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第六章 【二つの世界】
6-178 見覚えのある者24
しおりを挟む「で……こいつは?」
「あぁ?なんだお前は?俺が誰だか……」
「「――あ!?」」
男は一瞬にして、エレーナやアルベルトたちの視界から姿を消す。
何が起きたのか理解できなかったエレーナたちは、その現象に力の抜けた短い声で反応した。
しかし、その次にサヤたちがこの現象に対し、なんの反応を見せていないことから、ここにいる二人の女性……ハルナかサヤのどちらかのやったことではないかと推測する。
「さ、サヤちゃん?」
「あぁ、ちょっとした”躾”だね。ああいう類はこういう圧倒的な力を見せた方がゴチャゴチャいうより効果的なんだよ……たぶんね」
アルベルトも同じことを考えていた……だからこそ、あの男の挑戦を受けて立った。
あの男の剣を受けている中で、あの男に邪心はないと判断する。
通常、邪心を持つ者はなめてかかってきたり、卑怯な手を使ってきたりする。
しかしあの男は、ただ一心に自分の力をアルベルトにぶつけていた。
それはきっと、これまでもの戦いもそうだったのだろう
相手から挑戦を受ける時も、今回のように挑戦を望んだ時も。この男はただ強さを求めるために、常に全力で立ち向かってきたのだとアルベルトは悟った。
そして、目の前にいる人物は”実力を見るまでは侮ってはいけない”という基本的な行動をあの男は間違って選択してしまっただけなのだ。だが、それですぐに”姿を消してしまう”サヤと呼ばれる女性の行動はどうかと思った。
「……そろそろいいかね」
そういうと、あの男は再びここにいる全ての者たちの前に姿を現した。
男は何が起きたのかわからず、四つん這いになって再び”自分の身体がある世界”に戻ってきたことに戸惑ていた。
「な、何をしたのですか?」
エレーナはこの状況を創り出したのが、近くにいた女性に”サヤ”と呼ばれていた人物であると判断し、その者に何をやったのか問い質した。
「ん?……あぁ。こいつに暗闇の中でたった一人でいてもらったんだよ。何もない意識だけの状態で”何時間”も……ね」
「……?」
エレーナもミカベリーも、”何時間”という言葉に疑問を感じている。
今目の前で男が消えて再び現れるまで、わずか五分程度の時間だったはず。
しかし再び姿を現した男の姿を見れば、何時間という言葉が当てはまるほどの疲労感を見せている。
サヤはこの男に、意識以外の感覚がなく呼吸なども必要がない真っ暗な闇の中で、数時間の孤独を味わってもらっていた。
「ちょっと、アンタ。口の利き方……気を付けなよ?」
「は……はいぃ!!」
そう声を掛けられた男は、あっさりとサヤに従順の意を示した。
「……アンタ、名前は?」
「はっ!私の名は、”ガレム”と申します」
サヤはハルナに目線を送り、この名を知っているかどうか聞いた。
ハルナは小さく首を数回振り、その名に覚えがないことを返した。
ステイビルもアルベルトも、その名に覚えはないという。
ステイビルやエレーナと異なり、この世界だけの人物ということも考えられるが、それは後回しにすることにした。
この男は直前でアルベルトに勝負を挑んで負け、アルベルトにその技術を教えてもらおうとしてこの場に残ったことを説明した。
しかし、アルベルトはそんな相手の希望は聞いていなかったため困惑の表情を見せていた。
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