上 下
670 / 1,278
第五章 【魔神】

5-61 瘴気の渦

しおりを挟む







今のこの場で動けたのは、ステイビルだけだった。
シュナイドも守ろうとした、サナの傍にいたためこの場にいる者すべてを守り切ることができない。
ブレスで対抗しようとしても、この位置からであればその前にいる人間も攻撃が及んでしまう。
であれば、自身つながりを持つサナと、サナが大切にしているエルフだけでも守ることが重要と判断した。


この場面では、この中で一番守らなければならない人物。
その人物が他の者たちを守るために、自らが危険……捨て身の覚悟で一枚の盾だけで魔物の攻撃に立ち向かった。

ハルナは手を伸ばしたが、そこからすでにどうすることもできないことに気付く。
視界の中心にいるステイビルの背中と、視界の端から迫ってくる黒いブレスの距離がスローモーションで近付いていく。
ハルナはその背中にそっと手を乗せた、ステイビルに軌跡が起きることを祈って。


その時、ハルナの指に嵌めた指輪に熱を感じると、ステイビルの背中に力が流れ込むのを感じる。
次の瞬間、ステイビルの構えた盾が光り始めた。
その光は、フウカが瘴気を消し去る時に出す光と同じ輝きを見せる。



オスロガルムのブレスは広範囲に襲い掛かってきたが、全てステイビルが構えるたった一枚の盾に塞がれていた。
シュナイドがオスロガルムに対して行った攻撃は避けるようにしていたが、これは盾の何らかの力によってオスロガルムの攻撃を防いでいた。

その様子を見て、自分の攻撃が意味をなさないと理解するとその行為をやめた。

そして目の前のステイビルたちが、無傷であると知ると自分の力によって簡単に消滅させることができなかったことへの怒りと、それとは別に他のことに対して怒りを覚えている。



『む!?……なんだその盾は!?そんなものがあるとは聞いておらんぞ!!……くっ、あやつめぇ、ワシを騙しおったなぁ!!』


怒りの叫びによって、周囲の家具がその圧で吹き飛ばされていく。
ステイビルたちもその圧は先ほどの瘴気のブレスとは違い、空気の圧によるもののために盾の力によって守られることなく物理的に防御をするほかない。


オスロガルムの背後には窓があり、その窓は先ほどの圧で吹き飛ばされていた。
そこからは城外の様子が見え、数匹の魔物が上空で旋回をしながら交代で攻撃を仕掛けている様子が見える。
王都に入り込んだ兵たちが交戦しているのだろうと思うが、無事を祈るだけで今は目の前の強敵に対しての対応をどうするべきかに思考を巡らせる。


そして、オスロガルムは杖を持つ手を変え、先ほどとは違う黒い瘴気を創り出した。


『……お前たちの相手は、いずれしてやろう。それまでその命大切にするがいい。つまらんものだが、これをやろう』


そういって創り出した瘴気の渦を目の前に放り投げる。
それに触れるものは、全てその渦の中に吸い込まれていった。


『フハハハハ……もしもお前たちがこれから逃れることができたならばな!!』


そういってオスロガルムは、背中の羽を広げて宙に浮く。


「ま……まて!」


ステイビルの呼びかけにも応じず、オスロガルムは窓の外から飛び立っていった。
数回背中の羽をはばたかせると、上空へと昇りその姿が窓から消えた。



「これって……あの時の!?」


そう告げたのは、体勢を立て直し状況を見守っていたエレーナだった。



「エレーナ、これを見たことがあるのか!?これは一体何だ!!」



「これは、触れたものを……すべて飲み込む瘴気です!」


依然見たことがあると一言だけ告げ、この存在について説明をした。
その間にも黒い瘴気の渦は、ステイビルたちに迫りながら触れるものを小さな渦の中に飲み込みこんでいる。



「それで……どうすればこれは消すことができるのだ!?」


その質問に対して、エレーナはハルナの顔を伺う。
ステイビルは”やはりハルナか!”と期待を込めた視線を送るが、送られたハルナの方の顔は浮かない顔をしている。


「あの時は、大精霊様に助けていただいたんです……!大精霊様の言われた通りにやっただけで……」


「なに?……それでは、いまこれを止める方法が……ないというのか!?」


ステイビルの背中には、冷たい汗が流れ落ちた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...