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第六章 【二つの世界】
6-157 見覚えのある者3
しおりを挟む「アルベルト様とエレーナ様にステイビル王子……いえ、ステイビル様の捕獲命令が出され、それを……」
「拒否したというのか?」
「いいえ。まだ王国に対しては正式な返答はしておりません。ですが、その時に予測できなかった……いえ、ちょっとした出来事がございまして」
もったいぶるようなはっきりしない物言いに、サヤの表情はイラっとした影を見せる。
その空気を察したステイビルはサヤのことを知らないメイヤに対して、なんとかフォローをしようと努力する。
「ちょっとした出来事?それは一体」
「エレーナ様が出産の予兆が来まして」
「何!?そうか……それで、無事に生まれたのか!?」
「申し訳ございません、そこまでは」
ハルナは一番知りたかった情報を聞けずに落胆したが、変な態度を見せることはできないため、何とか持ち堪えてみせた。
メイヤは痛みに堪えながら、このことをステイビルに伝えるようにと指示を出したという。
フレイガルでの新しい生活で、メイドは全て王国から派遣された者たちばかりだった。
身重であるエレーナを母親とも一緒にさせなかったことから、王国はエレーナとアルベルトを監視して自由にさせないようにという意図がみえた。
エレーナとアルベルトは、ステイビル側で重要人物であると言われていた。
その二人の能力は認めて役職に付けさせることによって、王国への反抗とその行動を監視させていたのだった。
さらに言えば、エレーナが子供を授かったことにより、二人はわが子の安全を確保するために決して無茶な行動はとらないだろうとキャスメルは考えていた。
そのため、今回陣痛が来たことにより、アルベルトとエレーナの行動は子供の誕生によって抑止されるだろうと考え、本来の目的を修正して討伐の作戦の返答を待つことにした。
当然ながらエレーナとアルベルトも、キャスメルが考えていることはわかっていた。
だからこそ、この身籠った状況を有効活用しメイヤをフレイガルの地に同行させていた。
当初は許可が下りなかったが、新しいメイドたちではエレーナが必要とする際にすぐには動いてくれない。だからエレーナのことを良く知るメイヤを、この地に同行させてもらった。
しかもメイヤ自身は戦闘能力も特殊技能も何も持っていない……王国もそれほど重要度が高くない人物として認定し、出産を終えて人弾ラスクルまでの間という条件付きでエレーナの近くに置いておくことが許された。
そして今、エレーナはそのチャンスを生かす時が来たと判断した。
隠し通路からメイヤを逃がし、メイヤをステイビルの元へ向かわせたのだという。
エレーナはメイヤは、戦闘や体力的な技能は持ち合わせていないが、負けず嫌いで努力家であることを知っている。
だからこそ、メイヤは徒歩での移動になるだろうが、その努力によって必ずステイビルの元へ到達できると信じており、そのことを出発前にメイヤに伝えていた。
「……なるほどな」
「ステイビル様……まもなく大勢の兵がやってまいります。すぐにここよりお逃げくださいませ!」
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