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第六章 【二つの世界】

6-172 見覚えのある者18

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「ま……まさか?」


「負けて……しまったのか?」




周囲で見ていた兵士たちからは、目の前で起きたことが信じられないと言った声が多数聞こえてくる。

つい先ほどまで、自分たちでは付いていくことのできない攻防を繰り広げていた二人の奥に、赤子を抱いた女性が自らの夫が成した完全勝利に対して満面の笑みを浮かべている。
その表情が、信じられない出来事が現実であることを嫌というほど判らせてくれていた。




事が終ったアルベルトは、ゆっくりと剣を腰の鞘に納めていく。
そして、今まで戦っていた相手がショックのせいなのか、それともアルベルト対峙したことによる疲労なのか……男は両膝を膝を付き、弾き飛ばされた剣がなくなり自由になった両手を床について身体を支えている。

アルベルトは――後ろの二人や周囲の兵たちに当たらないよう――弾き飛ばした剣を拾い、男の前にそっと置いた。
そして、エレーナとミカベリーの傍まで戻り、再び離れて見守っていた隊長の方へ身体を向ける。


「さて……まだ続けるか?」



あれだけ激しい戦いを行った後だが、アルベルトの声も呼吸も落ち着いている。
そんな冷静な声が、隊長の耳に届きこれからどのような対応を取るべきか思考が定まらないなか、別な方向から自分あてに声が届いた。



「隊長……」


その声は隊長の前で蹲っている、いまアルベルトから敗北を受けた男の声だった。
たった今負けた兵士からの声、何事かと不安になる。
王からの命令によってフレイガルの町にやってきて、これまで指示に対して何の成果もあげられていない。
更には命令に無いアルベルトと戦わせたことに対し、王国の代表として戦った自慢の戦力が通用しなかった。これは自分の命令ではなく”部下の失敗”ともいえる結果だが、王国の負けとなった結果はこの町を”攻略”する命令を受けた者としては許される結果ではないの確かだった。

声を掛けられた隊長は、勝手に行動を起こし王国の戦果を汚した男に対して怒りを覚えつつもそれを抑え、気を使いながら声に応じた。





「な……なんだ?あぁ、お……お前はよくやっ……」


「すまないが、俺……今から騎士団抜けさせてもらうわ」


「「……?」」




その言葉を聞き、隊長を含めてこの場にいる全ての兵士たちが、男の言葉について誰もが瞬時に理解ができなかった。

そのことに対し全ての者が反応に困っている中、隊長だけが自分の地位のプライドからか、男に言葉を返すことができた。



「な、何を言ってるんだ!?一度負けたくらいで……また、鍛えてやり直せば」


「隊長さんよぉ……アンタの目は飾り物か?」


「――?」


「今目の前で俺が戦ってきたことが、今までの俺のような”やり方”で越えられると思っているのか?」


「っ!?」





隊長は知っている、単純な武力としては自分はこの男に敵わないということを。
だが、隊長もこの地位に就くまでにそれなりの武術を磨き、それだけでは足りないということで戦略的な知識を身に付けることによってこの地位まで上り詰めた。
それを踏まえた上で、様々な強敵を倒してきたこの男のやり方ものし上がっていくための一つの方法であると認めている。
その方法が正しいかどうかと問われれば、今の力を発揮している結果からして正しいと言わざるを得ない。しかし、この男はその答えでは満足しないということも知っている。


だからこそ、男からの問いに返すことができなかった。





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