上 下
913 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-140 侵略7

しおりを挟む














『ステイビルが言ったことは、この私、”風の大精霊ラファエル”の名において保証いたします』





「――!?」




いま、男の目の前で出来事が信じられないことばかり起こっている。
そのことを整理するために、必死に心を落ち着かせようとしていた。きっといま、自分の背後に部下の者がいなければ、その驚きに声を出してしまいそうなほどだった。

最終的には、この世界では伝説の存在である大精霊を間近で目にしていることだった。
気付けば後ろの部下たちも、目の前の状況に何とか声を出さずにいることで、敵に対して自分たちの威厳を保つために必死な抵抗を見せていた。


男は迷っている……大精霊という存在が、ステイビルのことを保証をするという。
その言葉を否定することは、この世界を否定することにも等しい。
それだけこの世界の人々にとって大精霊とは絶対的な存在であり、国王よりも高い場所に君臨する存在だった。
それがいま、目の前に現れて自分に対して保証をするという。
既に男が持つ権限以上の判断を委ねられ、どうしようもできないと思ったその時……



「……よい、下がれ」


後ろから、聞き慣れた声がした。



「ははっ!!」



男はその存在の確認するまでもなく、地面に片膝を付いて反対側の拳を地面に付けて頭を下げた。




「キャスメル……」

「馴れ馴れしいぞ……我は東の王国の王であるぞ。本来ならば平伏すのが王に対する礼儀ではないのか?」



キャスメルの言葉を聞いてもステイビルを初め、他の亜人たちはキャスメルの言葉に従う素振りは見せない。


「なんとも野蛮で礼儀知らずな者たちだな、ステイビル。まぁ、お前についている者たちとしてはそれくらいの方がちょうどよいのかもしれんがな……にしても、まさかラファエル様までも。これは一体どういうことなのですかな?」


『……』


「なるほど……どのような理由かはわかりませんが、ステイビルに脅され仕方なく従っている……ということなのですかな?」


『……』


二度の問い掛けに応じないラファエルの反応を見て、キャスメルはその対象が自分よりも上位の存在とは思わないようなため息をつき、諦めたように肩をすくめた。


「ふぅ……そうですか?せっかく他の神々たちが行っている我が国の防衛に対する妨害については目を瞑るつもりでいたのですが……どうやら本気で”我々”を裏切るおつもりなのですね?」


「きさm……!?」


イナについていたデイムは、我慢の限界であると、自分たちの新しい主とこの世界の秩序の一人であるラファエルを侮辱したキャスメルに対し反応を見せようとした。
その行動は、自分の直属の上司であるイナが制した。


「あなたの言葉には、嘘は観られません……ですが、これはあなた方よりも長く生きてきた勘から、あなたの言動は信頼することができません」


「ほう……では、どうする?」



イナがキャスメルからの質問に対して返答をしようとした……だが、今度はそれをステイビルが止める。
ステイビルは今までに見せたことのない、責任者としての態度ではなく誤った行動をとろうとする友人を叱るような口調でキャスメルに返した。



「どうもしないさ……キャスメル。だが、お前が俺たちの村を壊滅させるつもりならば、抵抗する……徹底的にな!」









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

天明奇聞 ~たとえば意知が死ななかったら~

ご隠居
歴史・時代
タイトル通りです。意知が暗殺されなかったら(助かったら)という架空小説です。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆ ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

婚約者を奪い取ってくれて、ありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
※申し訳ございません。現在心臓の不調によりログインできる時間がとても短くなってしまっているため、一部のお話の感想欄を閉じております。  わたし達の家『サンオーレア子爵家』はかつておじい様が陥れられて事業に失敗し、その元凶であるフェルオ伯爵家に多額の借金をしていた。その結果嫡男であるウィリアム様に目をつけられた際にそこを利用され、わたしは強引に婚約させられる羽目になってしまったのです。  そんなウィリアム様は自己中心的で、格上には媚びそのストレスを格下で発散する最低な性格の持ち主。加えて最愛の幼馴染との関係を絶たれてこんな人と過ごすことになったため、わたしは憂鬱な日々を過ごしていました。  でも――。 「キャロライン。俺はカミラと婚約し、結婚をすると決めた」  突然ウィリアム様が婚約を解消すると言い出し、わたしの日常は大きく変化してゆくことになるのでした。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...