっと自分のことを知る者がいない世界で過ごしてきたということを。
その時間は、元いた世界……不慮の事故によって失われてしまった身体で過ごしていた時間よりも永い時間を過ごしてきた。
そう考えれば、こちらの世界の”自分”の方が本物の自分であるというふうに認識しているだろう。
実際にハルナも、この世界に慣れてきており、元にいた世界のことなど思い出すことも無くなってきた。
あんなに一緒に過ごして、かわいがっていた妹の存在すら、努力やきっかけがないと思い返すこともなくない。
それだけこの世界で起きていることの衝撃の大きさが、自分の中身を変えていったのかもしれないとハルナは考えていた。
「で、なんなの?さっきの質問は……さ?」
「うん……この世界に来てさ。好きになった人っているのかなって、そう思っただけなんだけど?」
その言葉にサヤは、腕を組んで目を閉じながら考える動作をする。
「うーん……好きな人っていう定義があいまいなんだけど、恋愛対象っていうならいないな。だけどさ、アンタ考えたことないの?」
「……え?なにを?」
サヤは、あっけにとられるハルナの表情に呆れて肩をすくませる。
「何を……って。アタシたちは違う世界から来たんだよ?この世界の生き物と違うことがあるとか考えてたことないの!?」
「あ……確かに」
「食事や生活様式とか似てるところがあるけどさ、全くウチらと同じ遺伝子の構造をしてないかもしれないじゃない?だとしたら、子供ができるかもわからないしいつまでアタシたちは生きていけるか判らないのにさ、迂闊なことできないじゃない!?」
そのサヤの説明に、ハルナは納得することが多かった。
婚姻という制度はこの世界にもあるが、実際に交わった際に何が起きるのか誰も判らない。
ハルナは自分の存在がこの世界のものではないと再認識し、浮かれていた自分の気持ちが沈んでいくのを感じていた。
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(追記.2018.06.24)
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お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
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